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消えゆく言語を救うラップ

約7000

これは何を示す数字かというと、現在世界において話されている言語の数である※1。
これをラップに置き換えると、7000通りのラップが可能ということであり、バイリンガル、トリリンガルのラップとなった場合は何万通りものラップ・スタイルが可能ということとも言える。
(言語の構造上ラップできない言語もある可能性があるので、極論だが)

そして、次に紹介したい数字が「2500」。

これが何を示す数字かというと、現在消滅危機に直面している言語の数なのである※2。

消滅危機に瀕している言語は「消滅危機言語」と呼ばれ、読んで字のごとく、「近い将来、消滅してしまう言語」を指す。

このような消滅危機言語を保護するための活動が世界各地で行われているのだが、今回はその中でもラップを用いた保護活動を紹介したい。

なぜ言語が消滅するか

そもそも、なぜ言語は消滅するのであろうか。
アメリカ言語学会は、言語が消滅する理由として次の3つを挙げている※3。
 ①侵略などによって伴う虐殺で話者が消滅するため
 ②言語の置き換えが起こるため
 ③抑圧などにより言語の使用が断たれるため

まず一つ目の「侵略・虐殺などによる消滅」の顕著な例は、欧米の人々による世界各地に侵略・虐殺した歴史である。アメリカでのネイティブ・アメリカンの虐殺、スペイン・ポルトガルによる南米の植民地化、イギリス・フランスによるアフリカの植民地化など例を挙げればきりがない。

二つ目の「言語の置き換え」については、古代ギリシャ語やラテン語がそれに該当する。極端な言い方をすれば、言葉そのものが古くなったため、もしくは言語そのものが複数言語に分裂したためである。例えば、古代ギリシャ語は徐々に現代のギリシャ語に移り変わり、ラテン語はイタリア語、スペイン語、フランス語など、複数の言語に派生していった。スペイン語やイタリア語などの語彙、文法が似ている所以は、元々の言語の根っこが同じ(ラテン語)だからである。

三つ目の「抑圧などによる言語使用の断絶」は、中東のクルド人の言語がそれに当たり、トルコではクルド語の教育が法律によって禁止されている。

ラップによる消滅危機言語の保護活動

以上のような理由により世界各地の言語が徐々に消滅している訳だが、その保護活動の一環としてラップを用いてその言語及び文化を守る活動が行われている

<サーミ語の保護活動>

このビデオは、ノルウェーのマーゼという村人総数250人の小村出身の若者が行っている事例である。

マーゼ村の多くはサーミ人という種族が占めており、サーミ語が話されている。インタビューでは英語で喋っているが、ラップはサーミ語で行われている。

インタビューで話す若者がサーミ語ラップを始める前までは、サーミ語の歌は伝統的な歌しか存在しなかったため、サーミの若者が親しみやすい形(ラップ)で言語と文化を守りたいと語っている。

ラップの内容はサーミの文化についてや、村の現状をラップしているようで、いわゆる「レペゼン・スタイル」※4を貫いている。

この事例以外にも、コロンビアとパナマで消滅危機に瀕しているエンベラという言語や、アフリカの消滅危機言語で言語保護活動を行っている事例が存在する。

<エンベラ語の保護活動>

<アフリカでの保護活動>

まとめ

今回は消滅危機言語について論じてきたが、言語と文化は表裏一体であるため、言語の消滅はその文化が消滅することをも意味する
そして、消滅危機に瀕している2500の言語と文化の中には日本の言葉も含まれている
以下UNESCOのウェブサイトで、国を日本に絞って検索すると、アイヌ語、八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語の8つが該当している。

ネットで検索する限り、これら言語でのラップ事例は見つからなかった。
これら言語を用いたラップの言語保護活動、是非拝見してみたいものである。

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※1:https://www.ethnologue.com/ethnoblog/gary-simons/welcome-21st-edition
※2:http://www.unesco.org/new/en/culture/themes/endangered-languages/atlas-of-languages-in-danger/
※3:https://www.linguisticsociety.org/content/what-endangered-language
※4:レペゼンとは「Represent(代表する)」という意味で、英語の発音をカタカナ読みした表現である。Hip Hop(特にラップ)は「地元志向」が非常に強い文化であり、地元についてのラップはラップ・アーティストの代名詞的曲でもある。

<Represent / Nas レペゼンQueens, New York>

<Rollin’ 045 / OZROSAURUS レペゼン 横浜>

<ILL西成BLUES / SHINGO☆西成 レペゼン 西成, 大阪>


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