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【小説】 ウィザード #17

 カルセドニーは、しばらく何も言わなかった。何かを深く考えているように、眉を寄せていた。

「僕は、そうした方が、いいのかな?」

 カルセドニーはうつむいて言った。その両手は硬く握られている。

「きっとその方がいいと、私は信じています」

 アメティスタは、振り払われてしまった手をもう一度カルセドニーの肩に置く。レオは、二人に背を向けていた。

「僕はね、」

 カルセドニーがゆっくりと話し出す。

「親に捨てられたんだ。貧しい家でね、僕は親に育ててもらえなかった」

 気づけば辺りは暗くなり、しんとした静寂だけが、三人を包んでいた。

「親がいなくたっておなかは空くから、ごみ箱でも何でも漁って食べ物を探したんだ。そんなときにニーニャと出会って。暑くても寒くても、辛くても苦しくても、一緒にいたんだ」

 大変だったけど、幸せだったんだ。

 涙がキラリと光ってカルセドニーの頬を伝い落ちた。

「もうニーニャはいないけど、僕、また、幸せになれるかな…?」

 カルセドニーは天を仰いだ。真っ黒な空には、金に光る星が幾つも幾つも輝いていた。

「なれます」

 アメティスタは、力強い声で言った。

 貴方は、幸せになれる。

 まっすぐ見つめたカルセドニーの瞳は、真珠のような月に照らされ、ラピスラズリのように、黒曜石の奥で金の星が輝いていた。

「うん」

 カルセドニーは頷いた。

「僕、きっと幸せになる」


 夜が更け、森の中で3人は眠ることにした。

「エミー、何かお話して?」

「お話、ですか?」

「そう。前から夢だったんだ、寝る前に、お話してもらうの」

 真っ暗な森の中、二人の声だけが響く。木々の隙間から、星々がよく見えた。

「冒険のお話がいいな」

 面白くて、ドキドキハラハラするやつ。

 カルセドニーのリクエストにアメティスタは少し困った顔をしてから、いいですよ、と答えた。

「昔々あるところに、一人の女の子がいました」

  第十七話  星空の下

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