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【長編小説】さよならが言えたら#4

【キャラクター説明】
[桜空]
15歳。一年前の夏祭りの日、事件に巻き込まれて両親を亡くす。近藤に引き取られ彼の営む剣術道場で暮らすようになる。
[総司]19歳。近藤の剣術道場に居候している。
[近藤]剣術道場を営んでいる。
[すみれ]近藤の妻。医療担当。
[敬助・三哉]
桜空と総司の友達。近藤の剣術道場に通っている。

[あらすじ]
 総司と夏祭りに行くことになった桜空。浮き足立つ桜空を、いやな予感が襲っていた。二人で夏祭りを楽しんでいたとき、誰かが総司の名を呼んだ。その声の正体は……。

[本文]

「あっ、総司ぃ~!」
 少し人混みが薄れて、人と人の間が開いてきたころ。敬助さんと三哉くんがこっちに手を振って、駆け寄ってくる。
「楽しんでいますか?」
 総司さんが、二人に尋ねる。敬助さんは、両手に食べ物をもっている。三哉くんが持っているりんご飴は、たぶん敬助さんのものだろう。
「とっても楽しいよ。そっちも楽しんでるぅ?」
「は、はい。」
 喧騒にかき消されないように大きい声で言った。
三哉くんは、敬助さんにさんざん振り回されたようで、とてもゲッソリしているように見える。
「僕は少し疲れました。敬助先輩があまりにも元気すぎて……。」
「そういえばね、あっちの神社の方で、盆踊りしてたよ。時間があったら行ってみたらどうかな……」
 会話の途中で、敬助さんの言葉が止まる。まるでまずいものを見つけたかのように動かない。
「総司がいない…!もしかしてはぐれた⁉」
 右側にいたはずの総司さんはいつの間にかいなくなっていた。いなくなっていた、なんて生易しいものではない。全方位に人がいて、この中から総司さんを探すのは至難の業だ。
 このまま、花火が上がるまで見つからなかったらどうしよう、と、不安に駆られる。
「このまま悩んでいても埒が明かないです。僕は神社の方を探してきますね。」
 三哉くんがそう言って、探しに行く場所を割り振っていく。
「敬助先輩は、この付近、出店街を探してください。桜空ちゃんは、道場の方面を探してもらえると助かります!」
 花火が上がる前に、神社に集合しましょう、三哉くんはそう言って、神社の方にかけていった。
「くれぐれも気をつけてね。」
 とても真剣な表情の敬助さんに言われて、ただ頷くしかできず、人込みをかき分けながら、道場の方へ向かった。

 出店街の明かりが薄れ、少しずつ人気がなくなる。
道場に向かう道は草が生い茂っていて山道とあまり変わらない。そんな夜道を走り抜ける。
 突如耳鳴りがして、呼吸が苦しくなる。
 あのときの、あの場面と重なる。
 血だらけで倒れていた両親を見たのに、何もできないままただ逃げるだけ。そんな自分にイラついたのか、こんなことになってしまった、世界を恨んだのか。
 頭を振って、あのときの記憶を追い出す。
 夏夜の冷たい空気が、喉を刺す。
 突然、足元につまずく。暗くてよく見えない足元に目を凝らす。
 足元にあったのは、水の文様の描かれた淡い青色の狐の面だった。思わず拾い上げる。赤黒い泥のようなものが点々と、べったりと付いていた。

[告知]
次回!
 突然居なくなってしまった総司。
 桜空が拾ったお面に付いていたものとは!?
 そして総司はどこへ行ってしまったのか!?
 さよならが言えたら#5 お楽しみに!


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