『積込』〜50歳道子の移動スーパー奮闘記〜vol.7
移動スーパーの担当であった山下が突然退職し、道子は入社6日目にして担当者1人となった。幸い、店長が協力的で本部の人もフォローしてくれた。また、Sマーケットのパートさんが交代で同行してくれた。
『間に合わん、間に合わん、ヤバイヤバイ』
涙がちょちょぎれると言う感覚は初めてだった。出発時間は迫る、積み込む量は盛りだくさん。あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ。まだ不慣れな道子はスーパーのどこに何があるのか把握していない。商品のピックにも時間がかかる。
移動販売で持っていく商品はお店で一番新しい物(消費期限が一番長い商品)を持って行くことになっている。綺麗に陳列してある商品。消費期限が長い商品は…一番下、一番奥にある。げーーー。
部門の担当者としてもせっかく陳列した商品を下から取られるのも気分が悪いだろう。
『おはようございます。失礼します…』
道子は一番下から商品を取ると、必要以上に綺麗に並べ直す。
『あ、そのままでいいよー』ベテランのパートさんだが、年齢は私とほとんど変わらない。優しく気を使ってくれるが、ここで調子に乗ってはいけないとわかっている。『すみません』もう一度言ってからその場を離れる。
ピックしてきた商品を移動車に見えやすいように積み込む。どの商品もパッと一目でみえるのが理想だ。道子はその作業も時間がかかる。
青果、鮮魚、精肉、和風日配(豆腐、漬物、練物など)、洋風日配(牛乳、パンなど)、乾物、アイスなど毎日600品目以上の商品を乗せる。積込は毎日2時間近くかかる。
出発時間ギリギリにようやく積込み終わったころ、ヘルプで同行してくれる店長がやってきた。
『島本 さん、ダスター(台拭き)もった?アイスつんだ?ビニール持った?トイレ行った?』
窪田店長は私より4つ年上だが、店長という立場だからか、随分年上のような感覚がある。男性だが、母親のように心配症だ。先日、少し暑かったのでブルゾンを脱いでいたら、『島本 さん!上着は!?寒くない?』としつこく心配された。子供でもあるまいし、ブルゾンは脱いでいたが裸だったわけでもないのに。…まぁ、めったに服装などで心配される年齢でもないのでありがたい話だが。
『はい。持ちました。宜しくお願いします』
道子は店長に頭をさげて、移動車に乗り込んだ。