「共震」の時代-3
前回は、共震が起こっていると思われる例を2つ挙げましたが、今回は共震そのものや、共震に至る心理的なメカニズムが引き起こしていると考えられる弊害について考えてみます。ポイントとなる共震のメカニズムは、第1回でも言及した「無意識的」に起こるということ、加えて「脊髄反射的」に起こるという2点です。
ここでまた一つ例を挙げたいと思います。
小学生の子どもを持つ母親(Aさん)の家で、同じクラスのママ友会が開催。会話の中である母親が「うちの子、家帰ってきてもテレビばっかり見て全然勉強してないの…」というと、他の母親たちも「うんうん、そうそう!」と子どもが勉強しない自慢を我も我もとし始めた。自分の子どもが近くにいることに気づきつつ、Aさんも口を開いたが…
この例において、Aさんが「自分の子どもは勉強している」という事実を把握していた場合、一体Aさんはどのように返事するのでしょうか?
第2回の職場の例とも関連しますが、共震の発生には、共感を向ける先や周囲との関係性が大きく関わってきます。このママ会の例で言えば、年度の初めの頃、開催初回といった「親睦を深めるための会」なのか、何年も同じメンバーでやってきており、長所・短所も含めお互いを理解した上で付き合っている「すでに深い間柄の会」なのかが、共震の発生、つまりAさんの返答内容に大きな影響を与えると推測できます。恐らく、前者のような会の場合、Aさんは「うちの子もそうなのよ」と同意する可能性が高いでしょうし、逆に後者の場合であれば「うちは勉強してるみたいだけど…」といった返答が期待できます。
ここで問題なのは、例示したように“自分の子どもが近くにいたとしても”前者のような返答をしてしまう可能性があるということです。つまり、無意識的・脊髄反射的に起こる共感(=共震)は、共感する相手(「ママ友」)に対してのみアテンションを向けるものであって、「共感を向けない相手(「自分の子ども」)」に対しての配慮が著しく欠けてしまう恐れがあるのです。結果として、そのような返答を自分の母親から聞いた子どもは大きなショックを覚え、自発的な勉強もしなくなってしまうかもしれません。
これは共震に限った話ではありませんが、ある誰かとコミュニケーションを取るということは、そのコミュニケーション上には存在しない「他の誰か」にも大きな影響を与えかねないということ、そして「今一番大切にすべき相手は誰なのか」、をよく理解しておくことが重要と言えるでしょう。