1.あにとこ

 文章執筆の鍛錬のために、毎日エセー(エッセイ)を書こうと思う。
タイトルは『まいにちとことこ』。その由来は、本名から来ている。

 記念すべき初回は、「あにとこ」兄妹について。

 ぼくは4人兄妹のいちばんうえ。つまり、長男。PTA用語だと長兄子。
 ぼくには弟1人と妹2人がいる。それぞれ、3、8、11ずつ、年が離れている。
 うちの両親は、弟が生まれたとき、ぼくの名前が「ら行」始まりだからというので、これから生まれてくる子どもたちの名前も「ら行」で付けようと思ったらしい。それでぼくの兄妹は、みんなイニシャルが同じ(面白いのは、もしも万が一両親が離婚したとしても、母の旧姓は父の姓と同じ「ま行」なので、イニシャルが「R.M」で変わらないこと)。「らりるれろ」の「ら」と「り」と「る」と「れ」が、ぼくの家族にはいる。「ろ」だけいない。

 いちばんしたの妹は、親じゃないけど第三の親みたいな感じで、生まれたその瞬間から知ってる。だから妹というより、どこか年の離れた親戚の従妹っていう感じがある。
 その末妹は、東日本大震災を直接は知らない。アナログ放送を知らない。ガラケーを知らない。大山のぶ代のドラえもんを知らない。ひとまわりも違うことは、自分が経験したことを経験したことがないという事実によって、強く思い知らされる。

 8つしたの妹ですら知らないこともある。地元の、あそこにあるお総菜屋さんは、その前は人気のない中華料理屋さんで、その前の前はコンビニエンスストア、その前の前の前は薬局だったこと。あのスーパーのなかにもマクドナルドがあったこと。あの校舎は最近建て直されたこと。年が離れていることは、こうした日常の、ちょっとしたことでも感じる。

 それでいてぼくには、いまだに「お兄ちゃん」という自覚がない。というのも、兄妹のあいだでは、お互いを名前(呼び捨て)で呼んでいたから。
 だから……ぼくは良いお兄ちゃんではなかったと思う。自分で振り返ってみて、そう思う。3つ離れた弟とはよくケンカした。8つと11つ離れた妹たちとは、逆に、そんなに話すことがなかった。そのころにはもう、ぼくにはひとり部屋があって、そこでひとり、好きなことをして過ごしていた。
 だからぼくは、あにとこだけど、あにとこじゃない。生まれた順、戸籍にある通りなら、いちばんうえの、れっきとした兄だけど、ただそうってだけで、兄っぽくない。それが弟や妹たちにとって良かったのか悪かったのか、わからないし、たぶんなんでもない。でも最近、弟がLINEでぼくのことを「兄貴」と呼ぶようになって、呼ばれ慣れてないからめっちゃ驚いたけど、こんなんでも、ほんのちょっとだけ嬉しかった。


[2024.8.12]