【短編小説】おじいちゃん、おばあちゃん
祖父母は、とても優しい。
それは、私にとっては普遍で不変の真実であり、事実だった。おじいちゃんの方がおばあちゃんより年上だけど、おばあちゃんの方が立場が強い。それもまた、私の当たり前の1つ、
だった。
あるときから、おじいちゃんがおかしくなった。おばあちゃんに怒鳴ったり、ものを投げたりするようになった。
だけどそれはいつもじゃなくて、たまに、一瞬だけ現れる悪魔みたいな感じだった。
そういうことが続いて、私は祖父母の家に行くのが怖くなった。私の知らない怖いおじいちゃん、そんなおじいちゃんの世話に疲れた笑わないおばあちゃん。
どうしたらいいのか分からず、ただただ怖かった。
そんな中、おじいちゃんが施設に入ることになった。お父さんとお母さんで話し合って決めたらしい。
おじいちゃんが施設に入る前日のこと。
その日のおじいちゃんは私の知っているおじいちゃんだった。
『久しぶりに寿司が食べたい』
おじいちゃんがそう言ったから、お父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんの5人でお寿司屋さんに行くことになった。
おじいちゃんは、たくさん食べた。最近あまり食べないから心配だとおばあちゃんが言っていたけど、大丈夫そうだと思った。
久しぶりに見られたおじいちゃんの、そしておばあちゃんの笑顔。
そのとき食べたハマチの味は、今までで一番美味しかった。
店を出ると、おじいちゃんとおばあちゃんはバスで帰るためにバス停まで歩いて行くらしい。
その後ろ姿を、私は一生忘れることはないだろう。
おばあちゃんは少し足が悪いからゆっくり歩いている。すると、
『ばあさん、手つなぐか?』
おじいちゃんはおばあちゃんに手を差し出した。
『はい』
そうして、おじいちゃんとおばあちゃんは手をつないでバス停まで歩いていった。
その日だけは、私の知っているおじいちゃんとおばあちゃんだった。