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(原著)「就労移行支援利用者が主観的困難感をもつ就労上の対処行動リストの作成ーデルファイ法による専門家の意見の活用ー」が学会誌『職業リハビリテーション』に掲載されました

論文の概要

この論文は、就労移行支援を利用している人が、就労を目指す中でどんなことに困っているのか、その具体的な行動をリスト化することを目的としています。

なぜこの研究が必要なのか?

当事者の声を反映した支援: 従来の評価方法は、専門家による観察や面接による記録等が中心です。そのため、当事者本人がどんなことに困っているのかについての意見は支援者を介した記録となることが多いと考えられます。自記式質問紙があることで、当事者の主観的な意見が、支援者を介さずに反映することができますが、就労移行支援に関する自記式質問紙はまだ少なく、活用される場面も多くはありません。そして、この自記式質問紙を開発するためには、目的やテーマに合った項目プールが必要です。
より良い支援計画の作成: 当事者の困りごとを具体的に把握することで、一人ひとりに合った支援計画を作成することができます。
効果的な支援の提供: 当事者が抱える困難を具体的に把握することで、より効果的な支援を検討する視点が得られやすくなります。
研究の方法
この研究では、就労移行支援の専門家6人にアンケート調査を実施しました。アンケートでは、仕事をする上で困る具体的な行動をリストアップし、専門家の方々にその内容について評価してもらいました。デルファイ法という方法に基づいて、専門家の方々からの意見を参考に、リストの内容を修正・追加し、最終的なリストを作成しました。

研究の結果

専門家の方々の意見を総合的に判断し、仕事をする上で困る具体的な行動を59項目にまとめることができました。これらの項目は、大きく分けて以下の7つのカテゴリに分類されます。

  • 心身の健康(例:体調管理、睡眠)

  • 日常生活(例:起床、食事、身だしなみ)

  • コミュニケーション(例:会話、挨拶)

  • ソーシャルサポートの活用(例:相談、協力)

  • 職務の遂行(例:作業、時間管理)

  • 就職活動(例:求人の検索、面接)

  • キャリア・人生(例:将来の目標、キャリアや働きがいの検討)

研究の意義

この研究で作成されたリストは、まだ尺度化されていませんが、就労移行支援の現場で、当事者がどんなことに困っているのかを具体的に把握するための重要なツールとなりえます。今後、このリストを元に、標準化尺度を作成し、就労移行支援におけるアセスメントに活用することで、以下のことが期待できます。

当事者のニーズに基づく支援: 当事者が抱える困難を具体的に把握し、本人にとってより良い支援計画を作成する情報を得ることが期待できます。
ニーズに対してより効果的な支援の提供: 当事者の困りごとに対して、より効果的な支援を検討しやすくなることが期待できます。
アセスメントの質の向上: このリストを基に、標準化された尺度を作成し、アセスメントに活用することは、就労に関する困りごとについて利用者本人の主観を確認することにつながるため、利用者ニーズに基づく就労移行支援や、そのアセスメントの質向上につながることが期待されます。

今後の課題

この研究では、専門家の方々の意見を基にリストを作成しましたが、アセスメントとして活用できる尺度(質問紙)として標準化することができていません。尺度を標準化するためには、尺度開発の国際的な基準であるCOSMINの手続きに基づく研究が求められます。また、尺度の内容的妥当性を確認するために、実際にこのリストの項目について就労移行支援を利用する方々に確認してもらい、質問紙のわかりやすさや、質問と各カテゴリとの関連性、包括的で見落とされている項目がないかの確認を行うことで、さらに改善されると考えられます。今後、このリストを基に、当事者へのインタビュー調査やアンケート調査を行い、リストの妥当性を検証していきます。

まとめ

この研究を通して、障害のある方が社会に出て働くことをサポートする「就労移行支援」において、当事者ニーズに基づく支援を提供するための一つの選択肢を提示できたらと考えています。ゆくゆくは、多くの障害のある方が、自分の能力を活かしてイキイキと働くことができる社会の実現に貢献することを期待します。

用語解説

  • 就労移行支援: 障害のある方が就労へ移行していくことのサポートを目的とした障害福祉サービスのひとつ。

  • デルファイ法: 専門家の意見を繰り返し集め、最終的な合意を得るための手法。

  • 内容的妥当性: 測定するものが、本当に測定したいものを測っているかどうかを示す指標。

  • COSMIN: 自記式尺度を選択し評価するための指針が示された、国際的な基準。

◯注意点
上記の文章は、あくまで論文の概要を分かりやすく説明するためのものです。論文の全ての内容を網羅しているわけではありません。
論文の正確な内容については、以下をご参照ください。
陶・恒吉(2024). 就労移行支援利用者が主観的困難感をもつ就労上の対処行動リストの作成ーデルファイ法による専門家の意見の活用ー. 職業リハビリテーション, 38 (1) , 12-21.

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