4.ええとこ
日々のエセー『まいにちとことこ』。
第4回は、「ええとこ」。地元について。
「ええとこ」と言っても、自分のいいところではなく、地元のいいところについて書きたい。
ぼくが生まれ育ったのは、熊本県人吉市。県南部・球磨地方にある田舎。鹿児島県や宮崎県と県境の接している。
だから、地元で話されている球磨方言は、ぼくの体感だと、熊本弁8割、鹿児島弁1.5割、宮崎弁0.5割がミックスされた独特な言葉だ。
でも、イントネーションは鹿児島、宮崎とは全然違う。あそこは南国の異世界。初めて鹿児島の地に降り立ちコンビニに入ったときの衝撃を、未だに忘れられない。そこの店員が酷く訛っていた。でも語彙は近いから、言ってることは解る。ひと昔前にSNS上で話題となった、テレビの報道インタビューに応えるアルティメット鹿児島弁ニキの言ってることが、字幕がなくとも、ほとんどわかる。
でも、ぼくも、おそらく地元の人たちも、鹿児島の文化圏に入れられるのに抵抗がある。よく九州出身じゃない人から「人吉って鹿児島ですよね?」と、大真面目に、時には冗談半分に言われることがあるけど、あれはやめたほうがいいと思う。たぶん反感買う。地元には熊本のプライドがある。
とはいえ、(熊本)市内とも違う。明治維新の一環で廃藩置県が行われる前まで、市内のほうは細川藩で、地元は相良藩だった。盆地という閉鎖的な場所で、鎖国的に文化を築いた。だから同じ県内でも文化圏が微妙に違う。地元のローカルテレビに出て来るローカルタレントの振る舞いを見ると、どことなく違和感を覚えるのは、これが関係しているのかもしれない。
言葉のことばかり書きすぎて、地元のいいところをまだ紹介してなかった。でもその前に……
4年前(2020年)の、令和2年7月豪雨で、街全体が水に浸かった。街の中心部が盆地のいちばん標高が低いところだから、被害が尋常ではなかった。とてもショッキングな出来事だった。このときの所感については、別の稿に書き記したい。他には、地元には負の側面がある。そのひとつが、戦後最大の冤罪事件「免田事件」。これについても、いつか書きたい。
地元のいいところを書こうと思ったけど、18年もいたのに、いやいたからこそ、うまく書けない。
最近、東洋経済新報社が発表した「住みよさランキング2024」で人吉市が1位になったけど、出身者からみたらそんなことないと思う。ぼくが生まれたころにはもう映画館はなかったし、ボウリング場も豪雨の前に潰れたし、大きな本屋もない。田舎もいいところ。いいところだけど、度がちょっと過ぎている。だからか、地元住民を対象にした、大東建託の「街の住みここちランキング2024[熊本県版]」では圏外だ。地元からみても、地元民からみても、いいところは案外わからないものだし、外に出てみてもよくわからない。そもそも「ええとこ」って、何を以てして、そう言えるんだろうか。
でもひとつ言えるのは、ひとがいい。ひとよし、だからね。これだけは、胸を張って言えるよ。たとえそこでなにか悪いことが起きても。というか、そんな悪いことを起こす人はきっとそこに、地元に、人吉に、誇りを持ってないんだよ。愛郷心ってそういうこと。……本当の愛国心は、ナショナリズムでもパトリオティズムでも自国(地元)第一でもなくて、恒久的な平和を希求することなのではないか。戦後79年後に。そしてすべての紛争地に。
[2024.8.15]