【報告】秋田勝己氏「昆虫を追い続けた人生」〜新種400種を発見した昆虫研究者〜オンライン講演会
「はなもく散歩研究会」主催のオンライン講演会を9月30日に開催しました。その概要を報告します。
昆虫の研究や保護活動を進めるの方々、日本自然保護協会の本部や自然観察指導員の方々、森林インストラクターの方々、小中学生のお子さん、リトカルメンバー合わせて約70名もの参加がありました。
<第一部>
第一部では、在野の昆虫研究者の秋田さんより『ゴミムシダマシについて』『虫採りの愉しさ』『昆虫を住む環境を守って』についてお話をいただきました。
生き物の名前を知ることは全ての入り口
最初のスライドは、なんとアイドルグループの写真??でした。
びっくりな導入でしたが、秋田さんからはアイドルグループとして知っているだけでは親近感もわかないが、一人一人の名前を知っていればより親近感がわき興味をもつようにもなる。昆虫も、名前がわかってくると興味・関心がわき、さらにはその違いも見つけられるようになって、さらに面白くなってくる、つまり、まずは生き物の名前を正確に知ることが基本であり、非常に重要なことであるとの話がありました。
美しく多彩なゴミムシダマシ
次に、ゴミムシダマシについての話です。ゴミムシダマシは、秋田さんの研究分野の一つです。
ゴミムシダマシは、熱帯雨林から砂漠地帯、さらにヒマラヤの高山まで様々な場所に生息しており、中には屋内に生息しているものまでいるそうです。
大きさや形、住んでいる環境は様々で、体長の最も小さい種類から、最も大きい種類までの差はおよそ20倍とのこと。
さらに、砂浜と砂浜に隣接した少し草の生えた場所という近い環境においても、全然違う種が生息しているとのことでした。
また、ゴミムシダマシは照葉樹林帯に数多く生息しており、なかでも琉球列島には多くの固有の種類が生息しているそうです。
ゴミムシダマシの種の多さには驚きでした。
新種は沢山の標本の比較からわかる
秋田さんは、保管している昆虫標本がなんと50万点を超えるとのことです。
新種の発見は、その沢山の標本を比較し、違いを発見し、論文を書くという地道な活動からできるのだそうです。
秋田さんは、ほかの研究者の方とともに、新種を400種も命名記載されています。
次の写真は、秋田さんが発見して、秋田さんが共著者の益本さんと命名記載した最初のゴミムシダマシです。和名はアマミコブスジツノゴミムシダマシというそうです.
図鑑は昆虫に親しんでもらうため
そして、今秋田さんが取り組まれているのが昆虫の図鑑を書くことだそうです。一部の研究者にしか見られないような学術誌とは違い、沢山の人たちにも読んで昆虫に親しんでもらえるようにとの思いが込められているとの話に感動しました。
環境を守るために採集して標本を作り記録を残すことが重要
秋田さんは、昆虫採集をして標本を作ることはとても重要なことだと講演会中何度もおっしゃっていました。
標本を作り記録を残すことは、『この時に、この場所に、この虫がいた』ということを証明するもので、結果としてその環境を守ることにつながるというのです。
昆虫採集にかけた人生
そんな秋田さんの、昆虫との出会いについてもお話しがありました。
秋田さんの昆虫人生の原点は子供時代。小学校までは様々な生き物と接していましたが、中学校になり生物部に入って蝶の採集をはじめます。高校生になると学校に生物部を創設し活動を続けます。大学でも昆虫研究会を立ち上げ活動していたそうです。
この中で、先輩や友人たち、素晴らしい本との出会いも、その後の研究人生に影響を与えたとのことです。
標本作りは、じっくり昆虫を見て、昆虫について考えるきっかけを与えてくれるそうです。そして、そのような体験をしている若者の中から、生物研究や環境保護にその後携わるような人材も育ち、裾野を広げることにもつながるとのことでした。
激減する水辺に住む昆虫たち
今の日本における水生昆虫が住む水辺環境は、非常に悪化していると言われます。スライドでは、2005年と2006年の同じ水辺で発見できた水生昆虫数が、一年で半分の種類まで減った結果を示されていました。さらに、絶滅まではしませんでしたが、一年前に沢山住んでいたゲンゴロウの仲間は、かなりの個体数を減少した結果についても紹介されていました。
これら生物の減少した理由として、水辺の環境変化や、アメリカザリガニなどの外来種侵入による影響、ネオニコチノイド系農薬による生物影響が考えられるとのことです。
また、秋田さんはカワラハンミョウの生息地の保全活動もされているそうです。カワラハンミョウは、現在非常に数を減らしている昆虫の一種で、昔は全国の砂浜に生息していたのですが、堤防の設置や過度の砂浜利用などにより、近年はほとんどの生息地が消滅してしまったそうです。
秋田さんは、これらの絶滅も危ぶまれる水生昆虫や水辺に住む昆虫などの生息数を調べ、なんとか将来に残していく助けとしたいと考えているとのことでした。
レッドデータブックが作れなくなる?
レッドデータブックについても話がありました。約10年毎に見直される三重県のレッドデータブックですが、毎回絶滅危惧種が増え続け、どんどん分厚くなっているそうです。
さらに、レッドデータブックを作成する地域の研究者も高齢化が進み、若い世代が全く育っていない状況で、次のレッドデータブック作成にも影響するのではないかとの話をしていました。
秋田さんは、この問題を解決するためには、次世代の調査をになえる人材育成をすること。そのためには、具体的には子供たちが虫にじかに触れ、昆虫採集や標本作りをすることが認められる社会を作ることが重要であるとの話でした。
子供たちが昆虫に触れる機会を奪わないことが最優先課題
「今急激に昆虫が減っているという理由で、一律にすべての虫を採集禁止にする事はよくない。」と秋田さんは強く言われます。
美しい昆虫、かっこいい昆虫に出会い採集することは、その後のその子の人生において自然を愛することにつながる可能性が大きく、結果として自然環境保護にもつながると秋田さんは言います。
ただ、多くの昆虫が急激に減少しているのは事実。昆虫に関して知識をもつ専門家と相談しながら、子供たちの経験を増やしていくことも重要であると感じました。
<第2部>
第2部では秋田さんと交流のある昆虫研究に携わっている方々、参加者の方々から、沢山の声を頂きました。
専門家と一般の人の溝を埋めることが重要な課題
ふれあい昆虫館にお勤めの方からは次のような問題提起がありました。現在は、一般の方の生き物に触れる機会が減り、専門的な知識を持った人との間に溝が深まり、お互いの意思疎通ができないために、目指すべきところと違う結果に終わってしまうことが多い。専門家としてあるべき姿を伝えるだけでなく、歩みよって理解を得ていく方法を考えることが今大変重要な課題となっているのではないか。
昆虫が減るのは昆虫マニアが採集するから?
今、世間では「昆虫が減るのは昆虫好きが採集するから。」と当然のように声高に言われているが、実際は昆虫の減少の主な原因は、その昆虫が生きる環境が失われたためのことが多い。今、この本当の原因に向き合わないと、今後より多くの昆虫が失われてしまうことに繋がると話がありました。
↓ 秋田さんが調査し激減していることがわかった水生昆虫。
ラオスでも早急に必要な昆虫の研究
今回ラオスから参加してくださった方もありました。ラオスは今まで森に頼って昆虫は食べ物として付き合ってきたそうです。しかし、昨今の外国企業による開発に伴う森林伐採等により、何が失われたのかもわからないまま消えてしまう昆虫がいるのではないかと心配している。そのため、早急にラオスでも昆虫の研究者が必要とされているとのことでした。
自然環境を守り手は環境省か研究者か
中学生のお子さんからの質問がきっかけで、自然の守り手は誰なのかとの話題となりました。環境省や研究者・・?と思うかもしれないが、多くの場合は、地元の自然を知る地域に根ざした在野の研究者や活動する方々に負うところが多いとのことでした。しかし、そういった方々が、今急激に減っていく中で、自然をどう見守りどう残していくかが大きな課題となっているそうです。
大学の研究者の方より、研究者と地域で活動される方々が手をとりあって進めていくプロジェクトが増えつつあるという情報もいただきました。
国や行政機関を言い換えて考える
公務員OBの方からの問題提起もありました。よく、国や行政機関がすべきとの話が上がりますが、他人ごとのように「国がやる」「行政がやる」のではなく、「みなさんの税金を使ってやる価値がある内容」と言い換えて考えてほしいとのことでした。
外来種も自然の一部??
都会で自然活動をされている方から次の様な質問がありました。
都会ではもう外来種抜きでは生物を語れないほど外来種に溢れている。そんな状況下で、外来種についてどう扱っていくべきなのかとの質問です。
秋田さんからは、外来種がいる状況は好ましくはないが現状として受け入れざるを得ない。アメリカザリガニなど「侵略的な外来種」については、行政の責任で根絶をめざすべきであるとのお話でした。
2030年までに陸と海の30%を保全する目標30by30
日本自然保護協会の本部より参加いただいた方より今環境省から「2030年までに陸と海の30%を保全する」という目標30by30が掲げら得ているというお話がありました。その大変高いハードルを越えるために、今企業の力も入れ、さまざまな生き物の生息地となってきた里山を残していこうという動きがはじまっているというお話もありました。
非常に難しい課題でどうやって実現していくかが問題だとは思いますが、実現しなくてはならないと思いました。
様々な立場の方たちが協力していく時代に
また、昨今の教育現場での状況について、最近高校から「生態系サービス」について話してほしいという依頼が増えているというお話がありました。教科書にも環境保護の必要性が大きく取り上げられるようになり、官民学が力をあわせて、少しでも多くの生き物が住む自然環境を残すという取り組みの素地ができるつつ時代にあるとの紹介がありました。
<謝辞>
今回、講演を快く受けてくださった秋田勝己さんや様々な立場からの意見をくださった皆様に深く感謝いたします。
秋田勝己さんとの出会いは、リトカルメンバーがたまたま硬いキノコに残されたゴミムシダマシの糸状の糞を発見してその主をFacebookの「ぶんぶん昆虫探研隊」というグループで質問したことから始まりました。答えがあるわけない・・と思っていたのに対し、秋田勝己さんより明快な回答をいただき驚きました。
それがこのような素晴らしい講演をしていただけることにつながり、感無量です。
リトカルの制作しているWEBアプリ「はなもく散歩」の目標は、失われつつある人と自然のつながりを取り戻すきっかけを提供することです。
今回、様々なお話を聞いて、微力ながらもその助けとなれることを確信しました。
ぜひ、今回ご参加いただいた皆様ともつながり、活動の輪を広げていければと思います。
NPO法人リトカル