【小説】 ウィザード #11
町の人々もレオに続き、消火活動を始めた。誰も、レオを責めることはしなかった。
ただひとりを除いて。
「うあぁあぁぁっ」
アメティスタとともにいた少年だった。怒りか、悲しみか、やり場のない思いを発散するように泣き叫んだ。そして、アメティスタの元を離れ、消火活動を続けるレオに向かって駆けてゆく。
アメティスタは少年を追った。
少年はレオの腕をつかんで家から離れる。それからレオをキッとにらみつけて言った。
「なんでっ!僕の家だっ!勝手に燃やさないでっ!」
レオは舌打ちをし、掴まれたままの手を振りほどこうと手をぐっと引いた。そのとき、少年の口からヒュッと息を吸う音が鳴った。少年は思わずレオから手を離した。
レオの袖から、赤黒い血が流れていたから。
外套にも血が染み込んでしまっていたようで、少年の手にレオの血がついていた。
「レオ様大丈夫ですか!」
アメティスタが駆け寄る。
「大丈夫に決まってんだろ」
レオはアメティスタに背を向ける。
「どこがですか!」
アメティスタは出来るだけ傷に触れないようにしながら外套の袖を上げる。火傷のような傷に加えて鋭利な刃物で切りつけられたような傷が、レオの腕でひしめき合っていた。
「治療します。外套を脱いでください」
アメティスタがそういったとき、少年がアメティスタの服をきゅっと掴んだ。
少年は何も言わなかった。しかし、掴んだその手がカタカタと震えていた。
少年に向かい合うと、アメティスタは優しく少年の頭を撫でた。
少年はアメティスタから離れようとはしなかったが、アメティスタはそのままレオの治療を始めようとした。
「レオ様、こちらへ」
「大丈夫だっつってんだろ!」
レオは大きな声で怒鳴るように言い、腕を掴もうとしたアメティスタの手を振りほどいた。
「…大丈夫だって、言ってんだろ」
レオは、力無くもう一度言った。