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祝!ホイス イベント開催決定      書籍『ネオ日本食』無料公開

 来る6月1日、六本木・文喫で、トミヤマユキコさんと後藤竜馬さんのトークショウが開催されることを記念して、書籍『ネオ日本食』の一部を無料公開します。

 後藤さんは、あのネオ日本「酒」=ホイスを一子相伝で受け継ぐ後藤商店(現在・有限会社ジィ・ティ・ユー)の3代目社長です。戦後、質の良いお酒が入手しづらい中、ウイスキーの代わりに焼酎で割ってもハイボールのような爽快な飲み口を楽しめる「割り材*」として誕生したのが「ホイス」でした。『ネオ日本食』では、その驚きの誕生話や、初代、二代目の個性豊かな人となり、受け継がれる経営哲学などを、たっぷり伺いましたが、その一部を以下に公開します。

 文喫のイベントでは、なんと幻とも言われるホイスを味わうこともできます!(幻、である理由はぜひ書籍でご確認ください)。実はシベリア鉄道や第二次世界大戦と切っても切れない関係にあるホイス。書籍のわずなスペースでは語り尽くせなかったドラマがきっとまだあるはず。みなさん、ぜひお誘い合わせのうえ、お越しください。
(ちなみに六本木でホイスが飲めるのは、文喫だけだとか)

*「割り材」とは「酒を割って飲むための炭酸水や果汁など」が辞書的な意味だが、呑兵衛にとっては、サワーやハイボールやチューハイに使われる専用のエキス、ノンアルコールの清涼飲料水だけど、そのままは飲んだりはせず必ず何かを割るやつ、を言う。

(以下、トミヤマユキコ著『ネオ日本食』リトルモア刊より)
(前略)

そしてホイスの誕生

 後藤商店が梅乃甘精を作った1948年には、コクカ飲料(現・ホッピービバレッジ)がホッピーを発売している。また、天羽飲料製造も52年に「ハイボールA」(焼酎ハイボール用のエキス)を発売。この頃から割り材の選択肢はどんどん増えていった。その流れの中でホイスも誕生することになる。
「梅乃甘精が出てから1年後に、祖父はもっとおもしろくて深みのあるものを作ろうと思い立ちます。やっぱり海外渡航中に飲んだ洋酒がおいしかったんだと思うんですよ。それでものすごい量のお酒の知識を頭に入れていた。いまだったらインターネットで調べれば、このお酒の原材料は何かって、すぐにわかると思うんですけど、そういう手段のない時代に何千種類ものお酒の知識を手に入れて帰国しているんですよね。ホイスの原材料についてはあまり詳しく言えないんですけど、シベリア鉄道旅行のライン上にある国々の有名なお酒とかスパイスとかそういうものが全部取り入れられています。お酒で言うと、イタリアンベルモットやアブサン。他にも漢方とか生薬ですね。それらを武夫さんなりの味覚でおいしく飲めるように調整しているんです」
 ということは、ウイスキーの代用品とはちょっと違うんだろうか。
「ウイスキーに寄せようという考えはあったと思うんですけれど、ウイスキー自体を作ろうとはしていなかったんじゃないでしょうか。香りや味もかなり複雑で、いろんなものを入れてるんですよね。何かの要素を少しでも強くしてしまうと、こういうまとまり方にはならない。いろんな要素が複雑に折り重なっているからこそ、ああいう仕上がりになるんです」
 多くのネオ日本食は、日本にいる作り手がときに知識も材料も足りない中でどうにか海外のものっぽい料理を作ろうとすることによってガラパゴス的なおいしさを生み出してきた。武夫さんがユニークなのは、ウイスキーにただ寄せようとするんじゃなく、むしろ遠くに感じさせる程度にしておき、あとは自分の理想をとことん追求していった点だ。ホイスは武夫さんだからこそ作り得た、本当に特別なネオ日本酒だと思う。
「いろんな国のいろんなものを味わった上で、その情報をぎゅっとまとめたんだと思うんですけど、他のひとだったらまとめきれないほど複雑です。計量してバランスよく調合したつもりでも、それだけじゃひっちゃかめっちゃかな味になります。検査機なんかない時代に自分の頭だけでいろんな解析とか計算ができたひとなんだと思いますね。あと、かなりお酒が飲めたと思います。僕も毎日のように研究してるんですけど、やっぱり人間なんで、飲める量が限られてるじゃないですか。1日2杯ぐらい飲んだら、きょうはもういいかなってなっちゃう(笑)。祖父は、豊富な知識があった上に、お酒も強かった。じゃないと梅乃甘精からたった1年でこれだけのものは作れないと思います」
 さらに武夫さんの超人的な能力は、周りのひとまで動かしていく。
「ホイスに入れる炭酸水がないからっていうのでドイツの知り合いに電話して、機械を輸入して、後輩かなんかに工場をやらせた、なんて話もあります」
 武夫さんの豪腕伝説がまたしても飛び出した。炭酸水がなければ作ればいい。そりゃそうだけど、誰にでもできることじゃない。
 ところで、竜馬さんが話すソ連にはじまりヨーロッパへといたる旅路とホイスの関係は、後藤家に代々語りつがれてきたものではなく、つい最近、竜馬さんの調査によって明らかにされたものだった。なんでまた、いまになって?
「いまはもう大丈夫なんですけど、コロナ禍になったばかりの頃、輸入規制とか円安の影響とかで半分くらいの原材料が仕入れられなくなっちゃったんですよ。それで、何か他の材料に置き換えられないかというので、原材料の解析をはじめたんです。なんのためにこの材料を入れているのか、なんのためにこのエッセンスが必要なのか、っていうのを毎日毎日5、6時間かけて、それはもう厳密に調べたんです。そうしたら、あるときハッと気がついたんですね、これはシベリア鉄道の旅をなぞっているぞと。このお酒はこの国の名産だもんな、このスパイスはこの国を通過したからだろうな、というのがどんどんわかってきて。もともと祖父の足跡を追ってはいたんですけ
ど、コロナ禍という危機的状況に陥ったことで、研究のスピードが一気に上がったというのはありますね」
 材料が手に入らないことやいつものように仕事ができないことが、こんな新発見に繋がるなんて。しんどいことばかりのコロナ禍で、これはかなり明るいニュースである。ソ連〜ヨーロッパ旅行をぎゅっと濃縮した飲み物なのだとわかって、わたしもうれしい。次にホイスを飲むときは、その旅情も感じ取るようにしたい。
「祖父がホイスを作ってから70年ぐらい経って、やっと祖父の意図が10パーセントぐらい理解できたかな」と竜馬さんは笑う。あと90パーセントも残っているのか。簡単には解けない謎を仕掛ける武夫さんと、それに挑む竜馬さん。やはり後藤家の物語はドラマ化したほうがいいと思う。
(つづく!)

◎【6月1日】『ネオ日本食』刊行記念トークイベント トミヤマユキコ×後藤竜馬 幻のお酒「ホイス」の奥深き世界

◎書籍『ネオ日本食』について

ユネスコ*は、
「ネオ日本食」を見落としている。

*無形文化遺産に「和食」を登録 

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「ネオ日本食」とは:海外から持ち込まれたはずなのに
日本で独自の進化を遂げ、わたしたちの食文化にすっかり
溶け込んでいる食べ物&飲み物。
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B級グルメ、せんべろ、町中華、ヌン活――
フード界の次なる最注目キーワードは「ネオ日本食」だ!
 
かつてパンケーキ・ブームを牽引したトミヤマユキコが見出した“新概念”。
本書は、その歴史・魅力・美味しさを徹底的に取材し描き切った、読みものとしても一級の渾身作です。
 
さあ、身近なのに広大な「#ネオ日本食」の世界へ!
  
[登場する店/会社/人とテーマ]
・「ホットケーキ」 珈琲ワンモア
・「パフェ」 浅煎りコーヒーと自然派ワイン Typica
・「たらこスパゲティ」 スパゲティ ダン
・「ランチパック」 山崎製パン株式会社
・「ホイス」 有限会社ジィ・ティ・ユー
・「餃子」 ホワイト餃子 野田本店
・「カツレツ」 ぽん多本家
・「カレー」 インタビュー=稲田俊輔
+ナポリタン、名古屋めし等の論考も!

あなたの好きな、ネオ日本食はなんですか?
【購入はコチラから】
https://littlemore.co.jp/isbn9784898155844

◎著者・トミヤマユキコさんについて

1979年、秋田県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科に進み、少女マンガにおける女性労働表象の研究で博士号(文学)取得。現在、東北芸術工科大学芸術学部准教授。ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーについて書く一方、大学教員として、少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当している。2021年から手塚治虫文化賞選考委員。24年からNHK高校講座「家庭総合」(NHK Eテレ)でMC。主な著作に『パンケーキ・ノート おいしいパンケーキ案内100』(リトルモア)、『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)、『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)、『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)、『10代の悩みに効くマンガ、あります!』(岩波ジュニア新書)、『女子マンガに答えがある「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(中央公論新社)、『労働系女子マンガ論!』(タバブックス)、『文庫版 大学1年生の歩き方』(清田隆之との共著、集英社文庫)などがある。



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