【小説】 ウィザード #19 最終回
アメティスタはレオに声をかけた。
「レオ様、起きているでしょうか」
数秒の沈黙があった。レオはもう寝てしまったのだと、アメティスタは思った。
「俺はもう寝た」
レオの声がした。言葉の内容と行動の違いに、アメティスタは思わず笑った。
カルセドニーの寝息は、変わらず聞こえていた。
「お前の、『お話』?面白くねーな」
とても小さな声だった。しかし、暗闇と静寂の中ではしっかりと響いた。
「そう、ですね。あまりこういうのにはなれてなくて…」
視界いっぱいに広がる星空は、ただきらきらと煌めいている。ほとんど無音だった。
「女の子って、お前か?」
「…さあ、」
アメティスタは、肯定でも否定でもない言葉で曖昧に話を終わらせた。
「…そうかよ」
レオも、特に言及はしなかった。
ただ深々と夜が更けていった。
次の日は、暖かい日だった。
カルセドニーの新しい家族になったのは、子供を失った夫婦だった。
カルセドニーは去って行くレオとアメティスタに、いつか魔術師になる、と何度も言った。レオはただ、そうかよ、と一言だけ言った。
「いつか、一緒に魔獣を討伐しようね!」
カルセドニーは大きく手を振りながら、夕日に向かって歩く二人に叫んだ。
「じゃあな、カルセドニー・ブラック」
レオが、初めてカルセドニーの名前を呼んだ。カルセドニーが、にっこりと笑う。赤い夕陽が、とてもまぶしかった。
「レオ様、知っていますか?」
アメティスタは前を向いたままレオに話しかけた。
「何がだよ」
「世の中には、カルセドニーという宝石があるのです。そして、その中に、ブラック・カルセドニーというものがあります」
アメティスタは古い記憶をたぐりながら言葉を紡いだ。
「ブラック・カルセドニーの石言葉は、『目標達成』『自己実現』です」
夕陽のまぶしさに、アメティスタは少し瞬きをした。レオも、同じだった。
だからきっと、とアメティスタは続ける。
「だからきっと、その宝石の名を冠した彼は、いつか貴方と並んで魔獣を討伐すると、私は思います」
レオは右手で鼻の頭の古傷に触れながら、あっそ、とつぶやく。
「じゃあ少しは期待しといてやるか」
偉そうな言葉にアメティスタは笑った。
レオも、ほんの少しだけ笑っていたような気がした。
第十九話 またいつか
【あとがき】
蜜焚りなです。
ウィザードシリーズ、やっと終わりました!
一話のあとがきにも書いたのですが、この話は本当に何も構想などは考えないで書きました。そのため、伏線も何も回収しませんでした。
終わり方も適当です、すみません…。
本当は、アメティスタとレオの冒険譚を書きたかったんです。ですが、その途中で目標となる敵がいないことに気づき…。
カルセドニーの話の後から、二人の本当の物語が始まるのですが、うーん、私の能力ではうまくいかなかったです😖
もしかしたら、この話の後日譚が出ているかもしれません。出ていないかもしれません。もし出ていたら、ご覧頂けると幸いです。
これまでウィザードシリーズ見ていただいた方、本当にありがとうございました!
またどこかでお会いしましょう、蜜焚りなでした!