地域で子育てする樹木たち
森と木が大好きな北海道の佐野です。
北海道を代表する樹木のひとつであるエゾマツですが、興味深い特徴があります。
何と、地面に落ちた種のほとんどが芽生えることなく死んでしまうのです。
でも、大きくなっているエゾマツはたくさんありますよね。場所によっては、ほとんどエゾマツのだけの天然林もあります。
地面の上より倒木の上
北海道大学の研究林での調査結果によると、エゾマツ天然林の更新木の95パーセント以上が、倒木更新由来だったとのことです。どうやら、地面の上よりも倒木の上の方が生存率が高いようです。
倒木更新とは、風や雪により、倒れてしまった木の幹の上に落ちた種から発芽して成長することです。
倒木の上は天国だった
倒木の上なんて、住み心地が悪そうに感じますよね。でも、木が倒れて、時間が立つと徐々に分解が進み、苔むしてきます。そうすると、木の赤ちゃんにとって最高の生活環境となるのです。苔むした倒木は、ふかふかの布団なんですね。
その結果、倒木の上の方が地面の上よりも生存率が高くなるわけです。
主な理由としては、
①倒木の上の方が病原菌が少ない
②倒木がじゃまな笹を押し倒してくれている
③地面の上より高い位置にある
④倒木の上は空間がある
などが考えられます。
特に、エゾマツの場合は、暗色雪腐病菌がいるため、地面の上では、ほぼ、発芽できません。
誰のための倒木更新?
でも、良く考えると不思議ですよね。
木が倒れて、苔むすまで、数年かかります。その後、周りの木から種が落ちて発芽し、更新するわけですが、その赤ちゃんは、倒れた木の子どもではないですよね。
地域で子育て
つまり、倒れた木は、自分の子どものためではなく、近所の子どもたちのために、自らの体をゆりかごにしているということになります。
エゾマツなどの木は、地域全体で子育てをして、社会を維持しているわけですね。
天然スギも地域で子育て
秋田の天然スギも同じように地域で子育てをしてしていました。
森林総合研究所の秋田天然スギで行った調査結果によると、地面の上に落ちた種は全滅し、根株の上に落ちた種のみが生き残ったとのことです。
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2015/20151016-03.html
根株の上ですくすく成長
秋田の天然スギではなく、千葉県の公園ではありますが、偶然、切り株の上に偶然落ちた種から発芽した木の赤ちゃんを見つけました。その後、継続して、観察していたのですが、5年間でかなり成長しましたね。
発見当時のスギの赤ちゃん
5年後の様子
奥に見えるスギ林の中のどれかが、お母さんでしょうね。すくすくと成長する子どもの姿を温かく見守っているんでしょうね。
我が子ではなく、近所の子どもたちを、自らの体を犠牲にして育てる樹木たち。そうやって、森が維持されてきたと考えると感慨深いものを感じます。
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