『発進』〜50歳道子の移動スーパー奮闘記〜vol.8
道子が担当している平畑市は人口15万人。勤務しているSマーケットの隣市だ。人口が多い地域やその近郊(車で15分圏内)はスーパー激戦区で毎日何枚もスーパーの折込広告が入るような地域だ。
こんな場所で買い物に困っている人はいるのか?と思うだろう。
車もなく、自転車にも乗れない高齢者、また介護をしていて長時間家を空けることが難しい方、体が不自由な方などは買い物困窮者と言えるだろう。
そして、200メートルでも決まった時間に徒歩や自転車で販売場所に来るのは大変なことだと思う。
平畑市とSマーケットのコラボレーションで始まった移動スーパーは、1週間に巡回する販売場所が決まっており、一日8〜9カ所まわる。一カ所の販売時間は15分〜20分だ。
道子は初めて回った日のある販売場所を鮮明に覚えている。木曜日の午前中最後に伺う内野公民館の駐車場だ。木造一階建の公民館には駐車場に向かって長い縁側があり、駐車場に入ると縁側に座った20人近くのお客さんからワーッと完成と拍手が上がった。50歳代から90歳代のお姉様方の笑顔、笑顔。男性も数人いたが、女性のパワーは凄い。道子は恥ずかしいやら、誇らしいやら、緊張するやら、嬉しいやらで涙がジワっと溢れた。
『あー、私はこういう仕事がしたかったんだ。お客さんに感謝されて、役に立って。』
心からそう感じた。
『お魚美味しいですよ!
1パック398円でーす!ご利用下さーい!』
道子の売込みにもチカラがはいる。販売は得意だ。声を出すのも躊躇しない。飛ぶように売れた。毎回、盛り盛りの商品を積んで行った。この販売場所は売れる!必要とされている!手ごたえを感じていた。
2ヶ月が経った頃、お客さんがパッタリ来なくなった。何が起こったんだ!?ゴールデンウィークだから?怪文書でも回ったとか?!
道子はもうすでに夏かと思うような暑い中、販売を知らせるBGMのボリュームを大きくした。20分待ったが、その日の利用者はまさかの0人だった。