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「飲んではいけない薬」がバズる理由&正しい捉えかた

患者さんからよくある質問。「この薬が、飲んではいけないリストにあるけど、大丈夫?」有名な週刊誌や、電車のつり革広告に見かける、キャッチーなワードですよね。

この質問をうけたことのある医療関係者は多いはず。今回は、このワードが廃れることのない理由について、一緒に考えていただけたらと思います。

1:「飲んではいけない薬」は人それぞれ

まず押さえておきたいのは、薬には確かにリスクもあるけれど、それ以上のベネフィット(利益)があって、使用を検討するものだということ。
「テーラーメイド医療※1」という言葉もあるように、薬の効き方や副作用は人それぞれです。多くの治療や診断には、エビデンスに基づくガイドラインが設定されています。

たとえば、高LDLc血症(悪玉コレステロールが高い疾患)は、生活習慣によるものか遺伝によるものかによって、薬の選択や治療のアプローチは変わり、その病状によっても一律ではありません※2。
強いて「飲んではいけない」という表現の当てはまる人がいるとすれば、それは、腎臓や肝臓の検査値が正常域でない人や、一定期間つかっても数値が改善しない人などです。
つまり、「飲んではいけない」とする対象が示されていないことに、疑問を抱いてください。

2:不安をかきたてるのが目的

キャッチ―な見出しの誌面やサイトは、眼を惹きますよね。
人生100年時代の日本において、およそ3人に1人が血圧をさげる薬を飲み、6人に1人が認知症だと言われ、他人事とは思えない身近さです。
多くの人に身近な疾患や薬を題材にすれば、その誌面やサイトへ関心を、簡単に集めることができます。

その媒体が本なら、1000円くらいで危険を回避できるなら安いもの、と感じる人もいるでしょう。
まして、ネット上のサイトなら検索するのはタダ同然。そこに、何かしらの広告収入が関与していることなど、気にとめない人が多いのかもしれません。
不安をかきたてた先にあるゴールは、本の販売やアフィリエイト広告かもしれない、…こう身構えておくことも、情報化時代の昨今に必要ではないでしょうか?

3:副作用のない薬は、ほぼゼロ。

医療用で使われる薬のほとんどに、副作用の報告は存在します。
私がこれまで見てきた中で、副作用の表記がない医薬品は、整腸剤とグリセリン浣腸ぐらいです。漢方薬や胃薬、下剤といった一時的につかう薬にも、報告があったものは表記されています。

昔、薬情※3に、頻度不明で軽微な副作用はのせていなかったとき、患者さんに、「薬情に副作用が書いてなくて不安」と言われました。
「この薬の副作用は?」と聞かれた場合、おそらく、薬剤師は一律の返答をしません。少なくとも私は。
なぜなら、起こりやすい副作用は個々や病状により、異なるからです。ただし、その薬に特徴的、かつ、早期に発見が必要な重症化しやすい副作用は、定期的に初期症状や対処法を伝えます。
薬によっては、数十種から膨大な数の副作用をもつものも。
これを患者さんごとに適宜、確認させていただくのが医療従事者における責務の一つだと思っています。

たとえば、「この薬を飲むと筋肉が溶ける」などと書いてあるのは、不安をかきたてるためです。1000人に1人未満の確率で起こるかもしれない副作用は、宝くじが当たるより少ない確率。
大切なのは、リスクを恐れるあまり、治療せずに足を切断するような重症化をまねかないこと。
起こってしまった場合に備えて、対処できる知識を予め確認しておくことが、必要ではないでしょうか?

4:本当にあった、とんでも話

昔、お逢いした患者さんからのお話。
「夫から、血圧が正常域のときに降圧剤を飲むのは危険だから飲むなと言われた。その日の血圧により自己調節している。」
本来は毎日のんで血中濃度を安定させる薬を、3~4日に1~2回ぐらいのペースで、まだらに飲んでいたそう。

薬というのは、今日飲んですぐに、効果を発揮するものばかりではありません。定常状態※4に落ち着くまでの間は、めまいやふらつきなどを含めて、いつもと違う様子がでることもよくあります。
医師から指示された以外の使い方をすると、かえって身体に不調を及ぼすこともあるので、注意が必要です。

5:薬を減らしたい時の近道

ここまでは、断片的なデータや、だれかの根拠のない解釈にまどわされないためのお話でした。
ここまで読んでいただいた方へ、薬を減らしたい時の近道についてご提案します。そのポイントは、次の3つです。

『 薬を減らす近道 』
① 処方通りにつかう
② ふだんの生活を振り返る
③ その薬に興味をもつ

① 処方通りにつかう
前述の定常状態にも関わるものですが、薬を減らすには、その薬が効きすぎていることを示すのも近道のひとつです。
たとえば、高血圧なら、血圧手帳を起床時と就寝前に記録し、受診時に医師へ見せます。
さらに、運動や食事の改善した内容もメモしておくと、薬を減らしたいために努力しているという意向も伝わりやすいので、おすすめです。

② ふだんの生活を振り返る
これは ”耳にタコ” の人も多いはず。些細なことも、意外と大切です。
料理につかう調味料の種類とか、体重のほかにも筋肉量を気にするストレッチを継続したりとか…。テレビを見ながらバランスボールに乗るとか…。
継続するのは、難しいものですよね。
家族や友人と一緒に、挑戦してみるというのもいいと思います。

③ その薬に興味をもつ
「専門家じゃないから知らんよ」と言われるかもしれません。
でも、言ってしまえばスマホの機能も、専門としている人はそんなに多くないのに、自然と慣れてくるものだったりしませんか?
例えば、高血圧で飲んでいる薬が、5mgと10mg、20mgの規格3種類あるとします。
「血圧が上110以下に落ち着いてきたら、一段階、小さくしましょう」
というような目標が持てる可能性も、考えてみてください。
ただし、目標設定は人によって異なるため、主治医と一緒に設定していくことが大切です。


最後に、避けられない疾患で薬を使っているかたが、無責任な表現による不安で恐れることなく、最善の体調管理をしていけることを、心から祈っています。


お読みいただき、ありがとうございました!!

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【本文中の用語などを解説】~♪‐♬…★♪’’…('ω')ノ★~


※1:テーラーメイド医療とは、英語の仕立て屋「taylor」が語源で、患者さん個々の症状や体質の違いにあわせ、薬の選択や治療法の検討をおこなう医療のこと。

※2:高LDLc血症で考えられる病状の一例には、ASO(閉塞性動脈硬化症)といって、手足の血管の動脈硬化や閉塞により血流が悪くなる疾患があります。重症化すると切断にいたることも。そこで、原因のLDLコレステロールを除去するために、体内から一度、血液を取り出して分離し、きれいになった血液を再び体内に戻す ”LDLアフェレシス療法” という治療法もあります。

※3:薬情とは、薬局などで薬と一緒に受け取る、用法用量にくわえて写真や効能、値段(薬価)、注意点などが書かれた情報文書のこと。

※4:定常状態(Cssと略式される)とは、薬を一定時間ごとにくり返しつかう時、血液中の薬物濃度が一定の振れ幅において安定している状態のことで、単位は時間(t)や日数(d)で記載。しっかり薬の効果を発揮させるためや、副作用の回避などの目安としても使われます。

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