Numcha Live in Tokyo 2023ライヴレポート
バンコクのシンガー・ソングライターNumcha(ナムチャ)にとって初めての来日ツアー。ある意味、奇跡的なライヴだった。
当日の朝、ツアーマネージャーからの着信で起こされた。ナムチャの具合が悪い。喉の調子がおかしくて声が出ない。薬を手に入れたいが医師の処方箋が必要なのか?どうしたらいいのか?というような内容。
前日はラジオのインタビューを2件こなしたが、そのときはとても元気だったので青天の霹靂だった。ホテルの近くのドラッグストアに行ってもらい、電話で代わりに薬剤師に症状を説明し、適切な市販薬を選んでもらい、それで様子を見てもらうことにした。
結局、期待した効果は得られなかったので、病院に行くことに。いくつか病院に電話をかけ、ライヴ会場近くの病院を予約した。週末のタイフェスにコーディネーターとして来日していたタイ語ができる日本人の方(タイのレーベルnewechoesの知り合い)の助けを借りて、ステロイドの点滴を行った。その時点ですでにサウンドチェックは始まっていたので、ぼくは病院と会場を行き来しつつ、最終的にはナムチャなしでサウンドチェックを進めてもらった。
サウンドチェックがはじまったのが16時過ぎのこと。その時点ではまだ医師の診断待ちだったので、正直ライヴのキャンセルも覚悟していた。点滴を打って、キャンセルの可能性はなくなってからも、彼女の様子からまともにパフォーマンスできるのか心配だった。ましてやリハーサルなしのぶっつけ本番だ。
ゲストのYONA YONA WEEKENDERSがすばらしい演奏を見せてくれている間も不安は拭えない。楽屋ではナムチャが今回の体調不良のことを日本語で伝えるために、一生懸命メモを書き留めていた。元気はなかったけど笑顔だったので、やはり心配ではあったがなるようにしかならないという気持ちになった。
そしてナムチャのライヴがスタートした。1曲目、バンドの演奏がはじまり、途中からナムチャがステージに登場するという演出。サウンドチェックに参加できなかった彼女にとって、この日初めて登るステージだ。
まずは「Ladybug」。個人的にナムチャのポップセンスに驚かされ、国内盤リリースのオファーを決断した大好きな1曲だけど、この日の彼女の歌声を初めて聞いたとき、これならなんとかなるかもしれないと思った。
そして数曲が演奏される頃には「あれ?むしろめちゃくちゃよくない?」という気持ちに変わっていた。
喉の調子が悪いゆえに、フルボイスではなく、おそらくいつもよりしっかりと歌い上げるスタイルで、個人的には台湾で観たときよりも丁寧に歌っているように感じた。
初めてライヴで披露された新曲「Afterglow」はまだデモといった雰囲気だったが、同じく新曲の「Powder Blue」はオーディエンスとの掛け合いを要求しながら、完成度の高さを感じさせた。いずれも7月リリース予定のニューEPに収録予定とのこと。
台湾のSunset RollercoasterのKuoとのコラボ曲「Merry Midnight」ではギターのミックがKuoパートのヴォーカルも担当。これが相当にすばらしく、驚いた方も多かったのでは。
ナムチャの身に起こったトラブルにも関わらず、バンド・メンバーは終始安定した演奏を聞かせてくれた。今回、ギター、ベース、ドラム、キーボードを加えた5人編成のバンドセットだったが、ナムチャ不在のサウンドチェックも全く焦ることなく淡々とこなし(タイからサウンドエンジニアが帯同していたことも大きいだろう)、本番も多少のミスはあったとしても、すばらしい演奏で文字通りナムチャを支えていたことにかなり感心した。ナムチャ以外は、みんな24歳ぐらい(ナムチャは27歳)。プム・ヴィプリットの2018年の初来日時、彼やバンドメンバーが同じぐらいの年齢で、その時の演奏にも感心したものだったが、それと比較してもクオリティは遜色ないように感じた。
彼女が注目されるきっかけとなったデビュー曲「Keep Cold」(冒頭の日本語の台詞「お願い、私に返事してくれる?」を日本語で言っていた!)と2ndシングル「Dirty Shoes」の2曲のシティ・ポップ・チューン、そしてラストの「In my white dress」の3曲の流れはまさにクライマックス。このあたりではもう声に限界が近づいている感じがあったものの、おそらくアドレナリンが出ている影響なのか、ここからさらにテンションを上げていく。「In my white dress」ではステージを降りて客席で歌い上げた(リハなしだったので、もちろん知らされていない)。
本編で持ち曲をすべて演奏してしまったので、アンコールではリクエストが多かった「Butterfly」と「Dirty Shoes」を2度目の演奏。「Dirty Shoes」は本編とは微妙にアレンジを変えていた気がする。
体調不良という逆境をはねのけて最後までやり抜いた彼女の健気さや精神力の強さがとても感動的だったが(ちなみに点滴の効果が切れた翌日はやはり体調が悪かった模様)、それを差し引いたとしてもライヴ自体は本当に圧巻だった。正直、個人的には無事に終わった安堵感が何より勝ってしまうので、万全な状態でのライヴをいつかまた観てみたい。
Numcha Live in Tokyo 2023
May 18th 2023 at WWW
Setlist
1. Interlude
2. Ladybug
3. Butterfly
4. Kryptonite
5. 333
6. Afterglow (new song)
7. Powder Blue (new song)
8. Merry Midnight
9. April's Loop
10. Scenario
11. Keep Cold
12. Dirty Shoes
13. In my white dress
encore
1. Butterfly (2nd time)
2. Dirty Shoes (2nd time)
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