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生命感

サンダル履きで露出する素足に容赦ない日差しがふりそそぐ午前10時半の中華街。人気店だからと到着するのが早すぎた。他店の呼び込みに吸い込まれそうになる自分を懸命に制止する。

こんな時はただ周りを観察することで、せわしない日常における貴重な束の間を楽しみたい。店の立て看板が通路にはみ出す。観光客が店を入念に品定める。愛くるしい訛りの呼び込み声が響き渡る。すべてが中華街を創りあげていた。

炎天下で待っている僕を見かねた店員さんが開店時間より早く店内に入れてくれた。シャツが背中に張りつくほど汗をかいた身体に冷房の風が直に当たって身震いする。乾いた喉に水を与えると突然の水分に驚いたのか、せきこんで水を返してきた。

真っ赤で真っ黒な麻婆豆腐の挑発を真っ向から受けて口一杯に放り込む。毛根から滲み出た汗が頬を伝う。身体が正常に機能している感覚がうれしくて夢中で食べ続けた。

日差しはさらに強くなる。


400字エッセイ書いています。

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