【疑問3】神父・牧師表記 聖人信仰の有無について
■異世界小説における【神父・牧師】表記問題と、結婚の可否
物語を書く時は「神父か牧師か」でいつも悩みます。
異世界を舞台に書く時は尚更です。「神父・牧師」どちらの敬称を選ぶかで、実在するキリスト教社会の教義と諸制約を、異世界にも持ち込まねばならなくなるからです。
前回の記事でも話しましたが、神父は「Father」です。
牧師は役職や地位、宗派に因って異なります。
「Rector・Vicar(英国国教会)」
「Reverend・Pastor(一般のプロテスタント教会)」
英語表記が分かれております。
まだ他にもいっぱいあります。
地域によっては、聖公会(国教会)の司祭を「神父様」と呼ぶ地域もあるそうです。
宗派の壁、国・地域毎に存在するデリケートな問題を考えてしまったのです。「牧師」と書いたら「どこの?」とそこから説明しなければならない。
そのため自著【リンドバーグの救済】では「司祭 Prist」とし「結婚と妻帯が許された、中道の英国国教会がモデル」と表記して物語を執筆することにしました。国教会では「司祭」の聖職位が与えられるからです。
「そんなに難しく考えること? 中道なんてややこしい道を選ばずに、プロテスタントとカトリックどちらかをモデルにすれば良いのでは?」
と疑問に思われた方がいらっしゃったら、以下の六点について考察してみてください。
1・聖職位を認める教会世界か
2・聖職者 もしくは 教会奉仕者 が結婚するストーリーか
3・きらびやかな宗教儀礼が存在する世界か。
4・王の戴冠に宗教的意味が含まれる世界か。
5・教会内の地位・権力抗争をストーリーに盛り込むか。
6・聖人信仰および、列聖や聖女が存在する世界か
実在の宗派と照らし合わせて考えてみます。
★カトリックをモデルとする場合
★英国国教会をモデルとする場合
★一般的なプロテスタントをモデルとする場合
■聖人信仰について
戴冠式の際に映し出されたウェストミンスター寺院の内装と外装は美しく、王国の歴史と伝統を感じさせるものでした。寺院には聖人像が多く飾られています。
教会描写といえば、ファンタジー作品では「聖人像」をよく見かけます。「聖母像、守護聖人像」などです。しかしこれらも宗派で明確な違いがあります。
プロテスタントは聖人像を新たに設けることや、聖人を敬う行為全般に消極的です。
「教会にマリア像があるか否かで、プロテスタントかカトリックか分かる」
と巷で言われるのはその為です。
プロテスタントは聖職者を神格化・特別扱いすることよりも「神の言葉と信仰心」を重視するからです。
ルターの宗教改革においては、カトリック社会の聖職者の腐敗に異が唱えられました。
いかがでしたでしょうか。
次話【聖堂か、寺院か】もお読みいただければ幸いです。
■キャライラスト:CHARAT様
https://charat.me/
■背景素材:イラストAC様より
https://www.ac-illust.com
■参考文献
『今さら聞けない!? キリスト教:聖公会の歴史と教理編:ウィリアムス神学館叢書Ⅴ』
岩城聰著/教文館/二〇二二年五月
『今さら聞けない!? キリスト教:聖書・聖書朗読・説教編 :ウイリアムス神学館叢書 Ⅱ』
黒田裕著/教文館/二〇一八年七月
『ふしぎなイギリス』
笠原敏彦著/講談社/二〇一五年五月
『神学の技法:キリスト教は役に立つ』
佐藤優著/平凡社/二〇一八年五月
『神学の思考:キリスト教とは何か』
佐藤優著/平凡社/二〇一五年一月
『聖公会が大切にしてきたもの』
西原廉太著/教文館/二〇一六年十二月
『芸術の都:ロンドン大図鑑:英国文化遺産と建築・インテリア・デザイン』
フィリップ・デイヴィース著/デレク・ケンダル写真/加藤耕一監訳/二〇一七年六月
『聖公会物語――英国国教会から世界へ――』
マーク・チャップマン著・岩城聰監訳/かんよう出版/二〇一三年十月
『現代世界の陛下たち――デモクラシーと王室・皇室――』
水島治郎・君塚直隆著/ミネルヴァ書房/二〇一八年九月
■WEB参考記事
ビジュアル・ジャーナリズム・チーム/BBCニュース/2023年5月1日
【図解】 イギリス国王チャールズ3世の戴冠式 どこでどのように
■『宗教法』論文データベース ARL:宗教法学会HPより
イギリスの宗教法文献紹介(1)(2)石村 耕治著
http://religiouslaw.org/
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