【小説】 ウィザード #14
「なんでついてくんだよ、お前」
レオは振り返らずに言った。すると、少年の声が答える。
「僕も魔術師になりたいから」
アメティスタは青年と少年の後ろについて行った。
「魔術師になりてーなら魔術学校に行けばいいだろ。俺についてくる必要はねーよ」
レオはため息をついた。
突然の魔獣襲来によって馬車が破壊されてしまい、リーリエスまでの残りの道のりを徒歩で行くしかなくなってしまったのだ。
そんなレオの後ろを、カルセドニーはついて行く。
「僕はお金がないから。親もいないし。学校なんていけないよ」
レオは何も言わず、歩くスピードを上げた。
「ねえ、僕に魔術を教えてよ」
「嫌だね」
この押し問答を何度聞いたことだろうとアメティスタは思った。
魔獣と戦ったあの場所を発ったとき、僕もついて行く、とカルセドニーがついてきたのだ。それからずっと同じ問答を繰り返している。
大きな町を抜け、森に入った。しん、としていて少し薄暗い。
「あの、さ、」
カルセドニーがアメティスタの袖を引く。
「どうかなさいましたか?」
アメティスタが尋ねると、カルセドニーは少しもじもじしながら言った。
「エミーって呼んでもいい?」
「エミー、ですか」
アメティスタは聞き慣れない呼び名を繰り返し、噛み砕く。それからゆっくりと考え、にっこり笑って答えた。
「お好きに呼んでいただいて構いませんよ」
「じゃあ僕のことは、カルセドニーって、呼んでね!」
カルセドニーはまぶしい笑顔で言った。
そういえば、とアメティスタは思った。
レオと行動を共にするようになってから、一度も名前を呼ばれていないのだ。いつも、『お前』とか『テメー』とか、名前らしい呼び名で呼んでもらったことがない。
「レオ様も、エミーと呼んでいただいて構いませんよ」
アメティスタは前をゆく背中に声をかける。返事はなかった。
第十四話 3人
追伸
投稿順が逆になってしまいました
済みません🙇