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『ネオ日本食』刊行に寄せて


◎ネオ日本食とは何か?

『ネオ日本食』の発売から約1ヶ月が経ちました。
 すでに手に取ってくださった方、本当にありがとうございます。
「まだチェックしていないよ!」「ていうか、ネオ日本食ってなに?」という方、ようこそおいでくださいました。より多くの方がネオ日本食の世界に興味を持つきっかけを作りたくて「まえがきのまえがき」のようなものを書いてみました。

「海外から持ち込まれたはずなのに日本で独自の進化を遂げ、わたしたちの食文化にすっかり溶け込んでいる食べ物&飲み物」を「ネオ日本食」と名付け、作り手への取材を行い、日本のユニークで愛すべき食文化についてあれこれ考察したのが、『ネオ日本食』という本です。

 主軸となっているのは、お店・メーカーへの取材とインタビューです。著者はわたしですが、主役はあくまでネオ日本食の料理人やメーカーの方々。文化論と銘打っている本書ですが、わたしが持論をダラダラと披露しているわけはないのでご安心ください(そんなことをしているヒマがあったら、インタビュイーのことばをもっと紹介したい)。

 ちょっと心配しているのは、新概念を提唱するタイプの本なので、とっつきにくい、のみこみにくいところがあるんじゃないかということです。それを感じたのは、TBSラジオの「アトロク2」こと「アフターシックスジャンクション2」でネオ日本食特集をやらせてもらったときでした(2024年4月1日放送/アーカイブのPodcastはこちら。本を読む前の状態だと「あれはネオ日本食なの? ちがうの? どっちなの!」と、モヤモヤするメニューもありそうだなと。

 このモヤモヤについてどう対処すべきか、あれからずっと考えておりました。まず、前提として、わたしはネオ日本食の提唱者ではあるけれども、ある種の権威を振りかざして上から目線で「これはネオ日本食」「これはネオ日本食じゃない」と厳格にジャッジすることは避けたいと思っているんですね。みなさんと一緒に、「ネオってるなあ!」とか「そうでもないんじゃない?」とか言い合いながら、ともにこの新概念を磨き上げていきたいのです。

『パンケーキ・ノート』という本を出したとき(2013年)も、パンケーキの紹介者にはなりたいけど権威にはなりたくなくて、お店や商品のプロデュースを断ったりしているわたしなので、そこはどうか信じてください。パンケーキの生態系をみなさんと見守り、おいしく食べながら保全していくことを昔も今も望んでいます。

 とはいえ、ネオ日本食に関して、著者としてすぐに解消できそうなモヤモヤもありますので、ここで簡単にご説明できればと思います(権威っぽくならないように気をつけながら)。

◎ネオ日本食の例=洋食/菓子・惣菜パン/チャーハン

 まず、洋食について。これは、ネオ日本食の中では最も可視化された領域であり、先行文献もたくさんあるジャンルです。たとえるなら、ネオ日本食という世界の中で、一番大きくて目立つ大陸が洋食、という感じです。そもそも「洋食」という名前がちゃんとついている時点で、超メジャーと言っていい。なお、わたしの本では、王道の洋食ではなく、「和に寄せた洋食」を、より「ネオりが強い」ものと捉え、注目しています。「アトロク2」の中でも、お米に合わせて食べる洋食を積極的にご紹介しました。

 つぎに、菓子パン、惣菜パンについて。食パンやコッペパンがわかりやすいのですが、あれは日本で独自進化したパンです。そこに中華麺をソースで炒めたものを挟み込もうもんなら……何重にもネオった食べ物なのがおわかりいただけますでしょうか。ソース焼きそばについてはいくつか文献があり、読むと戦後のドサクサ期にネオったことがわかるのですが、現在ではわたしたちの食生活に馴染みすぎているため、そのネオりっぷりに気づかず食べてしまえるすごさがあります。ネオ日本食の神髄はそのステルス性にある、と言えるかもしれません。

 チャーハンついては「どう考えても中華だろう!」というツッコミが入りそうです。そのお気持ち、よくわかります。しかし、本場のチャーハンはお米がパラパラであることにとくにこだわってはいませんし、具材や味付けもバラエティに富んでいます。一方、日本のチャーハンには、基本的な型があるように思われますし、しかもそこにカマボコやなるとが入ってくる場合もあるわけです。他のネオ日本食にくらべると、ネオりが少々控えめですので、ネオ日本食とは認めない、という向きもあるかなと思います。それはそれでOKです。きれいに線引きできない領域があることも、この国の食文化の豊かさを示すものだと思います。

◎ネオ日本食は生活に溶け込んでいる!

 拙著の中では、和食/洋食の二分法では括れない、たらこスパやホイスや名古屋めしといった食べ物&飲み物が登場します。このあたりを読んでいただけますと、ネオ日本食の豊穣にして愉快な世界をより深く知ることができるかと思います。

 ネオ日本食と呼びうるものがすでに世の中にはあって、しかしあまりにわれわれの生活に溶け込んでいるがゆえに、ぜんぜん気にならない、という状況を一度俯瞰で見てみたら、かなりおもしろいことになるのではないかなあ、作り手のみなさんの言葉を通じて、それを読者に伝えたいなあ、という思いで本書を作りました。ゆっくりじっくり作っていたら10年かかってしまいましたが、10年たってもまだ飽きてないし、知りたいことがもっとある。しかし、ひとまずは、本書にご登場くださったみなさんの言葉を通じて、ネオ日本食という、この不思議でおいしい世界に触れてみてもらえれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします!

◎書籍『ネオ日本食』について

全国書店にて発売中! 1980円(税込)

ユネスコ*は、
「ネオ日本食」を見落としている。

*無形文化遺産に「和食」を登録 

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「ネオ日本食」とは:海外から持ち込まれたはずなのに
日本で独自の進化を遂げ、わたしたちの食文化にすっかり
溶け込んでいる食べ物&飲み物。
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B級グルメ、せんべろ、町中華、ヌン活――
フード界の次なる最注目キーワードは「ネオ日本食」だ!
 
かつてパンケーキ・ブームを牽引したトミヤマユキコが見出した“新概念”。
本書は、その歴史・魅力・美味しさを徹底的に取材し描き切った、読みものとしても一級の渾身作です。
 
さあ、身近なのに広大な「#ネオ日本食」の世界へ!
  
[登場する店/会社/人とテーマ]
・「ホットケーキ」 珈琲ワンモア
・「パフェ」 浅煎りコーヒーと自然派ワイン Typica
・「たらこスパゲティ」 スパゲティ ダン
・「ランチパック」 山崎製パン株式会社
・「ホイス」 有限会社ジィ・ティ・ユー
・「餃子」 ホワイト餃子 野田本店
・「カツレツ」 ぽん多本家
・「カレー」 インタビュー=稲田俊輔
+ナポリタン、名古屋めし等の論考も!

あなたの好きな、ネオ日本食はなんですか?

【購入はコチラから】
https://littlemore.co.jp/isbn9784898155844

◎著者・トミヤマユキコさんについて

1979年、秋田県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科に進み、少女マンガにおける女性労働表象の研究で博士号(文学)取得。現在、東北芸術工科大学芸術学部准教授。ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーについて書く一方、大学教員として、少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当している。2021年から手塚治虫文化賞選考委員。24年からNHK高校講座「家庭総合」(NHK Eテレ)でMC。主な著作に『パンケーキ・ノート おいしいパンケーキ案内100』(リトルモア)、『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)、『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)、『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)、『10代の悩みに効くマンガ、あります!』(岩波ジュニア新書)、『女子マンガに答えがある「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(中央公論新社)、『労働系女子マンガ論!』(タバブックス)、『文庫版 大学1年生の歩き方』(清田隆之との共著、集英社文庫)などがある。



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