【長編小説】さよならが言えたら#8
江戸時代後期ごろ。(現代ではありません。また、歴史に基づいた物語ではないので、時代だけ頭に入れていただけるとすんなり読めるかと思います)
【キャラクター説明】
[桜空]
15歳。一年前の夏祭りの日、事件に巻き込まれて両親を亡くす。近藤に引き取られ彼の営む剣術道場で暮らすようになる。
[総司]19歳。近藤の剣術道場に居候している。
[近藤]剣術道場を営んでいる。
[すみれ]近藤の妻。医療担当。
[敬助・三哉]
桜空と総司の友達。近藤の剣術道場に通っている。
[あらすじ]
総司と夏祭りに来ていた桜空。しかし、途中で総司とはぐれてしまう。
道場へ探しにくると、小刀を持った知らない女性と血だらけの総司がいた。その女性は総司の付きまといをしていて、勘違いから総司を殺そうとしていた。
それを桜空は助けようとするのだが…。
[本文]
体中が震えている。
それでも、行かなければと思う。しかし、生温い不安が、背中をなぞっていく。
両手を強く握りしめた。その時、手に持ったままだった総司さんのお面の存在を思い出す。
『俺は、お面というものはとてもいいものだと思います。』
『ひと時だけでも、誰かのためにお面をかぶることで、人は、鬼でも獣でもなれてしまうんですから。だから俺は、お面はいいと思うんです。』
お面を買ったとき独り言のようにつぶやいた総司さんの言葉が思い出される。
そうか。
私でなくなればいいんだ。
自分ではない、別の、何者かに。
思い出せ。
怒りを。一生忘れることができないであろうあの怒りを。行き場のない怒りを。
足元に点々とある総司さんの血液を目に焼き付けた。
このままでは一生後悔する。
桜空は、一歩踏み出した。
「あなたの言っていることはめちゃくちゃです。相手の気持ちを一切考えてない。自分の独りよがり。」
壁に立てかけてある木刀を片手に、女性に向かって歩き出す。
総司さんの制止する声が聞こえた。
だが。
今はもう、総司さんのことを慕っているか弱い桜空ではない。
今は、誰でもない。
「あなた、何を言っているのかしら。私が悪いって言いたいの?」
「そうです。」
女性も、一歩、一歩と近づいてくる。
これは、私なりの、決着をつけるための手段だ。総司さんの付きまといだから、とか、自分が総司さんを慕っているとか関係ない。
あの日に取り残されたままの私が、新しい一歩を踏み出すための、一つの儀式だ。
「あんた、いい加減にしなさいよ!」
怒りを我慢できなくなった女性が、勢いよく襲い掛かってくる。その動きをよく見極めて、小刀をよける。そして、女性の視界から見えない位置から木刀を振り、小刀を手から払い落とす。
木刀をほうり投げて、女性の腕と服をつかみ、勢いよく投げ飛ばした。そして、馬乗りになる。女性は、自由を失ってなお、バタバタと手足を振り回す。
月に照らされて、視界の端で何かが煌めく。
小刀だった。
吸い寄せられるように小刀をつかみ、手にする。
それは、小刀にしては軽く、手になじんだ。
桜空は、小刀を両手で持ち、大きく振り上げ、振り下ろした。
[告知]
次回!
女性との決着、そして過去の記憶との決着。
桜空は、過去の記憶に踏ん切りをつけられるのか!?
そして、振り上げ、振り下ろされた小刀の行方は。
いよいよ物語はクライマックスへ!
さよならが言えたら#9 お楽しみに!