横浜Love Story 第13話 "恋愛小説で学ぶ中国語"
第4話 はじまりはマグニチュード5.0
第5話 過福はあざなえる縄のごとし
第8話 コスモクロックで空中散歩
第10話 ビールフェスティバル
第12話 ビジネス用語が苦手です
◇ ◇ ◇
第13話 夏の終わりの帰り道
その日の夜、台湾のお客さんを連れて、近所にあるキリンビールの工場敷地内のビアレストランに行き、皆で一緒に食事をした。
加藤は、以前山下公園のビールフェスティバルで飲んで以来、ビールが好きになったと言い、特にここは工場で出来たての新鮮なビールを飲みくらべできることから大いに盛り上がり、最後には顔を真赤にして「ニャ~」と雄叫びをあげまくり、皆の人気者になっていた。
食事が終わり台湾人の二人をタクシーで見送ったあと、輪になって「次どうするか?」という話になった。
「あ、あたし、帰ります~」
加藤が足元をふらつかせながら、手を上げて宣誓ポーズをした。
「あ、じゃあ、加藤さん送って行かないとあぶないね」
商品企画の柴田がそんなふうに言うと、他のメンバーが「そういう柴田が一番あぶないんだぞ」などと言って盛り上がり、加藤は加藤で「ひとりで帰れますよ~」と言いながら、足元をフラフラさせていた。
ここから京急の生麦駅までは、人影も少なく一人で帰すにはやはりあぶないということで、「じゃあ、この中で一番安全な草間さんが送っていけばいい」と誰かが提案し、「まあ、上司だしね~」と柴田が応えて、結局俺が送っていくことになった。
「おい、加藤、行くぞ!」
「ふぁ~い」
加藤は少し鼻歌を歌うような感じで、足元をフラフラさせながら俺のあとをついてきた。
お酒を飲みすぎて少し火照った頬に、夜風が心地良い。
「草間さん」
「ん?」
加藤は、突然立ち止まりニヤニヤしながら俺を見ている。
「なんだ?」
「ふふふ」
「ん?どうした?変な顔して」
「だってぇ・・・草間さんって、一番安全なんですか?」
加藤はさっきの俺達の会話を思い出しながら笑いをこらえるように口を押さえてそう言った。
「ははは・・・らしいな・・・」
今まで俺は、例えば皆が人事の誰が可愛いなどという噂話をしていても、それに加わることもせずに無関心な感じだった。
「草間さん、你,該不會・・・對女生沒興趣吧?」
※草間さんって、もしかして・・・女性に興味無いんですか?
加藤がからかうみたいに俺を見てそう言った。
「我?沒那種事!」
※俺か?そんなことないぞ
「咦?那你喜歡怎麼樣的人呢?」
※え?じゃあ、どんな人が好きなんですか?
加藤は突然目を輝かせてそう尋ねてきた。
「ははは、芸能レポーターみたいだな」
すると加藤はマイクを握るようなポーズでこぶしを俺の口元に突きつけ聞いてきた。
「草間さんの好みのタイプを教えてください~!」
俺はどう答えてよいかわからず、「好みのタイプか~~~」とはぐらかしながら、心の中でもうひとりの自分の声を聞いていた。
(お前みたいなオンナだよ・・・)
もちろんそんなこと、口が裂けても言うわけにはいかないことはわかっていた。
「お前さあ・・・」
「はい?」
「在問人問題之前,自己應該要先說吧!」
※そんなこと人に聞くなら、まず自分から言えよ
「え~~??」
俺も加藤の真似をしてマイクを突きつけるようなポーズで聞いてみた。
「はい!加藤小姐はどんなタイプの男が好きなんですかぁ?」
「わたしですかぁ~~~?」
「ははは、そうだ。答えろ、加藤!」
俺も相当酔っ払ってるかもしれないなと、心の中でもうひとりの自分が苦笑いをしていた。
「わたしは~~」
「うんうん・・・」
「・・・・・・草間さん・・・」
(え????)
「みたいな・・・人かな!」
(はっ???)
「あははは」
加藤はそう言って突然クルクル回り始めた。
「お前、何やってんだ?」
「台風です」
「は?」
加藤は両手を広げてクルクル回り続け、次の瞬間バランスを崩して倒れそうになった。
俺はとっさに「危ない!」と叫んで加藤の肩を支え、抱きかかえるようにして態勢を立て直させた。
「あはははは」
「ホント、バカだなお前は・・・ははは」
「草間さん」
「なんだ?」
「地震那時候也是像這樣來幫了我…」
※地震の時も、こんな風に私を助けてくれましたね・・・
俺は、あのエレベーターの中での出来事を思い出していた。
「あの地震はホントヤバかったな」
「はい」
「でも、あのおかげで俺は加藤とこうして少し仲良くなれたような気がする」
「本当ですね・・・」
そうしてまた俺たちは帰り道を楽しむみたいにしてゆっくりと駅に向かって歩いた。
「你該不會是喝醉了吧?」
※お前、酔っ払ってんだろ?
「對,我好像有點喝醉了,啊哈哈哈」
※はい、酔っ払ったみたいです。あははは
「バカだな、飲み過ぎなんだよお前は」
「あははは、バカじゃありません、ネコですよ~」
夜10時。
見上げると紫色に光る夏の終わりの空に、低い雲が風に流されゆったりと走っていくのが見えた。
俺は立ち止まり、雲を見上げた。
ふと見ると加藤も同じように空を見上げ、小さな声で「にゃ~」と鳴いた。
「夏も終わりだな・・・」
「はい・・・」
「今年の夏は、いい夏だったな」
「はい!」
加藤は、俺を見上げ嬉しそうに笑った。
恋愛小説で学ぶ中国語【繁体字】『横浜Love Story』総集編(第1章~3章)
恋愛小説で学ぶ中国語【簡体字】『横浜Love Story』総集編(第1章~3章)
中国語の歌を聴いて発音に馴染むことは、とっても有効な学習手段のひとつだと思います。古い上海の街並みを思い起こさせるようなこの歌をぜひ聴いてみてください。