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『好意②』〜50歳道子の移動スーパー奮闘記〜vol.14

 ここ数年、6月は夏だ。今日も暑かった。残り1箇所。道子は野口交差点を右折し、カーブが続く道路を運転しながら、到着を知らせる曲が流れるスイッチを押した。
 だだっ広い広場は隅に大きな桜の木があるが、下は雑草だらけである。明らかに『地域の憩いの場』では無さそうだ。移動車も雑草だらけで入れないのでそこから1メートルほど離れた道路で販売するようにと区より指示を受けている。

 『電話のお問い合わせのお客さん、場所わかるかな?』

 店長は自分の説明が伝わっているのか心配そうだ。

『あ、おじさん、ですよね』

道子も商品を並べながら同じことを考えていた。おじさんが来たら声をかけよう。

 商品を並べ終わる頃、いつもの来てくれるお客さんが集まり始めた。この販売場所、野口公園は10人くらいのお客さんがいるが、お客さん同士が仲良しで和気あいあいとしている。早田という70代くらいの男性が気さくで皆んなから慕われており、早田が来ると特に賑やかになる。

『早田さん、今日お店にここの場所を聞くのお問い合わせの電話いただいたんですよ。男性なんですけど。』

道子は早田に話しかけた。早田は最近お気に入りのアーモンドandフィッシュを手に取りながら『え?そうなの?誰なんだろ?いいじゃん!』とニコニコと答えた。

いつものメンバーの買い物が半分くらい終わった頃、道子は70歳くらいの男性がパンを見ているのに気付いた。

『今日はお問い合わせのお電話ありがとうございました。場所、すぐわかりました?』

 道子は、ためらわず声をかけた。

『ん?』

道子はその客の表情でとっさに、違う、と感じた。

『あっ、スミマセン。今日こちらの場所がわからないと言うお電話いただいて、男性だったので、お客様かと…』

しどろもどろに道子は説明した。

『いや、オレじゃないよ、いつもは奥さんが来るんだけどさ、今日たまたま通りがかって車が止まってるのが見えたからさ、へぇ、色々あるんだねー、』

 お話し好きだったようで、少し長い対応をすることになった。対応しているとまた70代らしい男性が来た。キョロキョロしている。あ、この人か。と思ったところに早田がその男性に話しかけた。

『三峰さん、珍しいねー。夕飯買いに来たの?
あ!ここの場所、電話で聞いたのは三峰さん?』

早川の知り合いのようだ。道子が尋ねる前に聞いてくれた。道子も挨拶しながら近づく。

『いや、違うよ。野口公園、俺が知らないわけないだろ。花見やってんだから。』

三峰は牛乳を取りながら答えた。そうか、野口公園を知らないということは少し離れたところに住んでる方かもしれない。

 殆どお客は買い物を終えて帰ってしまった。場所がわからなかったのか。店長の説明が下手だったのでは?道子はそんなことを思い始めていた。

 その時、自転車に乗った大柄のショートカットの女性が販売場所で止まった。移動スーパー利用客にしてはまだ若い。道子と同じくらい?40代かも知れない。

『いらっしゃいませ。どうぞ。』

 道子はお客様用の買い物カゴを大柄の女性に渡した。道子も大柄でショートカットだから姉妹のようだ。

『もう、終わりですか?』

女性は息を切らしながらぶっきらぼうに尋ねた。自転車をかっ飛ばして来たようだ。

(あっ!!!)道子は声を上げそうになった。彼女の声がとても低音だったのだ。

『お電話いただきました?』

道子は覗き込んで聞いた。

『ええ。違う公園行っちゃって…』

はにかみながらぶっきらぼうに答える。そうですか、間に合って良かったです、と道子は言ってから、レジで無意味な作業をしている店長のところに駆け寄り、ヒソヒソ声で言った。

『店長!おじさん、じゃありませんよ!おばさんでも失礼なくらいだしっ!』

店長はチラリと大柄の女性み目をやり、えっ!あの人が?電話の?と言う顔をした。そしてヒソヒソ声で、

『男性でしょ?』

ショートカットの女性に一番言ってはいけない言葉だ。

『女性ですよ!』

道子はちょっと怒り気味に店長に食らいつく。が、同時に(ん?女性だよ…ね?)

その客の買い物が終わって自転車でみえなくなるまで、女性だと確信は持てなかった。
そんな道子の疑問を察するかのように

『ね?アレは電話だと間違うでしょ』

デリカシーの無い店長が、困った顔で微笑んでいた。

好意③に続きます。見てね!



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