とにかく漫画が上手い王道少年漫画「灼熱カバディ」を読もう。騙されたと思って。
2024年5月28日。灼熱カバディが全話無料公開を開始した。
灼熱カバディは小学館の裏サンデーおよびマンガワンで、2015年7月から現在まで連載中のスポーツ漫画である。友情・努力・勝利が揃った超王道少年漫画として人気を博し、そして近いうちにいよいよ九年の歴史に幕が下ろされることが発表された。全話無料公開はそれに伴うキャンペーンの一環であり、なんと最終回が来るまで続くとのことだ。
皆様は、この漫画をご存じだろうか。筆者は第四話あたりから長いこと追い続けていたが、悲しいことに、今現在もこの作品は知名度が高いとは言えない、「知る人ぞ知る名漫画」なのであった。しかしながら、非常に主観的な意見ではあるが、灼熱カバディは面白さでいえばスポーツ漫画の中で、いや漫画という大きな区分の中でも上位に入ると信じている。
なので、まずは読んでほしい。おそらく今回の全話無料公開は、この作品に欠けている知名度を得るための施策だと考える。ので、まずは事前情報を無しに20話くらいまで読んでいただきたい。
しかし、新しいコンテンツに手を出すということが大きな労力を伴うことは重々承知している。ので、この記事では、その労力を払ってでも灼熱カバディは読む価値がある、ということを示すために、ネタバレを含まない範囲で作品の魅力を語っていく。
1. カバディって何だ?
そもそもこの作品の題材となっている「カバディ」とは何であろうか。皆様の中には、「銀魂で山崎がやっているやつ」、「カバディカバディ連呼するネタスポーツ」、あるいは「そもそもスポーツなのか」という認識を持っている方が多くいるだろう。少なくとも、この作品を知らない人間でカバディのルールを正確に把握している者は日本ではごく少数だと感じる。
ではカバディはネタなのか?否!熱いスポーツである!日本ではマイナーであるというだけで、インドではプロリーグも存在し、非常に多くの人間が真剣にカバディを楽しんでいる。日本では過去にその「カバディと連呼しながら行う」という性質から、TVなどでネタにされ妙なイメージが付いてしまっているが、カバディは駆け引きや技術の駆使、そして意地をぶつけ合う歴とした熱いスポーツである。
灼熱カバディはそもそも主人公がカバディを舐めている状態から開始するため、読者は主人公の視点からカバディのルール、奥深さ、面白さを知ることができる。つまり、これを読むだけで「カバディなんもわからん」から「カバディって面白いかも…?」となれるのである。カバディという競技を知るイントロとしてはうってつけであるといえるだろう。
2. 灼熱カバディの魅力
この作品を薦める理由は無論、マイナースポーツを題材にしているからというだけではない。灼熱カバディはとにかく漫画力が高いのである。具体的に、ストーリー構成力、表現力、そしてキャラクター力に分けて話していく。
2.1 ストーリー構成編
灼熱カバディはストーリー構成が上手い。本作は主人公が高校1年生の5月にカバディを始め、8月の大会に向けて練習を重ねていく、という時間軸の構成になっている。これは現実のスポーツ同様、大きな目標に向けて経験を「積んで」いき、来たるべき時に十全の力を発揮する、といった順序である。
これがどういうことかというと、読者は主人公・宵越竜哉が悩み、努力し、着実に力をつけ、大会で勝つという、現実のスポーツの醍醐味ともいえる部分を読書を通じて感じ取れるのだ。勿論主人公やチームが感情移入をしてしまうほどに魅力的である、という前提はあるが、この作品を読み進めれば主人公チーム、能京高校を応援したくなること間違いなしであろう (詳しくは後述のキャラクター編で)。
さらに、いわゆる下積みのパート、つまり序盤や練習試合間の、大会に向けた鍛錬のパートは、よく「修行編はアンケートが下がる」と言われるように、面白く描くことが難しいのだが、この作品は「かつてサッカーで輝かしい結果を残した主人公・宵越竜哉が、故有って一転、高校ではスポーツ嫌いになっていた所を、カバディを通じて絆を知り、熱を取り戻していく」というストーリーラインで練習パートを進行していく。つまり練習が技術を磨くと同時に、仲間との信頼関係を育み、人間として成長するパートとなっているため、試合をしていない部分も楽しめる構成になっている。
では試合パートはどうだろうか?安心してほしい。もっと面白い。目茶苦茶面白い。
練習パートはどうしても主人公チーム同士の絡みが中心となってしまう(合同合宿編もあるが)。だが試合では相手が存在し、そしてその相手もバックボーンや執念、意地がある。そこで練習パートで培った技術や絆を以て勝ちを目指す、だが相手も「積んで」きている為一筋縄でいかず…といった流れが生まれ、灼熱な展開が波のように押し寄せてくる。
カバディは得点形式の競技である。ターン制なので点の動き方としては野球を想像してもらうと分かりやすいが、基本一回で動く点は1〜3点といった所だ。しかし優れた選手であれば一度のターンで5、6点すらも取ることが出来、点差というものは簡単にひっくり返る。スポーツというのはそういうものでありカバディも例外ではないということだ。なので試合中はいくつか大きな波がくるが、勝負は終盤まで分からない。
「まあ主人公チームが勝つんだろうなぁ」と思うだろうが、何度もシーソーゲームが続き、思いもよらない展開なども挟み込まれるため、読者は最後まで灼熱を楽しむことができる。
また、作品全体の構成について、無駄な回がないというのも魅力として挙げられる。単行本のおまけ漫画で、作者自身が「無駄な展開をそぎ落とし、バキバキに仕上がった状態」と述べているが、実際読んでいても、この回要る?となるような回がなく、どの巻にも見どころがあり、高い完成度でまとまっている印象を受けた。試合と試合の合間のギャグ回ですら読んでいて飽きない。全体として四か月 (大会が始まってからは一か月) の短い時間を30巻近くに無駄なく詰め込んでいるため、濃厚な読み口を味わえる。
そして、展開の魅力としてなにより伝えたいのが、伏線回収力である。伏線回収というか、過去描写の回収がとても上手い。最初読んでいる時は伏線だとも思わなかった描写が、試合の盛り上がるポイントや要所要所で回収される。これによって読者は非常に満足感の高い読書体験をすることができるのだ。
一気読みをした場合、そんないちいち過去描写を覚えていられるか心配、という方もいるだろう。しかし、心配ない。過去描写の回収は非常に多いので、全部気づかないということはほぼあり得ない。またマンガワンであればコメント機能で言及されている場合が大半なので、再度該当箇所を読み返すなどすれば同等の感動を得られるだろう。細かい描写についてはコメントですら言及されていないこともあるので、読み返す度に新たな発見もありつい何週もしてしまう。
そして、再序盤の練習パートの描写を大会で100話越し、200話越しに回収する……といったこともザラである。こうして、大会に向けた努力の日々が大一番の場と地続きであることを実感でき、非常に心を動かされる。
構成編について要約すると
・序盤では練習を丁寧に描写し、主人公が成長していく様を描く
・中盤以降は魅力的な相手と熱い駆け引きを繰り返す
・構成全体に無駄がなく、過去描写の回収なども豊富で積み重ねを実感できる。
といったところだろうか。この丁寧な展開の積み上げが、物語の味をより深め、結果として右肩上がりに面白い漫画が出来上がっていると感じる。また、丁寧に描写を積み上げる分、描写の一つ一つに説得力が生まれ、隙や粗が少なくなっているのも感じる。
2.2 表現力編
続いて、表現力の観点から灼熱カバディの魅力を語らせてもらおう。この作者は初連載ながら高い画力を序盤から見せているが、連載を重ねるにつれて更なる画力の向上がみられる。この画力は大まかに「キャラクターの表情」「絵のタッチの使い分け」「分かりやすさ」の三つに分けて話す。
まずはキャラの表情に関して、スポーツ漫画全般は登場人物の感情の揺れ動きを描写するのだが、その感情を表現する表情の描き分けがとても上手い。例えば、同じ諦念の笑顔でも、内に秘めた感情が暗いものか熱いものかの差を、表情 (と諸々の演出) で見事に表現しているシーンがある。
このように、表情の描き分けが非常に巧みで、キャラクターの内面の複雑な感情を画力で表現できている点は、この漫画を名作といえる要因の一つである。
画力の凄さは表情だけではない。キャラクターの感情を表すために、線のタッチを変え、漫画ならではの表現で情熱、焦燥、驚愕、意地などの感情を表している。例えば試合後、勝利に喜ぶシーンや敗北に涙するシーンは通常時の美麗なタッチ、大一番で気合を入れたプレーや、執念で体を動かしているシーンなどの内面の灼熱を表現するシーンでは荒々しい迫力あるタッチ、動揺する出来事でまるで時間が止まったかのように感じた場面では細い線の細やかなタッチ、威圧感のあるシーンではベタを使いコントラストをパキっとさせた堂々たるタッチなど、枚挙にいとまがない。
こうしたシーンごとのタッチの使い分けは、動かない漫画という媒体にスピード感やメリハリを生み、キャラクターの感情をより深く窺い知ることができる。
また、これは後述するが、この作品はキャラクターを多面的に描写し、魅力的に仕上げてくる。ここに絵のタッチの変化を乗せることで、よりキャラクターの一面一面が強調され、深みが増していく。
最後に分かりやすさ。この漫画は作画もさることながら、コマ割りや構図やらの作画以外の演出力すらも高い。スピード感あるシーンでは斜めのコマ割りを多用し、見せ場では見開きを使うなど、基本に忠実ながら印象深く読みやすい演出をしている。さらに、掲載媒体からスマホで読むことを想定してか、見開きにおける左右の情報の載せ方が考えられており、本来見開きに不利なはずのスマホという媒体を逆に演出として利用していると感じられる。そして紙の単行本で読むとまた違った読み味になるので、それもまた面白い。
他にも、漫画ならではの効果線や集中線など、基礎的な演出のレベルが洗練されていると感じる。これらの重なりが、画的な説得力を増し、完成度の高い漫画として成っている。
表現力編をまとめると
・純粋に画力が高い。連載を重ねるごとに表情の描き分けなどの技量が向上していく。
・絵のタッチの使い分けが上手く、漫画ならではの感情の魅せ方をしてくる。
・漫画的表現を活かした演出や表現が巧み。
という感じである。中盤以降の爆発的な面白さを支える要因として、画面の魅せ方が上手いというのは少なくない割合を占めている。
2.3 キャラクター力編
そして、この漫画はキャラクターが非常に魅力的である。主人公、チームメイト、それを支える大人たち、相手高校の選手etc……、登場人物一人ひとりを作者が大事にしていることが伺えるほど、心情や背景を丁寧に描写している。
そのため、この作品には明確に嫌いになる奴がいない。第一印象が最悪な人物であっても、読み進めるにつれて、本質はそのままに印象がガラッと変わる描き方をしてくる。もちろん人によっては最初の悪印象が抜けないという人もいるかもしれない。しかし、この漫画では、競技において本質的に嫌な人物は一切いないということは覚えていて欲しい。登場人物全員の共通点として、スポーツに関しては真摯であるという点がある。全員が例外なく己のチームを勝利に導くことを至上としており、必死に心を燃やしているのだ。だからこそ読者は登場人物全員を応援したくなる。
そしてここからは、登場人物の一部をざっくりと紹介していく。相手校にも数多くの魅力的なキャラがいるが、新鮮な気持ちで彼らと出会ってほしいので主人公チームのみに留める。
能京高校 宵越竜哉
本作の主人公。かつては「不倒」宵越として、サッカーで全国四位まで行ったスポーツエリートだが、高校では逆にスポーツ嫌いとして、スポーツとの関わりを避ける生活をしていた。この物語は、彼がスポーツへの熱を取り戻す所から始まる。
カバディは初心者だが、スポーツの才能はピカイチという設定が主人公として最適であり、伸びしろは大きいものの長年カバディをやっている猛者たちには及ばないというパワーバランスが丁度よく、さらに物語中の短期間で急成長することに対する説得力にもなる。
そして宵越のもっとも特筆すべき特徴、それは恵まれたリーチでも、経験によるスポーツIQでもなく、"不倒"の精神性である。宵越竜哉はメンタルが鬼のように強い。切り替えの早さ、土壇場での強さ、勝利への執念……作中でもトップレベルの一流のスポーツマン然としたメンタリティを持ち、だからこそ努力を惜しまない。主人公の一番の武器がメンタルというのはありきたりといえばありきたりだが、つい勝ってほしいと応援したくなる主人公として宵越は100点である。
そんな宵越竜哉だが、弱点がある。それはスポーツをやっていないとすごくザンネンなやつになる点だ。一話で生主をやっていたのもそうだが、勝負の世界から外れると「不倒 : 宵越」が「ヨイゴシ」になる。なんというか顔はいいのにとても残念な感じになるのだ。彼がスポーツに戻ってきて本当に良かった。
能京高校 王城正人
主人公チームの部長でありエース。かつて中学で日本代表に選ばれた「世界組」の一人。親の影響でカバディを幼少期からやっており、カバディへの愛で全身が出来ているといっても過言ではないほどのカバディ狂人。
この作品は基本個人の能力は才能 (フィジカルも含む)、努力 (その結果得た技術も含む)、精神の三つの要素の足し算で決まり、それらが足りなければ作戦や連携で補うというのが基本である。この構図は終始貫かれており、作戦や連携を駆使するのに才能も努力も精神も一級、みたいな敵もわんさか出てくるので、この三要素が高い水準で揃っているキャラでなければ、この作品における強いプレイヤーとは言えないはずなのである。
しかし、王城正人は違う。恵まれない体を持っており、筋肉も付きづらい。才能にあふれているタイプではない。しかし、にもかかわらず、王城正人は間違いなく最強の攻撃手である。つまり、異常なまでのカバディへの愛で、才能がなかろうと常軌を逸した努力を積み重ね、ひたすらに自分の持っている武器を磨き続けた結果、才能に恵まれた他のプレイヤーと同格、いや、攻撃に関しては比類なき選手に、努力と精神のみで成ったのである。
普段は大人しそうな華奢な少年が、カバディが関わると途端に魔王となる2面性、そして作中でも特異的なステータス配分、それらを支える狂気的なカバディへの愛。この人が敵じゃなくて本当に良かった。
能京高校 畦道相馬
宵越と同じ1年生。彼より一ヶ月早くカバディを始めており、彼がカバディ部に入る直接的な原因となった。
田舎育ちで、山で鍛えられた強靭な足腰を持ち、低身長ながらも高いカバディの才能を持つ。しかしスポーツの経験がなく、彼にとってカバディの世界は初めて訪れる「真剣勝負の世界」になり、次第にその重みと深みを知っていく。
ある意味主人公の対比となる「もう一人の主人公」であり、プライドが高く孤高な宵越とは逆に、人の気持ちに寄り添える稀有な優しさを持つ。宵越に欠けていた熱を与えたり、逆に宵越から勝負について教えられたりと、お互いに違うタイプだからこそ上手く噛み合っていいコンビになっている。
能京高校 井浦慶
副部長にして参謀。部長・王城正人の幼馴染でもある。オージョーノユージン。 カバディを小学生の頃から6年ちょいの間やっているが、中学の日本代表、いわゆる「世界組」には選ばれなかった。彼は世界組と自身を比較して、自分を凡人だと認めている。
実際、彼はトレーニングも食事に気をつけて行っているし、努力も惜しまないが、センスがある人間にはどうしても及ばない。そこで彼は自身の強みである頭脳を活かし、司令塔として作戦の立案や後輩の指導などでチームの力となっている。そして才能で負けている部分を、チームの力と作戦で補うのだ。
ただ、井浦慶は成績優秀で熱さも持った男だが、性格が腹黒である。試合中は意地と情熱でフェアプレーをする立派なスポーツマンだが、盤外で精神面の優位を得るため相手を煽るし、そもそも宵越を勧誘した手法も恐喝だしでまあ酷い。やはりツキがないのは単純に人徳が足りないからだと思う。
ただ、そんな一面を吹き飛ばすほどに熱い男が井浦慶である。必死に頭で天才と渡り合い、凡人なりに全力でもがき、部長の相棒として最高の働きをする井浦慶をぜひ見届けてほしい。
3. 灼熱カバディの欠点
ここまで灼熱カバディの魅力について語ってきたが、これらが真実なら今まで話題に上がらないのはおかしい、とこの文章自体に懐疑的になる人もいるだろう。まあ実際なんでこの作品が知られていないかはこちらが聞きたいのだが、作品を読むにあたって不利となる要素も述べなければ不公平だろう。というわけで灼熱カバディのウィークポイントについて話させてもらう。
3.1 物語の長さ
灼熱カバディは現在30巻近くあり、まあ単純に追いつくのは躊躇する巻数かもしれない。その上、構成編で述べたように、この物語は序盤の種まきを重要視し、次第にどんどん収穫していき物語が重厚になっていく、という形になっている。そのため、序盤はやや悠長に感じられるかもしれない (周回すると試合とのつながりを思ってしまうので、俯瞰して判断は出来ない)。また人に勧められて読み始めても、勧めた人は熱量の基準がおそらく大会編中盤以降の最高潮の熱になっているため、序盤の熱量とギャップを感じることもあるかもしれない。
これに関しては、本当に右肩上がりに面白くなるから読んでください、としか言えない。まあどうしても合う合わないはあるので、まず20話まで読んでほしい。そこまで読んで面白くないと感じたら、多分最高に盛り上がる大会の試合も楽しめない可能性が高い。
3.2 王道すぎる展開
この作品は、作者自身も述べているが「スラムダンク」のリスペクトが要所要所に感じられる。どうにもそのまさに王道という感じが、人によっては「お前らこういうの好きなんだろ?」と感じられるらしい。これは少数だとしても、熱血系の王道作品には相違ないので、そういうのが苦手な人は少なくないかもしれない。
これらに対するアンサーだが、まずこの作品はストーリーラインはベタだが、そもそもベタというのは、ベタになるほどに良いものであり、他の作品とモロに被っていないのであれば、ベタなストーリーラインはむしろ安心できる先人の轍だと言える。そもそもカバディが題材な時点で新鮮味は強いし、展開も予想を裏切り期待を裏切らないので、他のスポーツ作品のn番煎じというのは的外れな指摘になるだろう。
そしてこの作品は、実は熱血系ではあるが、それ以上に論理的なのだ。先に述べた通り、この作品は才能・努力・精神力がまず土台にあり、その差を連携や作戦で埋めるというパワーバランスが徹底されている。ここでいう精神力は、根性というより土壇場での集中力、試合でいかに実力通りの力を発揮できるかを表すステータスのことである。人間はどうしても気の持ちようでパフォーマンスが変化し、特に大会という大きい場では常に最高のパフォーマンスを出来るわけではないが、強いメンタルの人間は自分の中の最大値を常に出し続けられる。そして、意地や気合、根性はその精神力へのバフとして描かれている。つまりこの作品は情熱や根性だけでは勝てず、自身の持ち味を活かし、努力を積み重ねた先に強い想いを以て勝敗が決まる。アツい漫画だが、そのアツさは説得力を持った熱である。
3.3 回想・ナレーションが多い
どのキャラクターもバックボーンがあり、試合では日常の積み重ねを発揮するという都合上、キャラクターの活躍するシーンでは大体回想が入る。こればっかりは好みが分かれるとしか言いようがない。回想はそのキャラの活躍の説得力を増すし、相手の回想はキャラを掘り下げ好きになるきっかけとなるので、絶対に要るのである。これが多いと言われたら、だがそこがいい!としか返せない。まあ何周もすると少し気になるというレベルではあるかもしれないので、気にせず読むのが一番だろう。
重要な場面でナレーションが入ると冷める、という意見も見受けられた。これもまあレアケースな気がするが、漫画である以上俯瞰した視点が必要なので、これも「そうか」としか返せない。
まあこれらを気にせず読める人であれば問題はないだろう。そのうち慣れるし。
3.4 SNSとの相性
そして、何故人気が大々的に爆発しないのか。これは自分の仮説だが、灼熱カバディはXなどのSNSで広まりにくいのではないかと考える。その理由として、まずこの作品は王道スポーツ漫画なので、作品としてアクが強い訳ではない。カバディというマイナースポーツをやっている程度である。そのため、SNSで見かけてもフックが弱く、また名前を見ても元々の知名度が無いとカバディ(笑)で読まずに終わりかもしれない。要は舐められてんだよ。まず読みな。カバディってすごいから。
他にも、繰り返し述べるがこの作品は前半の積み重ねを大事にし、それをどんどん熱い展開に繋げるため面白い物語となっている。つまり数多くの名シーンや神回は文脈を前提とし、文脈の重みでぶん殴るのだ。これがSNSと相性が悪い。SNSで漫画を知るには狂っている人の感想を聞く、1話の試し読みを読む、興味の引くページやコマを見て気に留める、などが挙げられるが、灼熱カバディの名シーンや神回は、それ単品ではシャリも醤油もワサビも無い寿司ネタのようなものなのだ。まあただの刺し身でも美味いかもしれないが、そいつの本当の旨味は引き出せていない。トンチキなコマもなくはないが、灼熱カバディ一番の強みはSNSから知ることは難しいだろう。
まあ欠点はこんなものだろうか。あとはキャラがしんどいなどの意見もあったが、読み進めて他の面を知った上でそれでも苦手だったら仕方ないので、まずはその苦手なキャラがどういう思いを持っているのかが描かれている所まで読んでもらいたい。キャラクターの印象は往々にして変わるので。 要は20話で見切りつけて、ついて来れそうなら東日本大会1回戦が終わる91話まで読んで、灼熱を感じたらあとはもう167話、168話、177話等のハイパー神回が無数に控えた灼熱の世界を楽しめ、ということである。20話で駄目そうじゃないなら読んで損はしない。
4. 最後に
ここまで読んでいる暇があったら灼熱カバディを読め。最終話がおそらく7月って所なので、それまで無料なら今のうちに読め。単行本も買おう。
本当になんで人気が出ないのか分からない作品なのである。正直、自分は近い未来日本の高校には当たり前のようにカバディ部が出来ていると六年前に思っていたし、いい漫画は勝手に有名になると思って布教する努力も怠っていた。だけどこのまま終わるのは嫌だ。これで終わらせてたまるかっ!という思いのもと、一人でも多くの人がこの機会に灼熱カバディを読んでくれることを願って、熱の赴くままこの文章を書き上げた次第だ。
そんな灼熱カバディはマンガワンおよび裏サンデーで今だけ無料。裏サンデーはブラウザで手軽だが、面白い作者コメントが読めるマンガワンの方がオススメだ。なんなら二周してもいいぞ。
全人類読もう。騙されたと思って。