【レディース】テイクオフ。山口代表として新しい航路を切り拓け![皇后杯中国地域予選1回戦レノファレディース-作陽高校]
来た。
来てしまった、という方が正しいだろうか。
レノファレディース通算2回目の試合観戦は、山口から400キロ離れた鳥取の地。
しかも前日にはトップチームのナイターが有り、試合終了後、休憩を挟んで山口を出発したのは22時。
途中3:30に出雲のホテルでバッグを整理し、1時間休憩したあと鳥取へと200キロ車を走らせる強行軍、またはサッカーバカの愛すべき狂想曲。
試合会場は「女子サッカーあるある」で、「ただのグラウンド」。
席は事前に折りたたみ椅子を用意しておいたから良いものの、ネット越しの観戦。しかも中央部にクラブハウスがあるのでコーナー付近からの観戦と来た。
費用対効果?そんなのは関係ない。
見たい試合があるから、来たのだ。
レノファ山口FCレディース メンバー&フォーメーション
先週行われたやまぎんカップ決勝からは石原さくらがアウトし、代わりに津永佳琳が左の中盤中央に入った。
右の西山は守備時は降りて4バック気味に構える事もあり、左ウイングの浅田は自由に動く流動的なスタイル。
このチームはあまりフォーメーションを「これ」と決める意味はないと感じる。
対する作陽高校は4-3-3のスタイルの様だった。
キックオフ
苦しい?やりやすい?
時折秋の足音を感じる涼やかな風を感じる中、キックオフ。
開始早々にコーナーのこぼれを伊藤がシュートし、流れを一気に引きよせるかに思えたが、ここからは自陣でのプレーが続く。
作陽は両ワイドを狙ったロングボールを主体にした攻めで、西山、米川は守備に追われる。
4分には作陽左ウイングがカットインからシュート、8分には中央からのミドルと、シュートで終わらせる形でリズムを作る。
目の前で守備を見ている。
心配性の筆者としては、心臓に悪い序盤の展開。
しかし選手も監督も、この展開はやりやすいと感じていたようだ。
まずは相手のやり方を見る。そしてこの攻撃なら、サイドでの守備を的確に行えば、自ずと相手の攻め手は無くなるという考え方。自陣での時間が多くなっても、間違えなければ問題ない。
ここからはレノファも反撃態勢を作っていく。
レノファの槍
なかなか順番が回ってこなかったが、一度ボールを持てば一気にフルスロットルの推進力を見せる7番、伊藤さくら。
11分には左サイドを縦に走り逆サイドの戎谷へと大きな展開。遠くだったのでシュートかクロスかはわからなかったが、戎谷の蹴ったボールは枠内に飛び、GKはパンチングで失点を防いだ。
さらに16分、個人技で突破するとシュートまで行った。
レノファ公式の選手紹介ではチャーミングなイメージだが、それに油断してはいけない。笑顔で近づくとすぐにウラを取られる。
しかし、まだ散発的な攻撃だったレノファは17分にコーナーを許し、GK大宮司の判断のいいパンチングで難を逃れるなど、主導権を握るには至らないまま、飲水タイムを迎える。
なぜそこに居る
飲水タイムが開けると一気に試合が動く。
22分、DF藤原瑞季のロングフィードの先には相手DFラインの裏に走り込んだ西山ひとみが居て、懸命に作陽DFが戻るも、チャンスをしっかり物にした西山はキーパーとの1対1の状況を作り出し、冷静にゴールに流し込んだ。
それが決まると同時に、赤嶺監督は大きなアクションで跳ね、喜びを一杯に表現した。もしかしたら赤嶺監督、原博実タイプか?
レノファレディース 1 - 0 作陽高校
筆者はTwitter上でこれを戎谷の得点として記載してしまったが、何度見てもそこに右サイドの西山が走り込んでいる理由が分からず、ここは自分を慰めたい。
作陽DF陣も、3トップを追い越した西山を捕まえきれなかったのだろう。
試合後のインタヴューと得点シーンを重ね合わせても、本人が語るよりも難しいシーンだった。飛び出しといい、本人の感覚といい、西山ひとみは天才肌なのかもしれない。
大人のサッカー、大人のリズム
この試合の前の週、高川学園戦に向けて監督に話を向けた時、赤嶺監督は高校生との試合について「やりにくい」と口にしていた。高校生はよく走りよく寄せる。生み出すリズムもレノファレディースとは違う。
このゴールの辺りから、レノファはDFラインの3人で繋ぎながら、テンポを落とした攻撃にシフトしていく。
ボールキープしつつ陣形を整え、チャンスを伺う形が増えてゆく。
29分には、再度右に張る戎谷を使う大きな展開から、クロスが新井に届く。惜しくも新井のファールとなったものの、精度の高いキックを見せながら作陽をレノファのリズムへと引き込んでいく。
それでも作陽はロングボールで押し込み、レノファ陣で得たフリーキックのボールを質の高い精度でゴール前に届けたが、ここもまた大宮司がパンチング。
作陽、陣地は取れてもゴールが遠い。
すると前半終了まであと4分と迫る中、伊藤のクロスが作陽DFのハンドを誘い、この試合キャプテンマークを巻いた小さな巨人、田中萌が左隅へと蹴り込んで追加点となった。
レノファレディース 2 - 0 作陽高校
心配性の筆者をあざ笑うかのような鋭い攻撃からの2点。
筆者の20数年なりの感覚だが、この2点はこの試合をモノにするには十分な数に思えた。
後半開始
引き寄せるか、作陽
後半頭から作陽は2枚がえ。
もう一度リズムを引き寄せたいところだったが、前半中盤から徐々に選手間の距離が整い始めたレノファは守備も良く、ゴール前でもしっかり人数を揃えてシュートコースを消す。
チームとしては「自分たちのやり方を捨てていた」と赤嶺監督は試合後に語ったが、左センターバックの米川とボランチ田中の連携から伊藤を走らせるカウンターであったり、伊藤と浅田、左の2枚をウラに走らせるボールを使っての攻撃は、作陽に強い前向き矢印を作らせないという意味では、効果があったかもしれない。
作陽、リズムが生まれない。
ボールを止めるな
しかし、やはり監督が語った通り、レノファの理想とする攻撃よりも展開を急いだプレーが多かったということだろう。
リスクのあるボールを前に蹴れば相手に回収される確率も高くなる。
相手ボールの時間が生まれれば、守備で間違えられないシーンも生まれる。
60分、作陽はゴールに向かって中央右の位置でフリーキックを得ると、ゴール前に押し寄せた選手に精度の高いボールが入り、ようやく1点を返した。
レノファレディース 2-1 作陽高校
暗雲。
このチームにセットプレーは与えたくない。
前半は大宮司の好判断でピンチを未然に防いだが、こぼれ落ちる水を全てすくい取る選手は存在しない。とすれば、水がこぼれないようにするのみである。
テコ入れ
失点直後、赤嶺監督が動く。
中盤で相手に寄せ、また相手に寄せられながらも繋ぎ役として粘り強く戦っていた津永佳琳を、小柄な体いっぱいに闘志をむき出しにしてボールを刈り取る小川真名美へ。
右サイドは西山ひとみに代えて守備力のある磯田尭那を入れ、運動量と守備面の強化を施した。
しかし作陽も矛を収めない。
反撃の一発が出ればノリが生まれる。
この辺りは高校生のチームらしい部分だ。
しかしレノファも冷静だった。
69分、前がかりになってきた作陽にスペースがでてきたのか、センターフォワードの新井がフリーの状態で受けると少しタメを作って、そこに駆け上がってきた左の伊藤へ。
フリー。
決定機かと思われたが、シュートは枠の上。
まだ、サッカーの神様は許してくれない。
色違いのビブス
74分、今度はセンターフォワードの新井に代えて、6番でMF登録の岡樹を投入する。
これが赤嶺監督の魔法をかけた采配で、岡はポジションにとらわれず、中盤に顔を出したりしつつもマイボールの時にはウラ抜けを狙うなど、まさにフリーマンかジョーカー。
きっとオレンジのユニフォームの上には、見えない色違いのビブスを着ていたに違いない。
作陽も、レノファの心臓、ボランチの田中萌に対してこれまでよりさらに厳しく行くなど、何としてもマイボールにして前向きに矢印を作りたい気持ちは見えた。
しかし、岡は投入直後にはウラへのボールを引き出し、さらには中盤の選手としてDF米川と絡んでFW浅田へと繋ぎ、76分には完全にウラを取り切ってのクロスなど、ゲームチェンジャーとして相手が捕まえられない、自由な動きで3度目のゴールネットを狙って作陽を牽制し続ける。
77分、作陽は最後の力で大宮司との1対1の場面を作るが、守護神大宮司、しっかりとストップ。何とも頼もしい。
ラストのアディショナルタイムにはFW2枚を代えてロングボール一発を牽制し、ここで試合終了のホイッスル。
決して楽な戦いではなかったが、自分たちのリズムで運べた時間に得点を重ねたレノファ、さらなる高度へと、上昇して行った。
まだまだシートベルトのサインは消えない。
試合終了 レノファレディース 2 - 1 作陽高校
試合後選手・監督インタビュー
レノファ山口FCレディース 赤嶺将太監督
ー全体を振り返って
「相手の出方が分からないまま入ったが、思ったより自分たちがやり易い相手だなと思った。その中で前半に2点取れたのが大きかったかなと思う。
ただ後半、失点はセットプレーだったが、それまでに若干、自分たちのやり方を捨ててしまって押し込まれる形が多くなったのが勿体無いなと感じた。」
ー失点後バタバタしたが、メンタルの部分か?
「その前から自分たちで攻撃が握れていなかったので、失点したから何かが変わったかというと、ずっとという感じ。ある意味では、失点したことで引き締まった部分はあった。」
ー前半序盤から相手は両ウイングを使ってウラを狙ってきた。タッチラインに逃れる場面もあったが、苦しいという感じではなかった?
「相手は分かりやすく狙ってきてたので、そこの部分はしっかりとカバーリングしながら(プレーさせた)。そこから相手が変化をつけてくるというよりは、とことん(両ウイングでウラを)狙い続けてきたので、そんなに難しくはなかった。」
ー飲水タイム明けからDFラインでゆったり回し、間合いをはかるような時間が増えた。そのあたりは指示があったか?
「試合始まって、選手たちもボールを握った方がチャンスになると気づいていたと思う。(飲水タイムで)何か変えたというより、全員でしっかり共有して、戦い方を統一したという感じ。」
ー次節も高校が相手となる。今回やりにくかった部分と次回改善していきたい部分を含めて、展望を
「AICJは中国地域でナンバーワン。個々の能力もチームとしてのレベルも高い。ただ、自分たちの強みは伸ばさなければいけないところはあるので、しっかりと1週間、フィジカル面も含め準備しながら、確認できるところは確認して、必ず勝って、次の日の決勝に進みたい。」
MF 13番 西山ひとみ選手
ー母校との対戦だった。気合が入るところは有った?
「そうですね。久しぶりに母校との試合だったので。
(出場メンバーが)自分が3年生の時に1年生だったので、顔見知りも多く居て、『負けたくないな』とは思っていました。」
ー実際対戦してみて、戦術などで「分かるな」という部分はあった?
「自分がいた頃と割と似たことをやっていて、悩んでいる姿とかを見ると『すごい分かる。自分も高校の時わからなかったな』と思って、当時を思い出して、懐かしいなと思いました」
ーその辺りは、相手はこうしてくる等の共有はした?
「半分ぐらいが自分の知らないメンバーだったので、あんまり深くは言ってなかったですし、あんまり言って気負い過ぎてしまうと、頭の中で過大評価して引いてしまうので、何も言わずにそのまま臨みました」
ー序盤から相手が両ウイングを使ってウラを狙ってきた。右サイドの守備でウラをつかれ、苦しくなりタッチラインに逃れる場面もあったが、やりにくかったのか、予想通りだったのか?
「守備をしていて、自分の斜め後ろを走られたら嫌でした。ロングボールが多かったので、最初に触れたら難しいことはなかったですが、越えたら怖いなとは思いました。」
ー得点シーンについて
「瑞季さん(藤原選手)からロングパスが入って、最初はキーパーと1対1気味でしたが、センターバックの子が来て、絶対体を当ててくると思ったので、よけたら綺麗にキーパーと1対1になることができました。
キーパーの子は自分が3年の時1年でスタメンで一緒に出ていたので、上手いのもわかっていたし、コースを切ってくるのも分かっていたので、股を狙いました。」
GK 1番 大宮司晴菜選手
ー試合全体を振り返ってみて
「入りの5分・10分は失点はなしで。国体など、負ける時は最初の方に失点をしてしまうので、そこの集中力は今日は有ったかなと思います。
あとはコーナーからの失点も多いですが、そういうところでボールに強く行く部分は、今日はできていたかなと思います。」
ー前半2度、パンチングで逃れるシーンが有った。先に触られていたら失点だったと思うが?
「もう『行くしかない』と(笑)
蹴った瞬間から『私のボールだ』と思っていきました」
ーその辺りで、今日のコンディションはいいな、という辺りは?
「そうですね、判断の面は今日は良かったです。」
ー最終盤も1対1が有った。至近距離で難しかったと思うが?
「今日は集中力がちゃんともって良かったです(笑)
後半厳しかったけど、チーム全体として良かったなと思います。」
ー次も高校となる。勝ち上がれば連戦となるが、1週間の準備やチームの課題・修正したいという部分は?
「次のAICJは強いというのは聞いています。今回と同じ高校生で、これまで(練習で)一杯走ってきていると思う。私たちは大人なので、頭を使って、早い時間で相手の嫌なところを見抜いて、自分たちの時間にして、今日のように守備から。良い守備から良い得点に繋げられるように、1週間頑張っていきたいと思います。」
MF 8番 田中萌選手
ー全体を振り返って
「前半の入りが良くて、2点決められたという部分ではチームにとって良かったと思います。後半に失点してしまいましたが、勝っている状況で試合を進められました。
後半、どうしてもセットプレーから失点してしまうシーンが多いので、そこは課題かなと思いますが、しっかり勝ち切れて良かったです。」
ーかなり相手にマークされ、ボールが入ったところで強く当たられているように感じたが?
「今日はピッチ状況があまり慣れていなくて、弾んだり、トラップミスなど、あまり余裕がなかったのが試合入ってすぐの感想でした。
その中で、周りの見えている選手に出して、自分が落ち着いて受けられるように意識していたが、それでもいつもの感じではなかった。
ただ、そういう状況だからこそ、今日全員来れている訳ではないので、試合に出ている立場として体を張れるところは張らないとなと思っていたので、ファールを貰えるのはチームにとってプラスだったかなと思います。」
ー特に前半の飲水タイムまで、担当するエリアが広すぎ、選手との距離感が悪いと感じたが?
「ボールを持った時に周りとの距離感が良くなくて、セカンドを繋げなかったり、マイボールにしきれないな、という部分はあったので、梨花さん(浅田選手)や後ろの選手との距離感や角度は意識しながらやりました。」
真夜中の中国道で車に付いたいろいろな汚れを洗車で取って貰ったのは、週が明けてから水曜日のことだった。
以上
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