見出し画像

Phum Viphuritが駆け抜けた2018年

2018年はバンコクの若きシンガー・ソングライター、プム・ヴィプリットにとって、彼の人生を変えた1年となった。ちょうど1年前のこと、本国タイのリリースから遅れること1年、彼のデビュー・アルバム『Manchild』の国内盤CDからリリースされたが、その発売日のほんの数日前の2018年3月15日、のちにYouTubeを席巻するシングル「Lover Boy」がリリースされた。

もともと、『Manchild』収録のシングル「Long Gone」のMVがヴァイラル的に世界に広がり、大きな注目を集めていたというベースはできていたものの、「Lover Boy」のよりインターナショナルな受け入れられ方は驚異的だった。公開からわずか2週間で200万回再生を越えると、半年で2000万回、公開から1年が経った現在では3700万回近くまで到達している。

(Photo by Tetsuya Yamakawa)

4月には初の来日公演となるライヴを渋谷のWWW Xで行った。このライヴは彼が本格的に行うタイ国外でのツアーの初日だった。このライヴを皮切りに、韓国、台湾、香港、シンガポール、インドネシア、フィリピンというアジア各国でツアーにフェスティヴァルに引っ張りだこ。秋には1ヶ月で21公演というヨーロッパとアメリカ・ツアーを成功させた。特にプムにとって夢だったアメリカ・ツアーは全公演ソールドアウトという快挙。タイ国内でも雨季以外のライヴ・シーズンでは毎週のようにフェスやイヴェントに出演し、2018年のはじめはまだインディー・ミュージック好きのあいだで知られているに過ぎなかったタイ国内での人気もこの1年で大きく飛躍した。

引く手数多だったのはライヴに限ったことではなかった。7月には中国のラップ・グループHigher Brothersとのコラボ「Lover Boy 88」(「Lover Boy」にラップを加えたリミックス・ヴァージョン)が88risingのコンピレーション・アルバム『Head in the Clouds』に収録。そして、4月の来日公演で共演したことをきっかけに実現したビートメイカーSTUTSとのコラボ「Dream Away」が収録されたアルバム『Eutopia』が9月にリリースされ、ヒップホップ界隈までもその名をアピールした。他にもいくつものアーティストからコラボレーションの申し出があるらしく、今後どのように展開していくのか注目しておきたい。

プム・ヴィプリット自身は自分の音楽について、10代のときに影響を受けたモータウンなどのソウル・ミュージックと、マック・デマルコなどのインディー・ロックをミックスさせたインディー・フォークと自称していたが、実際にはそれはインディー・フォークにはとどまらず、ひとつのジャンルに固執しないより風当たりのいいサウンドは、アジアのミレニアル世代の奏でる音楽に共通する柔軟性がある。事実、この1年、SNSではプム・ヴィプリットについて、「タイの星野源」「タイの山下達郎」「タイのNever Young Beach」「タイのSuchmos」「タイのYogee New Waves」「タイのOriginal Love」さらには「タイのBruno Mars」...とさまざまな異名をみかけてきたが、それだけ幅広いリスナーにリーチできているということの証明でありとても興味深い(その主因はYouTubeでのバズなのは間違いなく、フィジカルのセールスとの乖離はレーベルとしては大きな課題だけど、それはまた別の話)。

(Photo by Ryo Mitamura)

4月に日本ではじまったプム・ヴィプリットのインターナショナル・アドヴェンチャー。その終着点もまた日本だった。12月の東京・大阪公演。特に4月と同じWWW Xでの東京ワンマン公演は珠玉の内容。まだバンド結成から1年ほどだった4月の公演に比べ、特に欧米のタフなツアーでとことん鍛え抜かれた演奏力と、それを成功させた自信と経験がバンドとしての一体感を段違いにレヴェルアップさせており、なによりプム自身の本物のスター性は一段と輝きを増していた。レパートリー自体にはほとんど変わりはなかったものの、アレンジがどんどん磨かれ、進化した楽曲群。STUTSとの再会、コラボ曲「Dream Away」世界初披露というサプライズもあり、新たなキーボード・メンバーを加えた5人編成での演奏はまさに2018年の集大成というべき圧巻のライヴだった(翌日の大阪公演はキーボード不参加の4人編成)。

プム・ヴィプリットが英語で歌うのは、ニュージーランド育ちの彼がタイ語よりも英語で思考することがより自然だと感じているからだそうだが、タイのインディー・シーンからでも世界標準の音楽を世界に届けられることを示すことを大きな目的としているからだという。すでにこの1年でその目的は十分成し遂げた。「Phum Viphuritが駆け抜けた2018年」とタイトルに書いたが、それはおそらく助走段階で2019年に真の飛躍がみられるかもしれない。「タイのLover Boy」から「アジアのLover Boy」。そして「世界のLover Boy」へ。


いいなと思ったら応援しよう!