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裏側で支える人から #6
前回の面談を終えてから引き継ぎの書類を作成し、遠藤宛に送付して一通りの業務を終えた○○。はじめての業務を終えたわけだが、なかなか気は晴れない。
五「なんか最近元気ないなぁ。どうしたん」
○○「ウムムムちょうど最近はじめての新規事例やってみたけどさぁ、梅澤さんにおんぶに抱っこ状態でなかなか自分でこうできたと思ってなくて。室長にも何度も助けられて。」
黙って聞いている五百城。そんな会話を久保もこちらを見ないようにして聞いていた。
五「正直ウチは福祉の事詳しくはわからへんけど、初めての時ってこんなもんなんじゃない?」
久保も一通り打ち込み終わった後にこちらを向く。
久「さくちゃんだって最初こんなもんだったよ?むしろ当時は副室長が取り仕切ってたからなおさら。だから大丈夫。じゃあちょうどいいから私の事例手伝ってもらっていい?」
2人から後押しの言葉を貰って少し気を取り直せた○○。
次に担当したのは、久保がここ数年継続して担当している患者さん。便宜上ここでは「河合さん」と呼ぶ。
河合さんは2型糖尿病をお持ちの方で現在、血糖コントロールと家族のレスパイト、壊疽のケア目的で、地域包括ケア病棟に入院中。レスパイトが終わることと同じ法人内の介護老人福祉施設への受け入れが決まったことから一緒に引き継ぎをすることになった。
今後の流れや一緒に行う業務について確認をしているそんな矢先、中央検査室から1本の電話が入る。
○○「相談室です」
大園「お疲れ様です。検査室大園です。先ほど地域包括ケア病棟の河合さんが発熱されたとのことでこちらに検査が回ってきたのですが、血液検査でバンコマイシン耐性腸球菌検出でした。詳細情報は後ほど病棟からあるかと思います。よろしくお願いします。」
考えられる中で、1番最悪な発熱だった。抗菌薬の王様と呼ばれるバンコマイシンへの耐性を持った細菌である。電話の内容を近くにいた五百城に伝えると、目が点になった。
五「発熱はまだしもその電話ほんま?ほんまだったらかなりやばいんだけど。」
珍しく焦りの表情を見せる。
ちなみに久保は頭を抱えていた。
その後、主治医からも同じ内容の連絡があり、施設への転院は一旦ストップと言うことになった。
久保「_(-ω-`_)⌒)_プシュ〜これまでの努力がァ」
梅「話は聞いたよ。でもまだ今は検出されたってだけで、褥瘡とかそこら辺に関してはまだ不明な点が多いから、とりあえずは待つしかないかな。」
この話を室長にまであげたところ、一旦施設側に連絡を取ってみて、無症状保菌でも大丈夫かどうか確かめてみると良いとアドバイスを受けた。
真佑「ちょっと待ってぇ…初めて聞いたんだけど、その菌」
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今回、施設への転院をするにあたり尽力してくれている施設側ワーカーの田村真佑さん。久保さんとは同期の歳違いであり、年に数回は一緒にご飯に行くほどの仲である。
真佑「この方って、インスリン自己注射は自分でできるんだよね。」
○○「そこは自分でできます。今施設にハイリスクの方っていますか?」
真佑「今のところはいない。もともと個室を用意する予定だったから多分大丈夫だと思うけど、私がこんな様子だからこちら側の看護師さんは大混乱だと思うなぁ」
○○「そうですよね。一旦ストップになったことですし、この段階の情報整理した上で、またお互い話し合いましょうか。」
真佑「それが1番良いかも。こちらでも共有しておくね。」
その後、病院での詳細検査の結果、発熱とは無関係で現在は症状を出していない無症状保菌であることが確定。ご家族様にもこの情報が伝わり、「もともと長期入院をしていた事と入退院を繰り返していると糖尿病にはリスクがあることを知っていたので、これはしょうがないと思う。壊疽も出ていることからこの先もし施設が受け入られないとなったら自宅介護しかないかなと。」とお言葉をいただいた。その上で改めて施設側と話し合いをし、
・現在はハイリスクの利用者さんはいないため、受け入れは決定。
・はじめてのケースになるため、病院側の感染症対応医師と臨床検査技師に施設に来ていただき、研修をしてもらいたい
ということに決まった。病院側からは、救急の土田ドクターと中央検査室の大園さんが向かうことになった。そしてこういう時に頼りになる方がもう1人。
小池「お疲れ様〜私の出番だね」
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感染管理認定看護師の小池美波さん。普段は感染管理室にて院内感染防止のための取り組みをしている方であるが、この度のことがあるため応援を依頼した。
小池「もちろん施設側にできることできないことはあるからそこは向こうと話し合ってだね。」カタカタ
先に受け入れ側の施設にて勉強会を行い、改めて日常の感染防御についての研修も同時に行った。
その後「まだまだ不安点はあるけど、河合さんはすぐに施設に慣れて穏やかに過ごされているし、家族さんも納得されてる。色々ありがとうね。」と真佑さんに申し送りされて業務は終了となった。
登場人物振り返り
田村真佑
病院と同じ系列の介護老人福祉施設に勤務するソーシャルワーカー。経歴は久保とほぼ一緒であり、普段からお互いの状況について情報交換をしている。アニメ声というか鼻にかかったような声が特徴。
小池美波
感染管理認定看護師。穏やかな性格だが、理論的にかつ効率的に業務をこなす。市中の感染症の広がりにセンサーを張り巡らせている。ちなみに市内のはずれにある高度救命救急センターには大学院同期の齋藤冬優花(こちらも感染管理認定看護師)がいる。トレードマークは白銀の長髪。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
バンコマイシンと呼ばれる抗菌薬に対し耐性を持った腸球菌のこと。そもそも「腸球菌」とは主に腸管にいる常在菌の一種で、病原性はかなり低く、保菌というだけでは積極的な抗菌薬治療はしないことが多い。
○○が言う「ハイリスク患者」とは、尿道カテーテルや血管カテーテル留置済みの患者さんや免疫不全の患者さんなど、日和見感染を起こしやすい患者さんのことを指す。
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