10.こえとこ

 日々のエセー『まいにちとことこ』
第10回は、「こえとこ」地声歌声について。

 自分の声がわからない。

 地声をちゃんと認識できないっていう話じゃなくて、ふだん自分が話してる声の高さって自分でもよくわかんないよねっていう話。

 人の声の高さや特徴は、聞き慣れれば、だいたいわかる。でも不思議と、自分の声のはわからない。
 たとえば、自分の歌声を録音して聴き直してみる。すると、歌声の、あまりもの低さに驚く。
 他方で、人から「地声ちょっと高いね」と言われる。自分ではそれが信じられない。

 起きて寝て、また起きて、いつもの人たちと話す。そのとき、<あれっ……自分の話してる声って、この高さだっけ?>ってなる。する必要のないチューニングに失敗したかもと不安になる。
 歌うのが好きだけど、カラオケに何度も何度も通うけど、自分の耳を通して聴く自分の歌声と人が聴くぼくの歌声とはたぶん認識が違ってて。それが怖い。鏡で見る自分の顔と写真で見る自分の顔とが違って落ち込むのと同じ。
 地声も歌声も、自分の認識しているのとはズレてる。ドの音が実際には基準音から微妙にズレて波形を保ってるみたいに。完璧な音は、存在しない。

 声の光学異性体……?

 

[2024.8.21]