『逃亡ゲヘナ』
八方塞がりと言っても、どこか逃げ場所を残していた時と、逃げ場所が無いなら、未来にそれが出来るとあてにして、それなりに生きて、だいたい十年。
しかししかし、債鬼は怖くなくなるほど鈍麻しての挙句、ごく親しい者ら、親族からの攻撃に、こう晒されると、すごく滅入る。
すごく滅入るだなんて、紋切り型に言ったが、紋切り型しか出せないほどに参っている。
それでも、こうして立って、スマホで文章を書くだけの視力も指もあり、暖かい夜とはいえ、凍えない毛のコートもある。
新宿は紀伊国屋書店のエスカレーターのたもとで、模造大理石の手摺りに背骨を当てている。
背中が大理石になった。
手摺りがわたしの形になるわけはないので、きっとわたしが変形したのだろう。
今晩だけでたくさんのウイルスを帯びたはずだし、まるで首都圏を取り囲むように頻発する地震が、的を射てくれと願っていたが、ついにその時が来るのか。
落ちて行ったのは、黒くて赤い、いやな熱気の世界だった。
着ているものを脱ぐこともできない麻痺の中で、汗だけはかいてる感じだ。
考えたくもない世界で、落下感はあり、しかし同じく落ちていく錘が見える透明なエレベーターの箱で幻惑されるような、複線の駅で速い列車に追い越されて、目の中はバックなのに、背中は加速してる、あの感じが続く。
なんの、怖いことはない。
絶望の親しみやすさよ。
しかしこれはなんだ?
微かになって消えて、ひんやりと、または微温の中で気を失いたいのに、逆だ。
生意気で高慢で利己的な意識は冴え冴えとしていく。
やがてどこか、底のようなとこに着くことはわかってる。
そしてきっと、その底で、
「まだ俺?」と困り果てることも。
お祈りの通じない、熱く赤黒い溝の、分離されたひだのその一つに、悪い鮫のエラの一節のようなそこで、叫んでも、手遅れだ。
てんでまとまりのない文章を、連想しながら勝手に書いているだけです。 たまに霊感が降りて、意味ありげなことも書けたらいいなと思っています