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【長編小説】さよならが言えたら#10

【時代背景】
江戸時代後期ごろ。(現代ではありません。また、歴史に基づいた物語ではないので、時代だけ頭に入れていただけるとすんなり読めるかと思います)

【キャラクター説明】
[桜空]
15歳。一年前の夏祭りの日、事件に巻き込まれて両親を亡くす。近藤に引き取られ彼の営む剣術道場で暮らすようになる。
[総司]19歳。近藤の剣術道場に居候している。
[近藤]剣術道場を営んでいる。
[すみれ]近藤の妻。医療担当。
[敬助・三哉]
桜空と総司の友達。近藤の剣術道場に通っている。

[あらすじ]
 総司と夏祭りに来ていた桜空。しかし、途中で総司とはぐれてしまう。
 道場に探しに来た桜空は、道場に見知らぬ女性と血だらけの総司を見つける。総司の付きまといをしていた女性は、勘違いから総司を殺そうとしていた。
 総司を守るため、過去に踏ん切りをつけるため桜空は女性に立ち向かい、拘束することに成功する。
 しかし、総司のけがは重く、鼓動弱くなっていく。
 そこへ近藤たちが駆けつけたことに安心し、桜空は気を失ってしまった。
 目が覚めると、桜空はまわりに誰の気配もないことに気づく……。

[本文]

 処置室に走る。あのケガなら、処置室にいるだろう。きっと、大丈夫だろう。すみれさんが総司さんのことを助けてくれたはずだ。無事だったと信じたい。
 きっと、無事だ、と。
 重たい扉を開く。
 しかし、ここにも誰もいない。あるのは、棚に並べられた、異様なにおいを放つ薬品だけ。ゴミ箱を覗くと、赤黒い血の着いた布や紙がたくさん入っていた。
 まさか。
 嫌な予感が背中をなぞる。鳥肌が止まらない。心臓の音が怖いくらいに大きく響く。冷や汗が出て、足が震える。
 もしかしたら、総司さんは、もう、
 そんな考えを振り払いながら、道場に走る。足首がおかしな方向に曲がり、転びそうになる。でも、そんな痛みより、総司さんを失う痛みの方が、ずっと痛い。
「総司さん!」
 道場の戸を開く。今度こそ、ここにいると。
 おそるおそる目を開ける。
 道場の真ん中に、敬助さん、三哉くん、近藤さん、すみれさんがいる。
 そして。
 四人が囲んでいるのは、総司さんだった。上半身を起こして布団の中にいた。
「総司さん!」
 一直線に走り抜ける。疾風のように。
 はやく、はやく、すぐそばで、すぐ近くで、無事を確認したかった。
 総司さんは、生きているのか、無事なのか、元気なのか。大丈夫なのか。
「桜空、おはようございます。」
 総司さんは、そう言って穏やかに笑った。いつもと 同じように。
 涙があふれる。
 まるで何もなかったかのように、総司さんは、爽やかに、笑った。
 考える前に体が動いた。動いてしまったのだ。 本当に、この世に総司さんの体があるのかを、確認したくて。

「桜空。」



[告知]
次回!
 無事だった総司を見て、涙が零れる桜空。
 思わず体が動いてしまった桜空に、
 総司が優しく声をかける。

 さよならが言えたら#11 最終回です!!!!
 お楽しみに!

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