ふっかつのじゅもん

 誰もいない公園の地面に、教えてもらったとおりの線を描く。中心に骨を埋める。日没まであとすこしだ。僕はそこから離れると、意味のわからない言葉を並べた。
 日が沈んで、薄暗くなる空に街灯が星のように光る。
 なにも起こらなかった。そりゃそうだ、という気持ちと、信じかたが足りなかったからだろうか、という気持ちが半分ずつ。僕は地面にぺたん、と座る。
「なにが復活の呪文だよ。ぜんぜんなんもおきないじゃん」
 僕は教えてくれたケイスケに文句を言う。
 僕ひとりになっちゃってどうするんだよ。
 ケイスケはひと月前に死んだ。ふたりでクラスでいじめられて、先生も大人もなにも解決しようとはしなかったから、ふたりで死のうと約束していた。なのにケイスケだけが先に死んだ。
 土曜日、いつものように部屋に入ったら天井からぶら下がっていたのだ。そこからしばらくの記憶はない。学校は休まされたし、よくわからない取調べや面談は受けさせられるし、当然学校じゃ僕が殺したみたいになってるし、ケイスケが生きてるときよりも悪くなっているようにしか見えなかった。
 そのあたりから目に見える感情の表現はなくなった。なくなった、というか捨てた。泣いても笑っても誰かが僕にだけ嫌悪を表すのが嫌になった。そういうことだ。
 ケイスケは僕にメモを残していて、それは大人には絶対に見せちゃいけないと書いてあったから、ずっと隠していた。
 メモに書かれている日に、メモに書かれているとおりに地面に線を描いて、呪文をとなえる。そうしたらケイスケは復活する。わけがなかった。マンガみたいに描いた線が光るわけでも、そこからなにかが現れるわけでも、時間が巻き戻るわけでもなく、最初からそうだったみたいに地面は街灯に照らされていた。それだけだった。
 うそつき。僕は地面に描いた図形にあかんべをした。

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