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湯布院町2会場で鄭東珠「墨碧展」
あるがままの現在地点を一望
大分市美術館の宇都宮壽館長の展評
「Chung Dongjoo 墨碧展」が由布市湯布院町の由布院アルテジオ美術館と由布院鄭東珠(チョンドンジュ)作品室の2会場で開かれている。27日まで。入場無料。大分市美術館長の宇都宮壽さんの展評を紹介する。
本展は昨秋に同会場で開催された「鄭東珠 開廊20周年 情熱の軌跡展」に続き開催されるもの。昨年の展示は、油絵を描き始めた20歳頃の作品をはじめ、転機となった40代から近年までの作品により、鄭の創作の変遷を追うことができるものであった。一方、本展は新作40点を含めた近年のものを中心に、墨字36点、墨象画(墨を用いて描かれる抽象的な絵画)8点、絵画33点、合計77点の作品で構成されている。
今回も2会場であるが、ここでは新作が多く並ぶアルテジオの方を中心に紹介する。会場に足を踏み入れると、左の壁一面に墨字の作品が現れる。まず、太めの筆で勢いよく書かれた「Let it Be」(あるがままに)の文字が見る者を迎える。続いて約90㌢四方の和紙をわずかな画数で覆ってしまうほどの太筆で書かれた「山」が並ぶ。「私の書は、書家の書ではなく、絵描きの書である」ということだが、さながら、清流が流れる山里にそびえ立つ雄々しき山のよう。山の右上部横に押された落款(らっかん)は、遠くに映る月のようにも、お日様のようにも見えるか。
反対側の壁に目を転じると、絵画作品が現れる。墨象画の作品は「心鏡 古里の山河」という題名があるように、実景か心象かの像を映すものではあるが、それ以外は抽象の作品である。壁面のほぼ中央には「imagination」というタイトルの作品が5点。白と墨を基調にしたものが左右に3点、内側に青、グリーン、それぞれを基調にした2点が並ぶ。
グリーンを基調にした作品は、縦横に何か鋭利な物で引っかいたような無数の跡が画面を覆い、その溝に濃い藍が染み入る。その奥にはエメラルドグリーン、さらにその奥には黄や金の色も見え隠れする。海の中から日の差す青空を見るような、深い森の中に差し込む木漏れ日を眺めるような、見る者の想像を誘う。
昨秋の展示が、若い頃の試行錯誤や苦闘を感じさせる作品も含む鄭の創作の軌跡をたどるものであったのに対し、本展は「Let it Be」の鄭の現在地点を一望できるものであろうか。この機会にその全貌をご覧いただきたい。この後「Let it Be」がどう変化していくのか、早くも来年の展観を待ちたいと思うのである。
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大分合同新聞 令和6年10月18日掲載