【ひとり古賀コン】アメリカの入学式
ドッキドキの、一年生。
と歌ってはみたけれど、ぶっちゃけ日本語通じねえしなーと思っていたりする。入学式の会場ってよくわかんないけど、なんかこのだだっ広い広場みたいなところに集められるのな。「ニューヨークに、行きたいかー!!」
とつぜん聞こえた日本語。うおおおおと叫ぶ聴衆。何年前のネタだよそれ。ここ後楽園球場じゃねえんだわ。あと、自由の女神の足下をクイズにしたってダメなんだわ。それ誰もわかんねえよ。いま令和だぞ、令和!
福留みたいな校長がなんかマイク握りしめてアメリカ国旗をプリントしたような卓のところで怒鳴っていた。
めいく、あめりか、ぐれーと、あげん。
おっさんのがなり声と、うおおおおと叫ぶ聴衆。うっせーわ。こちとらバイトでやっと金貯めてきたんだわ。機内ペーパーテストだって乗り切れるくらいに必死だったんだわ。飛行機降りて、ゲート通るときにめでたい音楽が鳴ったと思ったのはこれだったのか。
ちゃっちゃっちゃっちゃらちゃらっちゃらーちゃっちゃっちゃっちゃらちゃらっちゃら。
ハイビスカスのレイとかかけられてなんかおかしいと思ったんだよ。
◇
ティラノサウルスの着ぐるみはいるわ、レースクイーンはいるわ、なんならマツコみたいなモナリザみたいなのも、フレディ・マーキュリーみたいなのもいる。冷静になってまわりを見たら、祭りのようだった。異国の入学式ってこんなんだったんか?
唐突に始まった○×クイズ。どれも自分には常識のような問題ばかりで、間違えるほうが不思議だ。何十人という単位で会場から去っていく。
「はぁい、どう楽しんだらいいのか、戸惑ってるみたいね」
フーターズのねーちゃんみたいなのが声をかけてきた。そんなカッコ、なんか言われたりしないんすか。
「ここは自由の国よ、あなたも生まれたままの自分に戻らない?」
「遠慮しておきます」
「つまらないわねー。でも忠告しておくわ。そのカッコだと、次は日本帰還(ゴーホーム)よ」
なんだそれ。魔法少女のTシャツを馬鹿にしとんかコイツ。親友が空港まで見送りにきたときにくれた大事なTシャツやぞ。男の友情を馬鹿にすんなや。
いちいちツッコミを入れるのもいやになるくらいに騒ぎは続く。○×クイズも続く。
フーターズのねーちゃんは何問目かを間違えると、四文字の禁句を連呼しながら去っていった。
◇
次は早押しクイズ。帽子を被らされる。
日本にいたときにこんなことになるなんて思ってたか、自分。思ってないよなあ。語学堪能になって、ちょっとした知識も手に入れて、MBAだかNBAだかNVIDIAだかも手に入れて、さんざん自分を馬鹿にしてきたあいつらを見返してやろうって誓ってきたのに。なんでボタンに指をかけてクイズ大会やってるんだ。これがアメリカの歓迎の仕方か?
んなわけねえだろう!
怒りにまかせて答えていく。ばったばったとなぎ倒しているような気分になる。こういうの3ポイント先取じゃねえのか。答えても答えても対戦相手が交替していくだけで、いっこうに勝ち抜けできる気がしなかった。
俺を馬鹿にしとんのかああああっ!
「とよ」
豊洲から新橋までいく乗り物はゆりかもめ、だよな。でもそんな単純じゃねえ。他にゆりかもめって名前の乗り物がありそうなところ……(この間0.5秒)
「焼津」
ぴんぽーん。おおおおお。聴衆がざわめく。
ちなみになんかネタはある? と話を振られた。俺のこと落語家か漫才師かなんかだと思ってないか? 大仰な笑みを浮かべ、その辺にあった棒をギター代わりにスキマスイッチを歌う。伊豆じゃなくて焼津の海。
◇
最後の問題、と福留はいう。
なんかよくわからんが、ちぎっては投げ、ちぎっては投げしているうちに最後の対戦相手まで来てしまったらしかった。 自分なんかよりもずっと賢そうな顔をしている。クイズノックかなんかに入ってませんか? 大丈夫ですか。自分、ただの留学希望者だったんですけど、なんでこんなことしてるんでしょう。
気がつくと二人を照らすスポットライト、なぜか照明の落とされた会場、息を呑む観客、腕組みをしてこちらを見ている審査員。安心してください。吐いてますよ。
「なんでこんなことしてるんでしょう」
「ぼくも聞きたいです。学校に入学しに来ただけなのに」
彼は対戦するあらゆる人に聞いてまわったらしい。だけど誰も答えてくれなかった。誰もなぜこんなことをしているのか知らなかったのだ。まーじーかー。だまされてんじゃねえの? 喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「これ、勝ち負け決めてどうなんの」
「負けたほうは日本帰還(ゴーホーム)、だそうです」
まーじーかー。だまされたわー。つぎ込んだバイト代返してほしいわ。
「問題」
前触れもなく福留が声を出す。
「いま話題のハッピーグルメ弁当といえば?」
ピンポーン、とスイッチを押す音。二人しかいないはずの解答席、自分と彼の間になぜかもうひとり。
古の女子大生みたいなのが笑顔で座っていた。あ、この展開。
「……どんどん?」
パフパフパフパフ〜
辺り一面に紙吹雪が(しかもシュレッダーで作ったみたいなもはや粉としか思えないようなヤツが)舞い、息をとめて見ていただろう聴衆が総立ちで喜んでいた。次の瞬間、場面は急展開して、ニューヨークのビル街を優勝パレードみたいに車に乗って行進していた。優勝者はこの古の女子大生。っていうか、アメリカにどんどんはねえだろ。どうなってんだよ。おい。
古賀コン過去のお題に挑戦してみるシリーズ「ひとり古賀コン」、第二弾。
このときのお題は「アメリカの入学式」でした。
てかアメリカに入学しきってあるんか?