【小説】 ウィザード #8
「炎魔術は、水魔術より強え」
レオはアメティスタと向かい合い、右手も握って開いた。水が現れ、レオの手の中で球のような形を成し、ちゃぷちゃぷと音を立てた。
「俺の炎は、青い」
いいながら、レオは水の球を、左手の炎にかざした。アメティスタは、水によって炎が消えると思った。
しかし。
ジュッ、と音を立て、水はあっという間に水蒸気と化した。レオの右手には、もう何もなかった。
「俺の炎が青いのは、火力が異常に強いからだ」
レオがぐっと左手を握りしめると、焦げ臭い匂いを残して、炎は煙に姿を変えた。
「他のやつが同じ魔術を使っても、こうはならねぇ。この魔術を完璧に使いこなせるのは、俺だけだ」
レオが左手を開くと、手のひらの古傷が姿を現す。
「お怪我は」
アメティスタは静かにレオの手を掴んだ。
「こんな怪我気にしてたら魔術師なんかやってられねーっての」
レオは、アメティスタの手を振りほどくことはしなかった。
袖の隙間からは痛々しい傷の跡が幾つも覗き、まるで雷に撃たれた跡のようだった。
アメティスタの中に、1つの疑問が浮かぶ。
「レオ様はどうして、」
刹那、轟音とともに荷馬車が吹き飛ばされる。
視界がぐるぐると回転し、あたりに土煙が舞う。アメティスタは、何が起こったのか理解出来なかった。気がつけば、隣に地面があった。頭を打ったようで、こめかみがキリキリと痛む。
「おい、大丈夫か」
レオの言葉がくぐもって聞こえたが、アメティスタは大丈夫だと答えた。焦点の合わない目でまわりを見回す。
道の真ん中、馬車はひっくり返っている。人々の悲鳴、キリキリと痛む頭。そして、レオの視線の先に。
「魔獣だ」