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『危機』〜50歳道子の移動スーパー奮闘記〜vol.9
移動スーパーにお客さんが来なくなった理由はいくつかある。
① 区長やご近所さんに地域を盛り立てるために来て欲しいと頼まれ、初めの数回だけ来てみ
たが、もともと買い物には困っていない
② 品揃えに満足しない
③ 価格が表示されてないものが多いので安心して買い物ができない
④ ご近所さんに買ったものを見られるのが嫌
⑤ 販売員が嫌い
⑥家族から買い物を止められる、または家族が買い物をしてきてくれる
⑦他のサービスに切り替えた(個人宅配や他の移動スーパーなど)
⑧ 入院、施設に入った。デイサービスに行くようになった
⑨ お亡くなりになった
⑧、⑨の理由に関しては仕方ないと思う。お客様はご高齢の方が多いので、自転車で来られていた方が乗れなくなったとか、転んで1人で出歩けなくなったとかいうことも度々ある。
しかし、①〜⑦の理由に関して道子は自分が何かできたのではないかと思っている。道子の移動スーパーに魅力がない、または満足出来てないのだ。そして、どこに満足できてないのか、お客様に聞くことすら出来なかったことを後悔する。
道子が巡回している地域は過疎地ではない。そして移動スーパーのお客様は買い物に行けなくて困っている方だけではない。家族と同居していたり、週末は子供が買い物に連れて行ってくれたり。もちろん、自分で運転して買い物に行ける方もいる。いつ、ぱったり誰も来なくなる日が来てもおかしくない。700品目積んでいると鼻息を荒くして言ってもスーパーには敵わない。価格もスーパーの特売には敵わない。移動して家の近くに来てくれると言ってもお客様にとっては数あるお店の一つであって唯一のものではないのだ。
ぱったり来なくなった内野公民館前のお客様一人一人にどういう理由があったのかはわからない。ゴールデンウィークはお客様ゼロの日もあったが、今では3人ほど毎回来てくれるお客様がいる。最初に拍手し、歓声をあげてくれた20人近くのお客様も来週にはお買い物に来てくれるかも知れない。
来なくなった理由ばかり考えるのはやめよう。来てくれるお客様に密度の濃いサービスをしよう。もっと魅力ある売り場づくりをしよう。地道にチラシを配布をしよう。
道子はそんなことを考えながら、次の販売場所に向かって車を走らせていた。次の販売場所ではいつものお客様が3人、仲良く談笑しながら待ってくれていた。道子はホッとしながらお客様に笑顔で手を振った。