Hubbleで変えた契約管理_効率化の実例とその先の課題
本記事は裏 法務系 Advent Calendar 2024のエントリーです。
酒井貴徳さんからバトンを受け取りました。
法務系アドベントカレンダーやこういった形でのアウトプットは初めてですので、皆さまお手柔らかにお願いします。
当社ではエンジニアや情シスでもAdvent Calendarに挑戦しており、コーポレート側でも発信できることがあると思ったので、参加してみました。
【ご参考】
株式会社ビットキー Developer Advent Calendar 2024
株式会社ビットキー Software QA Advent Calendar 2024
株式会社ビットキー 情シス Advent Calendar 2023
はじめに
はじめまして。株式会社ビットキーの北代です。
バックグラウンドは理系で、大学院では免疫学の研究をしていましたが、研究室で取得していた特許がビジネスに与える影響力の大きさを目の当たりにしたことと、2級知的財産管理技能士の資格を持っていたことをきっかけに、特許技術職に興味を持ち、メーカーの知財部に就職しました。
その後、自分の業務の幅やキャリアの幅を広げたいと思い、2021年4月に知的財産チームの立ち上げのタイミングで現職に転職し、現在は法務と知的財産を兼務しています。
現在、当社では企業法務の中でも事業法務に特化した部隊として、以下の業務を担当しています。
契約書審査
Legal相談対応
日々新たに生まれ出ずる商流のLegalリスクの洗い出しや精査
業法対応 等
今回のアドベントカレンダーでは、当社が取り組んできた法務領域の業務効率化や契約書レビューのオペレーション改善についてお話ししたいと思います。
読者の皆さんの運用改善に役立つヒントのご提供であったり、本投稿のコメントを通して皆さんからの知見やアイディアをご共有いただく場になれば幸いです。
この記事の想定読者
この記事は、以下のような皆さまに特におすすめです。
法務業務の効率化に興味のある方
日々の契約書審査の効率化を検討されている法務担当者。
具体的なツールの導入や、業務フロー改善に関心のある方。
スタートアップや中小企業の法務に携わる方
限られたリソースの中で契約業務を回している方。
業務効率化のヒントを探している方。
ツールを活用した法務業務の改善を目指す方
SlackやGSS,Hubble、freeeなどのツールを実際にどのように活用しているのか、その効果と課題が気になる方。
各ツールを導入済みでも、うまく使いこなせていないと感じている方。
スタートアップの法務ってどんなところ?
私は「法務」としては現在の会社しか経験がありませんが、この環境下で多くのことを学び、日々試行錯誤しています。
スタートアップにおける法務の特徴としては、特に以下のような状況があります。
依頼件数の多さ
当社では、月間の契約書レビュー依頼件数は70-80件に達します。
このボリュームは事業の成長に比例して増加しており、日々効率的な対応が求められます。
対応者の少なさ
対応する法務メンバーは、現状2人のみです。
少人数で多様な業務をこなさなければならないため、優先順位をつけつつ対応しています。
求められる案件の多様性
契約書のレビューだけでなく、業法対応や商流リスクの精査、知財関連の相談など、案件の幅が非常に広いのが特徴です。
特にスタートアップでは事業モデルが日々進化するため、ルーティン業務だけではなく新規の課題のキャッチアップ力や、課題への対応力も必要とされます。
多分、結構大変!!
正直、結構大変だと思います。
なので、このような環境下では、業務効率化が非常に重要です。
少人数で多様な業務を対応する中で、ツールを活用して効率を上げ、リソースを最大限に活用することが不可欠だと感じています。
当社の契約締結プロセスの全体像
契約書の締結業務をスムーズに進めるため、当社では以下の5つのステップに分けたプロセスを採用しています。
プロセスの概要
契約書審査の依頼受付
契約内容の調整
稟議申請と承認
製本・押印・郵送
締結完了・管理
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プロセスを支える主要ツール
これらのプロセスを実現するために、当社では以下のツールを活用しています。
Slack:
コミュニケーションツールであり、WFツールです。契約審査依頼の起票に用いています。GSS:
Googleスプレッドシートのことで、Slackのワークフローで受け付けた情報が転記されます。契約書のステータス管理や、タスクシートとして用いています。管理簿としても活用しています。Hubble:
契約書の版管理やコメント記録、修正依頼の一元管理に用いています。freee:
稟議申請や承認フローに用いています。その他:
製本や郵送に必要な物理的作業があります。
各プロセスの詳細説明
次に、契約締結プロセスの各ステップをご説明します。
ステップ1:契約書審査の依頼受付
契約書審査の第一歩は、事業部からの依頼受付です。
当社では、Slackのワークフローを活用して依頼を受け付けています。
ワークフローの中身で必須項目や希望納期など、依頼者と対応者(この場合Legal部門)で、プロセスのゴールの認識合わせを事前に行い、双方のコミュニケーションコストを下げられるようにしています。
ステップ2:契約内容の調整
当社では契約書の調整にHubbleを用いています。
契約内容の修正や確認が必要な場合、Hubble上でコメントや変更履歴を管理することで、担当者間のスムーズなやり取りが可能になります。
また、進捗状況はHubble内でステータスとして管理されますが、ここに課題も存在します(課題については後述します)。
ステップ3:稟議申請と承認
契約内容がLegalチームによって承認されると、次のステップである稟議申請に進みます。
この段階ではfreeeを活用し、申請から最終承認までのプロセスを回しています。
特に稟議の流れが迅速に進む点がfreeeの利点ですが、Hubbleとの連携部分に改善余地があります。
ステップ4:製本・押印・郵送
freeeで最終承認が下りると、製本や押印、郵送といった物理的な作業が必要になります。
この作業は事業部からの依頼を受けて進行し、最終的に契約書が当事者へ送付されます。
ステップ5:締結完了と管理
締結済みの契約書はPDF版をGoogleドライブ、物理版をキャビネットに保管しています。
GSSのLegal簿で管理番号を付与し、Hubble、freee、Googleドライブの各URLを一元管理することで、迅速なアクセスや追跡を可能にしています。
Hubbleでも契約書の管理はできるのですが、Legalで確認した証跡としてや、バックアップのため、視認性・検索性を目的として、簿を管理しています。
従来の運用:GSS時代の課題と運用の工夫
当社のLegal部門は、Legalテックへの高い感度を持ち、業務改善を繰り返してきました。
以前は、GSSを中心に契約業務を管理し、Slackとの連携を駆使して以下のような仕組みを構築していました。
事業部での手続きの簡略化
事業部の負担を極限まで減らすことを目指して契約プロセスを設計していました。
事業部は、普段コミュニケーションに使用しているSlackに留まっているだけで、Slackのワークフローが進むと契約内容の調整から稟議、押印準備までを、ほとんど手間なく進行できる仕組みを導入していました。
この仕組みでは、GSSを通じて全タスクを一元管理でき、Legal内での情報共有の効率化も図られており、事業部の負担軽減と業務効率化を両立させていました。
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この図は、Hubble導入前の契約管理フローを示しています。
GSSを中心とした運用では、上図の通り、事業部はSlackに留まっていればよく、Legalが裏でSlack、GSS,Hubble、freeeといった複数ツールを行き来する必要がありましたが、Slackワークフローの活用により、事業部及びLegalの双方の負担を軽減させていました。
見えてきた課題
GSSを活用した運用を進める中で、以下のような課題が見えてきました。
行数制限の問題:
GSSの行数が2000を超えたあたりでSlackとの連携がうまくいかなくなり、SlackからGSSへの手作業での転記が必要になってしまいました。
進捗管理の難しさ:
案件ステータスがGSS上で不明瞭になり進捗把握に時間がかかってしまいました。
分散管理の非効率性:
依頼受付、契約書調整、稟議申請が異なるツールで管理されており、ワークフロー全体の一貫性が損なわれてしまう課題がありました。
Hubble活用で実現した契約業務改善
こうした課題を解消するため、従来から導入してはいたHubbleを最大限活用することで、契約業務の効率性が大幅に向上しました。
以下で、具体的な改善点を解説していきます。
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この図は、Hubble導入後における契約管理フローの変化を示しています。
上図の通り、SlackでのWFやGSSでのタスク管理を廃止し、従来、契約書の版管理としてしか使っていなかったHubbleを、契約審査の受付、契約内容の調整時のコミュニケーションツール、ステータス管理等にフル活用することで、業務フロー全体がシンプルになり、Legalが複数ツールを行ったり来たりして作業する必要がなくなりました。
また、Legalと事業部の間でスムーズな連携が実現しました。
以下で、具体的に改善したポイントを記載していきます。
依頼受付:Slack × Hubbleの自動連携
Slackで依頼が起票されると、Hubbleにドキュメントが自動アップロードされ、Legalチームがすぐに内容を確認できる仕組みを構築しました。
【ご参考】Slack契約書審査依頼フォームの設定
従来:
GSSへの転記が必要で、手作業が発生していました。
依頼受付のたびに情報を確認する時間がかかっていました。Hubble導入による改善:
SlackワークフローとHubbleが連携し、依頼内容の転記が不要になりました。
依頼者と対応者が同じプラットフォーム上で情報を共有できるため、コミュニケーションをスムーズに進行できるようになりました。
また、Hubble上で、自分宛てにメンションされた場合、SlackとHubbleとのApp連携によりSlackで通知を受け取ることができるため、対応のヌケモレも防ぐことができます。
【ご参考】HubbleのSlack DM連携
更に、依頼を受け付けるタイミングで、取引先の反社チェック完了により付与される番号(Client番号)を必須の質問として受け付けることにより、取引可である取引先とのみ契約内容の調整ができるような工夫もしています。
契約内容の調整:契約プロセスの進捗の可視化
Hubbleの「詳細情報」のステータス機能をカスタマイズして活用することで、各契約案件の進捗状況をリアルタイムで把握することが可能になりました。
従来:
GSSのセル情報から進捗を確認する必要があり、状況把握に時間がかかっていました。
GSSのタスクシートはLegalしか見られなかったため、事業部はLegalに締結ステータスを照会する必要がありました。Hubble導入による改善:
具体的に、以下のステータスを設けました。レビューステータス:
「Legalレビュー中」「事業部確認中」「一旦保留」「取下」「レビュー完了」
※ 事業部はここのステータスで進捗を追うことができるし、Legalでのタスク管理にも活用することができます。freeeステータス:
「freee申請中」「⭕️freee最終承認済み」
※ 事業部にここのステータスの更新をしてもらうことにより、Legalは押印準備に取り掛かることができます。押印準備ステータス:
「【要】電子締結_下書き」「【要】電子締結_受信確認」「【要】製本」「【要】先方製本受領_読み合わせ」「⭕️押印準備完了」
※ Hubbleのドキュメントリスト上で「【要】〜〜」のステータスでソートすることで、対応が必要な案件を抽出できます。押印ステータス:
「【要対応】紙に押印」「【要対応】電子締結」「⭕️BK押印済み」
※ Hubbleのドキュメントリスト上で「【要対応】〜〜」のステータスでソートすることで、対応が必要な案件を抽出できます。
【ご参考】Hubble:ドキュメントリストの基本操作
事業部の巻き込みによる業務効率化
Hubbleの導入により、事業部も契約内容の調整やコメント記録に積極的に関与するようになりました。
従来:
事業部-Legal間のコミュニケーションはSlack上で行っていたため、事業部から契約内容の修正依頼がくる場合、Legalが手元でwordを開いてSlackに修正内容を転記していたため、対応遅れや情報の齟齬が頻繁に発生していました。Hubble導入による改善:
事業部がHubble上でコメントを直接記録し、リアルタイムで修正内容を共有できるようになりました。
また、Hubbleの詳細情報機能を活用し、事業部に締結方法(電子締結・郵送)や授受方法、電子締結の送付先情報や郵送先情報を事前に記入してもらう仕組みを取り入れました。
これにより、freeeでの稟議が最終承認され次第、事業部が詳細情報のfreeeステータスを「⭕️最終承認済み」に変更することで、事業部が事前に記入した締結情報・授受方法等の情報をもとに、Legalで迅速に押印準備を開始することが可能となりました。
このように、Legalチームの負担を軽減しつつ事業部との協働をスムーズに行うことができています。
工数削減の具体的成果
以上で説明したHubbleの導入により、事務作業にかかる時間の大幅な削減や、ステータス管理による対応漏れの減少、事業部との協働により、具体的に以下のような効果が出ています。
事務作業の削減:
SlackからHubbleへの連携で、1件あたりの事務作業時間を約40〜60分削減でき、月平均約30〜70時間、年間で約360〜840時間の工数を削減しました。進捗管理の効率化:
契約案件の可視化により対応漏れが大幅に減少しました。
(詳細な分析は今後進めます)事業部の変化
Hubbleのコメント機能を使って契約内容の調整のやり取りをすることにより、事業部側で積極的に契約書を修正する動きが増えました。
コミュニケーションも円滑化しましたし、事業部のLegalリテラシーも向上しており、業務全体のスピードが向上しました。
Hubble運用後に見えた課題と次なる一歩
Hubbleを導入したことで工数が劇的に削減されましたが、以下のような新たな課題も見えてきています。
ツール間連携の不完全さ:
現状では、Hubble上で精査した契約内容のfreeeへの転記や、freeeの最終承認後の押印準備プロセスへの移行などが、事業部での手作業に依存しており、スムーズに作業が進まない場合があり、Legalのフォローアップの負担が増えています。
ゆくゆくは、製本・押印・郵送業務を総務部門に移管していこうと考えていますが、現時点ではHubbleを活用した一元管理の体制維持が喫緊の課題です。
ステータス管理の運用負荷:
Hubble内でステータスをタイムリーに更新する習慣が浸透しておらず、進捗状況の把握が遅れたり、事業部での現在地の可視化が課題です。
考えうる解決策:
ツール間連携については、HubbleのAPI連携機能を活用し、freeeへのデータ自動転記を可能にすることで、事業部の手作業負担を軽減したいと考えています。
ステータス管理の定着については、リマインダー設定や運用ガイドラインの啓蒙などのみならず、月次報告会で進捗状況を共有し、ステータス更新を習慣化することを考えています。
さいごに
この記事が少しでも読者の皆さまの業務改善や効率化の参考になれば嬉しいです。
当社では、Hubbleを活用した業務効率化に取り組んできましたが、課題解決への道のりはまだ途中です。
一歩ずつ日々進化を続けることで、Legal部門の役割をさらに強化していきたいと思います。
本記事を通じて得た気づきや、読者の皆さまからのご意見を基に、引き続き改善活動に取り組んでいきたいと思います。
これからも業務の最前線で挑戦する法務のリアルを発信していきますので、ぜひお付き合いください!
私たちビットキーでは、少人数だからこそ挑戦できる、スタートアップ法務のやりがいを一緒に楽しめる仲間を募集しています!
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