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元教員インタビュー#4 社会の側にもアプローチし、その人らしく“働く”をサポートする|山本直さん

今回インタビューさせてもらったのは、社内のダイバーシティ推進に携わりながら、働くことに障害のある方に向けたWEBサービスの開発をされている山本直(やまもと なおき)さん。

大阪と埼玉の公立小学校で5年間特別支援学級の講師を勤めたのち、発達支援や就労支援などにも関わってこられました。

学校での経験が、今の仕事にどうつながっているのか。これまでのキャリアと、現在取り組んでいる事業への思いを聞きました。

プロフィール
山本 直(やまもと なおき)さん

小学校の教職員として、特別支援学級を中心に子どもの支援、指導に携わる。その後、教育や障害福祉領域の事業展開をしている株式会社LITALICOに約8年勤め、障害のある子どもや大人の方の直接支援、人材開発部門での採用や研修の仕事に従事。現在はWEBサービス「Poshulou(ポシュロウ)」の開発と、自社内のDE&I推進を主な仕事としている。


障害の“枠組み”って、本当はないのかもしれない

—— 山本さんは、以前小学校で働かれていたのですよね。当時のことをお話しいただけますか?

最初のキャリアは、大阪の小学校で特別支援学級の子どもたちと関わるところからスタートしました。そこで働いたのは4年間です。元々特別支援に関心があったわけではなく、たまたま配属されたのが特別支援学級だったんです。その後は、縁あって埼玉の小学校でも1年間講師を勤めました。

それまでの僕は、「障害者は自分とは違う特別な人」というイメージを漠然と持っていました。けれど、子どもたちと関わることで、それが偏見だったことに気づいたんです。生きていく中での困難さは人によってもちろん様々あるけど、もっと根っこにある、人として何かを考えたり、何かを感じたりすることは、みんな等しく、なんら変わらない。感覚的なことなので言葉で表現することが難しいのですが、どんな人も同じひとりの人間だと感じる場面が多くありました。

また、2つの地域の学校を知れたことで、“環境”にも意識が向くようになりました。大阪は人権教育が盛んで、基本的にみんなで一緒に過ごすことが重視されていました。一方で、埼玉では支援が必要な子どもはほとんど普通級の子どもとは交流することなく過ごしていました。数ヶ月に1回、一緒に給食を食べるような交流をするくらいです。

大阪のようにどんな子どもも一緒に過ごすことが普通だと思っていた僕は、「もっと一緒にできることがあるのに」と思っていました。ただ、どっちが良い悪いという話ではなく、一緒に過ごすことが苦痛だった子どももいたし、逆に埼玉の小学校では、場所を分けることで安心して過ごせる子どもがいたことも事実だったんです。

—— 大阪と埼玉の小学校で違いがあったからこそ、環境の大切さを感じたのですね。そこから、なぜ転職をしようと?

学校での経験を通して、「いろんな人がいる環境の中でも、一人ひとりが自分らしく安心して過ごせる環境をつくりたい」と思うようになりました。それと同時に、やりたいことを実現するための手段は、先生でいることだけではないなとも思っていたんです。

そんなことを考えているときに出会ったのが、株式会社LITALICO(以下、リタリコ)でした。リタリコは「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げていて、まさに僕自身が大切にしていきたいと思っていることと重なりました。それで、入社を決めたんです。

人だけではなく、社会の側にもアプローチしていきたい

—— リタリコでは、どんなお仕事をされていたのでしょうか?

発達に遅れや偏りがある子どもの支援や、働くことへの障害がある方への就労支援など、さまざまな事業に関わらせてもらいました。

中でも印象に残っているのは就労支援の仕事です。働きたいと思っている方が企業に就職して自分らしく働いている姿を見て、「障害のない社会になってきているのかも…!」と感じることもありました。

一方で、さまざまな企業に人材を紹介する事業に関わっているときは、障害者雇用がなかなか進んでいない現実があることも知りました。企業の方のお話を聞くと「障害のことはよくわからないから、障害者雇用は進めづらい」とか「〇〇障害しか採用できない」という声を耳にしたこともありましたね。

「障害のない社会をつくりたい」と言いつつ、アプローチしているのは個人だけになっているんじゃないか?もっと社会に対してアプローチできることがあるんじゃないか?と、この頃から自分の中に少しずつ葛藤が生まれてくるのを感じました。

ちょうどそのタイミングで違う環境にも身を置きたいと思うようになり、2021年に約8年間勤めたリタリコを退職しました。今は、BPOといわれる、企業の業務プロセスの支援をする企業で働いています。

—— 現在勤められている会社では、どのようなことをされていますか?

今の会社での主な仕事は、社会と企業のサステナブルを文脈に、社内のダイバーシティなどの活動を推進していくことです。それと並行して、新規事業としてPoshulou(以下、ポシュロウ)というWEBサービスの立ち上げをしています。

—— ポシュロウとは、どんなサービスなのでしょう。

働くことに障害のある方に向けたWEBサービスで、就労に向けた学習や情報収集ができるような動画コンテンツをつくろうとしています。幸い社内には応援してくださる方が多く、外部の専門家の方々だけでも約10名の方に協力していただきながら進めています。

—— どのような経緯で、ポシュロウをスタートすることになったのでしょうか。

今勤めている会社に入社して3ヶ月くらいがたった頃に、社員から新規事業のアイデアを募るコンテストがあったんです。当時はまだ社内でのつながりが少なかったので、人とのつながりを広げていくきっかけにもなると良いなと思って応募しました。すると、なんとコンテストで優勝して、実際に新規事業として進めていくことが決まったんです。

—— それはすごいですね。どのような思いで、ポシュロウの企画を考えていったのでしょうか。

僕自身が障害福祉に関わってきた経験が活かせそうだと思いましたし、社内で障害者雇用への理解を進めるチャンスにもなるんじゃないかと思ったんです。そう思うに至ったのは、学校やリタリコでの経験が影響していますね。

誰もが暮らしやすい社会をつくっていくために、環境にアプローチすることは大切ですし、さらにそれを実現するには、いろんな人たちが障害とは何かを理解することも大切だと思っています。リタリコで働いていたときに出会った人事の方の中には、障害者雇用を進めたいと思っているけれど、何をしたらいいのかわからなかったり、周囲を巻き込むことへの難しさを感じていたりしている方もいました。

「僕自身の強み」と「会社からの共感」と「社会課題の解決になること」の3つがちょうど重なる事業ができるといい。そう思ってポシュロウの企画を考えていきました。

模索し続けていい。“意味”はきっと後から見えてくる

—— 今後、さらに挑戦していきたいことはありますか?

それが、先のことはそんなに見えていないんですよね(笑)常に「自分がどうあれば、周りも自分も大切にできるか?」を自分自身に問いかけて、その時々の最適解を模索しているような感じです。

ポシュロウも最初から、「絶対にこれがやりたいんだ!」と意気込んでいたわけではありません。自分の経験の中で生まれた疑問や葛藤の点は、もしかしたらそのままほったらかされていたかもしれません。でも、たまたま社内でコンテストがあって、応募してみようと思ったときにいろんな点と点がつながった。

これって、星座みたいだなとも思っているんです。一つ一つの星に意味はないけれど、星をつないでいくことで、星座になり、意味が生まれる。そのときのご縁や与えられたことをきっかけに、自分で点と点を結びつけていければ、振り返ったときに「いい人生だった」と思えるんじゃないかなと思うんです。

—— 最後に、キャリアを模索している先生へメッセージをいただけますか。

模索し続けている状態を、そのまま受け止める。これで十分なんじゃないかなと思っています。正解は1つではないし、そのときに正解だと思えたことも変化していくものなんですよね。

模索している状態って、ネガティブに捉えられてしまうこともあるけれど、迷っているからこそ見える世界もたくさんあるだろうなと思っています。自分自身を知るプロセスでもあるし、それ自体が人間らしくもある。

特に、教育や福祉に関わっている人だと、支援や指導の中で、悩まずに「こういう関わりをすれば絶対に大丈夫!」と思い込みすぎている状態の方が心配だなと思うこともあります。視点が狭まってしまっているんじゃないかなと。それよりも「これで本当に大丈夫なのかな?」「違う考え方もあるんじゃないかな」と考えている人の方が、実は広い視野で世界を見ていると思います。

僕自身、自分のキャリアも今やっている事業も、ずっと模索し続けています。なので、これを読んでくださっている方には「一緒に模索し続けましょう」と伝えたいですね。

—— 山本さん、ありがとうございました!


山本さんが開発されているWEBサービス「Poshulou(ポシュロウ)」については、以下のURLよりご覧いただけます。


ラジオ配信もぜひ。

編集後記も、よければご覧ください。


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建石尚子
最後までお読みいただきありがとうございます(*´-`) また覗きに来てください。