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裏側で支える人から#14

応援体制が敷かれて久しい頃。〇〇はある目標を持っていた。それは「救急認定ソーシャルワーカー」である。急性期医療のうち超急性期に当たる救命。その初期段階で介入するための資格であり研修である。それを意識するきっかけとなったのがこの搬送例である。


今日の担当は〇〇と小島2人。と言うのも現在は準夜勤帯。

小島「なんでまた夜勤なんて申し出たの…」

〇〇「興味本位と言えばそれっきりですが。夜の救命ってどんな感じかなと勉強させて頂きたく。」コーヒーゴクゴク

小島「ほぉ、物好きだね。この時間帯以降は基本的に命に関わる搬送とそれ以外にくっきりと分かれるかな。落差が大きいというか。」

〇〇「ドンと来いです。」(ドンッ)

小島「(不思議な子…)」


ウォークインで来院した患者さん数組の受け付けが終わったあと、1本の電話が鳴る。当直の看護師が受付票を書き、こちらに投げる。

村山看護師「CPA、風呂の中で温水溺水。高齢者」

救命特有の単語連絡。小島さんがカルテを打ち込み、それをちらっと見て〇〇は風除室の脇にあるハンガーから防寒着を取り出して外に出る。

〇〇「搬送隊は少し遠いけどETAは早いはず…」
発作後〇〇に追加された業務が救急車の誘導と家族誘導である。心理的に負担が大きいカルテ作成を減らしつつ、その代わりこれまで警備員が行っていた業務の一部を請け負っている。

そこへ救急車が滑り込んできた。流れるように家族誘導を済ませる〇〇。それを追いかけるようにストレッチャーが降りる。身長が低めの救急隊員が必死に心臓マッサージをしていた。ちなみに〇〇は身長180cmある。

森田「心マ代わっていただいてもいいですか?」

〇〇「はい!」

森田「いきまーす、1!2!の3!」

力を込めるためストレッチャーに乗り、胸の中心部をしっかりと押す。研修の一環で見学した自動心臓マッサージ機のルーカスのイメージで回数を数えながら無心で押す。

橋本「ベッド移すよ!心マストップ!」

全「1!2!の3!」

橋本「ルーカス付けて!パルスチェックしよう」

手際よく心電図とルーカスが取り付けられ、ようやく解放された〇〇。心地よい疲れのまま隊長から申し送りを受ける。

藤吉「患者さんは吉田△さん、85歳。入浴中なかなか出てこないことに家族が気づき、浴室に行ったところ溺水状態で発見。バイスタンダーCPRされています。救急車内の心電図はエイシスでした。」

高齢者でよくある浴室内での溺水。ヒートショックを伴う場合脳の状態にもよるが予後は良くないことが多い。

藤吉「付き添い家族は息子夫婦です。発見者である本人の夫はその場で失神しているため、回復を待って別の家族と共に現在タクシーにてこちらに向かっています。」

情報の聞き取りを終え、橋本ドクターが処置に向かったあと、小島さんが作成したカルテを持って家族控え室に向かうと見知った顔。相談室の同僚の吉田綾乃クリスティーさんであった。


吉田「〇〇くん…」( ´・ω・`)


尚更同僚となると声がかけづらい。吉田さんの旦那さんは〇〇の高校の後輩。憔悴した顔になっている。


橋本ドクターを交え、現在の状況や今後の手続きについて説明を行い、控え室を出ようとすると、駆けつけた△さんの夫が〇〇を呼び止めた。


「少しだけ…一緒にいてくれないか?」

「はい、なんなりと。」

「長年連れ添った妻がこんな状態になって俺はどうしたらいいのかわからない。さっき先生からも説明があったがなかなか受け入れられない…」

軽く手を握りながら話を聞く〇〇。最初こそ混乱していた様子の夫であったが、少しずつ、それでも確実に心の中の整理をつけていた。途中で橋本ドクターがオンコールした緩和ケア医の澤部ドクターが駆けつけ、負担が少ない人生の仕舞い方について話し合いをしていった。


1時間後

橋本「力の限りを尽くしましたが、脳幹出血があったことと心肺停止から時間が経っていることから救命は難しいです。(夫)さん、どうされますか?」

夫「(息子)、綾乃さん、俺はもう終わってもいいと思っている。これだけたくさんの管が入ってる状態で生き永らえるのは妻も望まないと思っている。」グスッ

吉田夫婦「それがお父さんの思いなら私達は尊重するよ。」

夫「わかった。〇〇くん、話を聞いてくれてありがとう。」

〇〇「いえ。(夫)さんの決断、尊重致します。」コクッ(* . .))

その後、夫の合図により人工呼吸器のスイッチが切られると、徐々に心拍数が低下していく。妻の手を握る夫。無言ながらも愛が伝わる。その場にいる全員が目を潤ませる。

橋本「午前3時25分、死亡確認とさせて頂きます。お力添えできず申し訳ございません。」

妻の亡骸を愛おしそうに触る夫。こちらには聞こえてこないが、何か言葉をかけているようだ。準備を整えた澤部ドクターと霊安室担当スタッフによって運ばれていった。


翌日

かかったお金の支払いのために再び病院を訪れた吉田夫婦。そこへ設楽と松陰寺が話しかける。

設楽「この度はご愁傷さまでございます。吉田さん今週は休んでもらって大丈夫です。」

綾乃「ご配慮頂きありがとうございます。ようやく実感が湧いてきて…喪失感が。」

旦那さん「父もあの日は頑張っていた様子ですが、改めて棺を見てこの世からいなくなったことに気づくと憔悴してます。」

松陰寺「もしよろしければ、ですが、当院ではグリーフケアをしています。臨床心理士と医師がプログラムを作っていますので。」ペラッ

綾乃「パパがあの感じだし、お葬式が落ち着いたらお願いしようかなと。」

松陰寺「承知致しました。」


同時刻、この事例だけでなく超急性期の患者さん及び患者家族への介入についてフガフガした気持ちを持ったまま夜勤を終えた〇〇。

〇〇「もっと勉強しないと仕事にならん( ˘꒳˘)このまま本屋行こ」

小島「向上心凄いねぇ…」(。ρω-。)ネムネム

村山(〇〇くんね、覚えておこう。あの対応印象的だったなぁ。)


橋本奈々未
救命救急センターの救命医。専門は脳神経外科。身長が高くて、すらっとした体型が特徴。IVRなどの血管内治療が得意分野。

村山美羽
救命救急センター看護師。〇〇とはこの日が初対面。技術は確かだが愛想の悪さがあり患者家族とのコミュニケーションは苦手意識がある。小島にどうしたらいいかよく質問している。

藤吉夏鈴、森田ひかる
乃木坂市消防局の救急隊員。のちのエピソードで〇〇と一緒に出動することになる。

森田「誘導してくれた方身長大きかったですね」モグモグ
(薬剤投与認定救急救命士)

藤吉「私より大きいから…180くらいはあるでしょ。」
(指導救急救命士、気管挿管認定)

松田「そんな大きい子いたの?」モグモグ
(機関員、はしご車から化学車から何でも乗れる)

森田「私見上げましたもん。デカって」

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