見出し画像

【長編小説】さよならが言えたら#6

【時代背景】
江戸時代後期ごろ。(現代ではありません。また、歴史に基づいた物語ではないので、時代だけ頭に入れていただけるとすんなり読めるかと思います)

【キャラクター説明】
[桜空]
15歳。一年前の夏祭りの日、事件に巻き込まれて両親を亡くす。近藤に引き取られ彼の営む剣術道場で暮らすようになる。
[総司]19歳。近藤の剣術道場に居候している。
[近藤]剣術道場を営んでいる。
[すみれ]近藤の妻。医療担当。
[敬助・三哉]
桜空と総司の友達。近藤の剣術道場に通っている。

[あらすじ]
 総司と夏祭りに来ていた桜空。しかし、途中で総司とはぐれてしまう。道場に探しに来た桜空は、道場の中に見知らぬ女性がいることに気がつく。そして、桜空が戦慄した理由とは……。

[本文]

 女性の手には、赤黒い血液のべったりと付いた小刀が握られていた。
 それだけがすっぽりと抜け落ちたように、呼吸の仕方がわからなくなる。
 すった息をどうはいたらいいかわからず、立ち尽くす。
「……、え……。」
 やっと冷静さを取り戻し、出すことができたのは、たった一つの文字。
「…なん、……で…。」
 絞り出すようにして出た言葉は、何とか言葉として成り立った。
 思考が追い付かない。絶対にないと思っていた想像の中の出来事と、記憶の中の出来事が結びついて一つの現実を作り出した。
「…桜空っ…!逃げてください……!」
 視界の端からゆらりと現れた影は、見慣れている総司さんの形を成した。
 総司さんの言葉を意味のある文章だと理解したのは、しばらく経ってからだった。
「総司?どうしてそんなこと言うの?まるで私が恐ろしい怪物みたいじゃない。」
 私を守るように立ちはだかった総司さんの向こうに見える女性が、そう言った。誰だか分からない。でも、まるで総司さんと親密な関係にあるような話し方をする。
 総司さんがゆらりとよろけた。思わず支える。
 支えたこの両手に、赤黒い液体がべったりと付いた。   それが血液だと理解するまで、さほど時間はかからなかった。
「総司さんっ!」
 考えなしに出た言葉は、悲痛な叫びを伴っていた。
「あなた、総司と仲がいいの?どうして?総司は私のものよ?どうしてそんなに仲が良さそうなの?気に食わないわ。」
 女性が、一歩一歩近づいてくる。無垢な表情で、恐ろしいことを口にする。右手に持った小刀を器用に動かしながら。
「桜空…、俺のことは、いいですから…!早く逃げて……。」
 支えを拒むようにして総司さんは私を押しのける。
立っているのが不思議なくらいの出血なのに。
 胸がずきずきと痛んだ。
 なんで、この人はこんなに……。

[告知]
次回!
 桜空の目に飛び込んできた、
 血だらけの総司と知らない女性。
 総司と女性の関係は?
 二人の間に何があったのか!?
 さよならが言えたら#7 お楽しみに!

いいなと思ったら応援しよう!