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『失踪①』〜50歳道子の移動スーパー奮闘記〜vol.19

『酒井さん、最近見てないよね?今日で3週連続来てないわ。』

道子は酒井さんの隣に住む塩田さんにそれとなく聞いた。

『あ、確かに。最近見てないわね。』

塩田さんは興味無さそうに答えた。隣とは言え、年代も違うのでそんなに仲が良いわけではないらしい。

酒井さんは80歳すぎのおばあちゃんだ。毎回、シルバーカーをゆっくりゆっくり押してやってくる。足はO脚に曲がり不自由そうだが、口は達者である。息子さんと2人暮らしだと言うこともあり、毎回買い物に来てくれて、食材を買う量も多い。家から販売場所まで500メートルくらいあるので、帰りは荷物の入ったシルバーカーを押して帰るのがしんどいらしく、毎回『荷物運んでくれない?』と真顔で頼んでくるが、特別対応は出来ないので断っている。そういうこともあって、あれ?今日は来てないな。と気にしていた。それがもう3回続いている。

 平畑市から委託された移動スーパーの仕事は見守りも兼ねている為、毎回来ている人が来ないとか異常を感じられると役所に連絡するように言われている。道子は報告した方がよいか、悩んだ。

『何かあったんですかねぇ。』

ともう一度、隣の家の塩田さんに聞くと、

『帰り、ピンポンしてみるわ。』

と言ってくれたので、お願いすることにした。

翌週。

塩田さんが、息を切らしながら、小走りにやってきて、道子の腕を掴んで言った。

『酒井さん、失踪しちゃった!』

道子は驚いて塩田さんの顔を見た。

🌟失踪②〜50歳道子の移動スーパー奮闘記〜に続く。見てね。


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