VRコンサート「星空のお茶会」トラブルの先にたどり着いたところ
直前のシューベルトの「アヴェ・マリア」ではWifiの不調から、ビオラのまぁちゃんさんの音が途切れるというトラブルが発生! なんとか乗り越えたものの、最後の曲はまぁちゃんさんが大切にしているサン・サーンスの「白鳥」。Wifiは大丈夫か? 果たして、アンサンブルは成功するのか?
プログラムは当日の朝まで未定
前日まで、みんなでdiscordの上でいろいろと相談はしていたのですが、それでも詳細は当日の朝まで未定という状態でした。みんな初めてのVRコンサートですから、段取りなんて分かりません。すべて手探り状態です。私は、プロデュースをお願いした、あの子。(@veoxxxxxx)さんにまかせることにしました。
そして、いつもの朝のように #questラジオ体操部 に行き、土曜日なのでさらに、 #questマッチョ部 にもお邪魔しました。10月13日にOculus Quest 2が発売されたばかりということもあって、両方の会場とも初めて来られる方で賑やかでした。私はその日にある天文仮想研究所1周年記念イベントの宣伝や、今回のコンサートについて宣伝をしていました。マッチョ部の後、みんなは集まってわーっとプログラムを決定していました。私はというと、天文仮想研究所のメンバーなので、開会式とか、最初のイベントとかに顔を出していました。あの子。さんには12時集合と言われていましたので。
できあがったプログラムは2つの会場(インスタンスI, II)に分けて、それぞれの会場で同じ曲目を第1部、第2部で二回繰り返すというものでした。2つの会場は、「あの子。インスタンスI」ではアンサンブルとソロ、「けてるりんインスタンスII」ではソロのみとしていました。2つの会場に分けたのは、観客が増えることが予想されたからです。Questは単体で動くVR機器で、価格も安く、多くのユーザーがいます。しかし1つのインスタンスで20名を越えると負荷が大きく、うまく音楽を聴くことすらできなくなる可能性があります。それで2つの会場にしたのです。演奏者は2回同じことをしないといけないので大変ですが、私にとっては演奏のチャンスが2回あるということで、嬉しいことでした。
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2020年10月17日 コンサート「星空のお茶会」天文仮想研究所1周年記念イベント
■演奏
□【あの子インスタンス】
litalita(@litalita9764629) ドビュッシー「月の光」
DENPARADE(@d_e_n_p_a) & litalita 「グノーのアヴェ・マリア」
under_the_left(@under_the_left) & litalita 「花は咲く」
kaiz/カイズ(@kaiz_na) ファイナルファンタージVIIから「エアリスのテーマ」
まぁちゃん(@bissochan) & litalita 「シューベルトのアヴェ・マリア」
サン・サーンス「白鳥」
□【けてるりんインスタンス】
ta-ga(@TAGA_VR_etc) 「三日月」「星の数だけ願は届く」
tatmos(@tatmos) 「星に願いを」「Fly Me To The Moon」「Moon River」
カワセミ(@kawasemi_vrc) 「カノン」
■スケジュール ※各部で内容は変わりません
第1部 14:30~
~10分休憩~
第2部 15:10~
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急遽、けてるりん(@keterlin_VRC)さんにインスタンスIIの司会をお願いしました。原稿とかどうしたんだろう? 突然、頼まれて「本日はコンサートにお越し下さいましてありがとうございます。まず注意点について説明します……」とかされたんだから大変だったと思います。ありがとうございました。
リハーサル
リハーサルといいながらやることは結構多くて、私などは、「通しで演奏して全部の時間を計る」というリハーサルとは理解しておらず、音量のチェックや調整などをやって、大ひんしゅくでした。申し訳ない。
たとえば、VR空間にピアノと椅子があります。そこに座って、ピアノを弾く振りをすればいいと思いますよね。実際にやってみるととても複雑です。家で私はピアノの前の椅子に座って、ヘッドマウントディスプレイをかぶってVR空間を見ています。そしてVR椅子を見つけてコントローラーを使って移動し、[sit]をクリックしてそのVR椅子に座ります。そうすると向きが微妙に変わります。座る高さも使っているアバターと調整する必要があります。現実のピアノと椅子、そしてVRピアノとVR椅子はピッタリ合わせるのがむずかしいのです。
そして、演奏中、私はヘッドマウントディスプレイを額に乗せ、両手のコントローラーをピアノの両端に置きます。VRの中のアバターは少し上を向いて、場合によっては背伸びして、両手はいっぱいに広がって見えます。あまり見栄えは良くないですよね。下の写真の奥が私、手前はビオラのまぁちゃんさんです。
カイズさんはその問題に随分前から取り組んでいました。ピアノをアバターに組み込んで、ピッタリとアバターとピアノの位置をあわせ、さらに最新のハンドトラッキングを使っています。Questではヘッドマウントディスプレイについているカメラを利用して、コントローラーがなくても手の位置を検出します。それどころか指すら動きます。ほら、ピアノをアバターが弾いているように見えるでしょう!
アンサンブルのためには、VRChatの遅延問題をクリアする必要があります。YAMAHAのSYNCROOMを使って、演奏者はつながり、そのアンサンブルした最終的な音をVRChat空間に流します。私の場合にはUSBマイクをノートPCにつなぎ、SYNCROOMでルームに接続します。そしてデスクトップPCのSYNCROOMでは20Hzの音をバックに流しておきます。デスクトップPCはバーチャルデスクトップというソフトで、私のVR機器であるOculus Questに繋げます。デスクトップPCでVRChatを起動してヘッドマウントディスプレイに表示します。そして他の演奏者も同じSYNCROOMで繋がります。
たとえば、まぁちゃんさんとアンサンブルするときには、あるいは私がソロで弾くときには、私のSYNCROOMからVRChat空間に音を流す方がいいです。なぜかというとまぁちゃんさんは「前のめり演奏」をして、ピッタリあわせてくるし、まぁちゃんさんの回線はWifiなので、負荷を下げる必要があります。でもunder_the_leftさんとアンサンブルするときには主旋律を吹くunder_the_leftさんのSYNCROOMからVRChat空間に音を流します。これを切り替える必要があります。リハーサルではうまくやったのに、本番では私は切り替えを忘れて、denparadeさんに指摘されました。教えてくれてありがとうございました。
それにしてもリハーサルでのメンバーの演奏はよかった。別な会場で演奏するTA-GAさん、tatmosさん、かわせみさんは、とても経験が豊富みたいで慣れている様子でした。彼らの本番は聴けないので、リハーサルで聴けてとてもよかった。
そして同じ会場のカイズさんの「エアリスのテーマ」の演奏には心を持って行かれました。最初にうるうるしたポイントでした。この曲は、私がVRChatでのピアノ演奏に気が付くきっかけとなり、このコンサートまで私を連れてきてくれました。この曲は影響を受けて、自分でも弾くのですが、カイズさんの「エアリスのテーマ」は美しい。感情がのって弾き終えたときに、本当に感動しました。
本番!
次々に知ったフレンドが聴きに来て下さいます。 #天文仮想研究所 のメンバーは #questラジオ体操部 のメンバーと違って、このコンサートのことをほとんど知らないはずです。フレンドのフレンドで知らないアバターもあります。緊張感が高まります。そして、私は「あの子。さん司会の会場」でトップバッターでした。コールされて座る位置やらSYNCROOMの調子やらを確認して、演奏します。
すみません、どんな心持ちだったかよく覚えていないです。演奏はうまくいきました! 「本番は練習のように」とまではいきませんでしたが、そこそこの緊張感の中で、それなりに演奏できました。
第1部では大きなトラブルはなく、次の第2部もあることから緊張感を保ったまま10分の休憩をして、第2部に突入していきました。
第2部に入りました。私はまたトップバッターで「月の光」を弾いたのですが、リハーサルも含めて3回目ともなり、後であの子。さんから言われたように「疲れていた」のかも知れません。本人はハイですから、そんなことは気が付きません。前半であまり調子よくなくスタートしました。中盤から立て直し、後半は思い通りに弾きあげることができたと思います。
続いて、denparadeさんとの「グノーのアヴェ・マリア」のアンサンブル。denparadeさんはハーモニカを吹きます。6連スピーカーのアバターです。姿がハーモニカを吹いているように見えますね! 演奏にあたって、「僕はテキーラとウィスキーのショットを4杯きめました!」と口上。とても楽しかったです。
次のunder_the_leftさんとは「花は咲く」をアンサンブルしました。かわいい「小梅ちゃん」という小さいアバターにサックスを持たせていて、いかにもサックスを吹いている様子です。椅子にちょこんと乗っているさまがさらにかわいい。第1部の演奏よりも気分が乗っている様子が、なんとなく私のノートPCから聞こえる遅延つきの演奏からわかります。いい感じです。しかし演奏の最後の最後に、トラブルが! 誰かがunder_the_leftさんの座っている椅子を[use]してしまったために、椅子ごと飛ばされてしまったのです。もし演奏中だったらと思うととても怖いですが、今は笑い話です。ビデオの映像にオチが付いてよかったと本人は笑います。
第2部の最初で私は自分の演奏で少し失敗しましたが、二人とアンサンブルして気分が高揚してきます。でも、私にとっての大本命は自分のソロよりも、まぁちゃんさんとのアンサンブルです。ビオラ演奏家とド素人のピアノ。リアルではあり得ない組み合わせです。バーチャルだからこそ出会った。プロ相手に上手に弾こうなんて、思うだけでもバチが当たりそうです。ただ自分ができる最高の演奏にできるだけ近づけたい、その一心です。
ここで演奏が途切れるなんて……!?
2曲演奏するうちの最初の曲はシューベルトのアヴェ・マリアです。ミスも無くペースも守って、うまく最初の折り返しにたどり着くというときにそれは起りました。ふぅっと風でロウソクの炎が消えていくように、まぁちゃんさんのビオラの音色が消えていってしまった。私はもう1小節は弾いたのですが、何か非常事態発生で演奏中止だと思い、一瞬ピアノを止めてしまいました。すると僅かな間隔を開けて、再びまぁちゃんさんの演奏が聞こえてくるではないですか! そこからピアノ伴奏を復活させて、アンサンブルに復帰しました。
後で、まぁちゃんさんに聞いたのですが、「停電して照明が落ちても、演奏は最後までやる!」とのことです。確かにそういうのを聞いたことがあります。まさに今回はWifiのトラブルで数秒の間、停電して真っ暗になったようなものです。まぁちゃんさん、きちんとその時に演奏者の鉄則を守っていたのです。
確かにリハーサルの後で、私はdenparadeさんにトラブルがあったらSYNCROOMで呼びかけてくれと頼みました。私が演奏しているときにはVRChat空間の音は聞きません。遅延だらけの音を聞いたら自分の演奏がおかしなことになるからです。映像もヘッドマウントディスプレイを額にしているので見えません。聞いているのはSYNCROOMからの音だけです。under_the_leftさんはマイクで繋いでいないので、音声では指示をだせません。しかし、よくdenparadeさんはあそこで止めなかった。テキーラとウィスキーのおかげだったのかな。
まぁちゃんさんは、Wifiのトラブルの後で、どう思ったのでしょう? だって、まぁちゃんさんの強い想いのある大切な次の曲である「白鳥」でもトラブルが起きるかもしれません。VRでの演奏はトラブルの連続の中をくぐり抜けるようなものです。多くの因子があって、すべて成功してようやくコンサートが成り立っているのです。分かってはいますが、それが現実に立ち塞がってしまった。
そして最後の曲「白鳥」へ
サン・サーンスの「白鳥」は内輪受けとして作曲された組曲「動物の謝肉祭」の最後の方の曲で、唯一サン・サーンスが生前に演奏を認めていた曲です。本人も気に入っていたのでしょう。とても素敵な曲で、ひろく演奏されています。「瀕死の白鳥」というバレエでご存じかも知れません。
まぁちゃんさんは演奏家です。音楽家です。この8ヶ月、このような人前での演奏の機会がなかったそうです。そう、2020年のコロナ禍で、もっとも影響を受けたのは、演奏家たちです。みんなが集まることが前提の演奏活動がすべて中止されて、何ヶ月も何ヶ月も過ぎているのです。それがどれだけ辛いことなのか? 想像するのだって難しいのに、それがどれだけまぁちゃんさんを苦しめ悲しませたかなんて絶対に分からない。
私は、まぁちゃんさんが「白鳥」に想いがあるのは、まぁちゃんさんが「瀕死の白鳥」だからだと思っています。そして、このまま、やがて力尽きて死ぬのです。
そして、そんな限界状態の時に、VR空間での演奏の機会が現れた。しかしVRでの演奏はトラブルだらけで、綱渡りして演奏しなければいけない。大切な「白鳥」を演奏する前に、本当に出現したトラブル。でも、まぁちゃんさんはこのまま終わってしまうとは思わなかった。私も立ち止まらなかった。そしてまぁちゃんさんの合図で、私は伴奏を静かにゆっくりと始めます。
ピアノ伴奏は水面のさざ波。ビオラ演奏はその上で静かにたたずむ白鳥。
二人とも、余計な事はまったく考えずに、演奏に集中していました。間違えずに弾こうとか、上手に弾こうとか、緊張感とか、そういうのはすっかり無くなり、私は完全に別なところに連れて行かれました。不思議と落ち着いたところ。
そして、最後のページ、白鳥が翼を広げるフレーズ。それから、まぁちゃんさんと数日前に打合せをして、リタルダンドの正確な長さや演奏方法を決めたところにさしかかります。私の楽譜には赤のペンの指示が書かれています。ビオラのソロとアンサンブルが交互に現れていき、最後の小節へ。そして静かに息を引き取るところ。ここは十二分に間をとる。やがてゆっくりと静かに最後の音が消えていきます。
本当に嬉しかったです。VR空間内で、観客が繰り出した飛び交うハートの絵文字の中で、私はまぁちゃんさんとハイタッチして、「やったぁ! やったぁ! バッチリ! バッチリ!」と喜び合いました。
私の一生の思い出になりました。折に触れて何かあるたびに、この演奏を思い出すことでしょう。ぜひ下記からお聴きいただければありがたいです。
謝辞
とても多くの方が関わっています。
あの子。さんにはプロデューサーをお願いしました。とてもカイズさんと私だけでは、みんなをまとめてコンサートにすることなんてできなかったはずです。ただのネコじゃなかった。ありがとう。
はにょえさんにはワールドを特別に製作いただきました。音響、照明、なによりも雰囲気、演出に関わるすべてのもの、改めてレベルが高くて信じられないです。ありがとうございました。
バビルサさん。ポスターを作成いただきました。VRChatではアニメ調が多いのですが、とても本格的なものを短時間で仕上げていただき、このコンサートを陰で支えて下さっています。次の作品も楽しみ。ありがとうございました。
けてるりんさんには突然の司会の依頼をしました。もしけてるりんさんがいなかったらメンバーはどうするつもりだったんだろう? VRChatにはすごい人材が多いって言うけど、それにしても出来すぎた話です。ありがとうございました。
カイズさんは前も書いたので短く。ここに連れてきてくれた人です。すべてこの人のせいです。こころより感謝申し上げます。
ろれるさん。天文仮想研究所の所長。45以上のイベントを一日でやる天文仮想研究所1周年記念イベントの全責任者。私にピアノを弾くチャンスをくださいました。飛び込んでよかった。ありがとうございました。
ebigunso(@ebigunso)さんとフリック(@TewiEwi_no96)さんには動画をいただきました。フリックさんは #questラジオ体操部 のホストでして、毎朝会っています。そしていつもみんなを大切にしてくださいます。ありがとうございます。
#questラジオ体操部 #questマッチョ部 の皆様。毎朝、私は緊張との戦いのために、隅っこでピアノを弾かせてもらいました。思えば、VRChatに入った翌朝にここにベアボウ(@Bare_Bow)さんのお誘いで行けたのは本当に幸運だった。深謝。
スタッフ
司会
あの子。(@veoxxxxxx)
けてるりん(@keterlin_VRC)
ワールド
はにょえ(@hanyoe_vrc)
演奏
カイズ(@kaiz_na)
litalita(@litalita9764629)
まぁちゃん(@bissochan)
DENPARADE(@d_e_n_p_a)
under_the_left(@under_the_left)
tatmos(@tatmos)
かわせみ(@kawasemi_vrc)
ta-ga(@TAGA_VR_etc)
ポスター
バビルサ(@Baby_Babyrousa)
アーカイブ
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https://twitter.com/i/events/1317651035670728704
YouTubeに載せた演奏の動画を集めたモーメント
https://twitter.com/i/events/1317795159728271360
下記のnoteは、この記事の前編に相当します。
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