![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161458619/rectangle_large_type_2_af73458e7ea61c5f1771c660473c37e1.png?width=1200)
【小説】 ウィザード #17
カルセドニーは、しばらく何も言わなかった。何かを深く考えているように、眉を寄せていた。
「僕は、そうした方が、いいのかな?」
カルセドニーはうつむいて言った。その両手は硬く握られている。
「きっとその方がいいと、私は信じています」
アメティスタは、振り払われてしまった手をもう一度カルセドニーの肩に置く。レオは、二人に背を向けていた。
「僕はね、」
カルセドニーがゆっくりと話し出す。
「親に捨てられたんだ。貧しい家でね、僕は親に育ててもらえなかった」
気づけば辺りは暗くなり、しんとした静寂だけが、三人を包んでいた。
「親がいなくたっておなかは空くから、ごみ箱でも何でも漁って食べ物を探したんだ。そんなときにニーニャと出会って。暑くても寒くても、辛くても苦しくても、一緒にいたんだ」
大変だったけど、幸せだったんだ。
涙がキラリと光ってカルセドニーの頬を伝い落ちた。
「もうニーニャはいないけど、僕、また、幸せになれるかな…?」
カルセドニーは天を仰いだ。真っ黒な空には、金に光る星が幾つも幾つも輝いていた。
「なれます」
アメティスタは、力強い声で言った。
貴方は、幸せになれる。
まっすぐ見つめたカルセドニーの瞳は、真珠のような月に照らされ、ラピスラズリのように、黒曜石の奥で金の星が輝いていた。
「うん」
カルセドニーは頷いた。
「僕、きっと幸せになる」
夜が更け、森の中で3人は眠ることにした。
「エミー、何かお話して?」
「お話、ですか?」
「そう。前から夢だったんだ、寝る前に、お話してもらうの」
真っ暗な森の中、二人の声だけが響く。木々の隙間から、星々がよく見えた。
「冒険のお話がいいな」
面白くて、ドキドキハラハラするやつ。
カルセドニーのリクエストにアメティスタは少し困った顔をしてから、いいですよ、と答えた。
「昔々あるところに、一人の女の子がいました」