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山手線の網棚とキセルのチケット
子どものころから忘れ物ばかりしていた。
たぶんADHDなんだと思う。
大人になってからもあらゆるものを忘れてきて、パソコンや財布が入った鞄を電車の中に置き忘れたことも何度もある。(でも、ありがたいことに、毎回、一週間か十日あとに毎回、戻ってきた)。
そのうちの、思い出深いひとつ。
10年くらい前のことだったかな?
「キセル」というミュージシャンの兄弟ユニットが好きで、彼らのライブを恵比寿のリキッドルームというライブハウスに観に行こうと、パートナーと山手線に乗っていた。
そして降りたら、鞄がなかった。
鞄のなかにはパソコンが入っていただけでなく、ライブのチケットが入ったクリアファイルも入れていたので、青くなった。けど、とりあえずライブに間に合うようにライブハウスに行かなくちゃ!と、行った。
そして受付で、「チケットの入った鞄を電車に置き忘れちゃったんですけど、どうしてもライブを観たいんです!」と言った。
そうしたら、具体的なことは忘れてしまったけれど、たしか住所と電話番号を書いて、「チケットが見つかったら送ってください」と言われたんだったかな? 私は「もし見つからなかったらお金を送ります」と言ったのだったか? とにかく、チケットがないにもかかわらず、会場に入ることができた。(今だったら無理なんじゃないかな?)
ライブは、すばらしかった。
キセルのふたりの声が、曲が進むにつれて、どんどん伸びやかに響いてきて、ふたりが弾くギターとベースも格好良くて…。
そして、1時間半くらい後、何かご飯も軽く食べてからだったかな? ほかほかとあったまった気持ちで駅に向かい、
「鞄を探さなくちゃ」と、駅の窓口に聞きに行こうとした。(当時、JRのお忘れ物センターはあったと思うけど、今ほどシステマチックには機能していなかったと思う)。
するとパートナーが「いやちょっと待って。とりあえずホームに行こう。私、探してみる!」と言う。
私は「???」「どうやって?」と。
なんせ山手線。10分と間隔をあけずに次々と来て、1時間かけて一周してさらにぐるぐると回り続ける電車。
私の鞄はまだ、山手線のどこかを走っているおそらく数十本の電車のどこかに乗っていると思うけど、それを、今、見つけることなんて、できるはずなくない?
と、思ったが、彼女は真剣に、ホームの、私たちが降りた場所に立って、入ってきた電車の中を見る。
そして3本目か4本目の電車が来て中を見て「あった!」と叫んで、
私の手を取ってドアから中に入って、網棚から私の鞄をおろした。
中にはパソコンも、キセルのライブのチケットも、ちゃんと入っていた‼︎
ライブの後の高揚感とともに、信じられないような本当のできごとでした。
キセルの代表曲のひとつの、ライブバージョンを貼っておきます。
これも。