【職員インタビュー#2】柏の葉スマートシティでのリビングラボにおけるLiqlid活用
実施日:2024年1月17日(水)
インタビュイー:八崎さん(UDCK) 大山さん(UDCKタウンマネジメント) 阿藤さん(柏市職員※出向職員)
インタビュアー:Liquitous 政策企画 藤井海
職員インタビュー第2弾は、柏の葉スマートシティで実施されているリビングラボ「みんなのまちづくりスタジオ」にて活用している事務局の皆さんを取り上げます。2022年12月から運用を開始し、約一年が経過した現在、Liqlidの運用にについてどのような感触をお持ちなのか、深堀ります。
[前提情報] Liqlidの活用方法
2020年12月から、柏の葉アーバンデザインセンター(以下:UDCK)が運営するリビングラボ「みんなのまちづくりスタジオ」にて、市民参加型合意形成プラットフォーム”Liqlid”を「みんスタONLINE」と呼称し、活用している。具体的には「みんスタONLINE」を以下の図のような3つの機能(役割)を持たせ、運用している。
3つの機能
①あつめる:声の可視化と課題の特定
まちの良いところや課題を集め、可視化する機能である。ここで集められた意見は、エリアマネジメント組織や大学、企業、住民などのまちのプレイヤーによって取りまとめられ、まちづくりに活かされる。②はなしあう:課題の解決策を共創する
大学・企業・行政・住民からのテーマについて話し合い、深める機能である。ここで扱われるアジェンダは、「あつめる」機能にて投稿された声が元となる場合や、企業・行政が設定する場合もある。③つながる:地域コミュニティ形成
住民同士のコミュニケーションが生まれ、コミュニティを形成する機能である。住民同士で趣味や好きなものを共有したり、まちの有益な情報交換をする場所として活用されている。
※以下インタビュー内容
導入前について
「Liqlid」に関心をもった背景
大山さん:リビングラボ(みんスタ)を開始する時に、リビングラボの役割を住民の皆さんと一緒に考えた際、リビングラボは、「住民の声を集めて、街に反映する」という役割を担うべきであるという方向性になりました。なので、どのようにその役割を果たしていけば良いのかを考えるために、第1回目のプロジェクトでは「まちの声をあつめて、見えるようにする仕組みをつくる」というテーマを扱ったんです。そのプロジェクトの中で、住民の皆さんと一緒に、住民の声を集めるためにSNSを活用するだとか、UDCKの正面に掲示板を設置するといった、”街の声”を可視化するためのアイデアを考えました。こうした取り組みを進めている中で、約1年間くらいは参加型のまちづくりに関するツールについてを探していたのと、たまたまそのタイミングでLiquitous社の”Liqlid”というツールの存在を知ったというのが経緯になります。
八崎さん:それこそ、まちのサイネージに住民の意見を表示させるだとか、Googleフォームでの意見集約も考えていましたが、”街の課題を集め、可視化する”ことに特化したツールがなかなか見つかりませんでしたね。
「Liqlid」に期待していたこと
八崎さん:一言で言えば包摂性の確保です。時間や場所的な制約があるので、対面のリビングラボプログラムに参加できる人は限定されているという課題意識はずっとありました。ですから、時間と場所を選ばないという点には期待していました。
大山さん:そうですね。柏の葉エリアは比較的子育て世代が多く、日中に開催されるプログラムに参加できる方が限られているという課題を解決する手段としてオンラインプラットフォームは有効です。加えて、Liqlidの設計思想や、”じっくり話して、しっかり決める”というコンセプトが、我々の取り組みとの親和性が高いとも考えています。みんスタ(=リビングラボ)では、住民から挙げられるボイスを具体的なアイデアへと昇華し、街へ実装するというプロセスで進みます。Liqlidには、アイデアの発散から具体化(収束)までのプロセスを再現できる機能が備わっているので、この点も相性が良いと考えていました。
導入を検討する際に意識していたことや懸念について
八崎さん:2つあります。1つは、みんスタONLINEが住民の苦情の吐口とならないかという点。もう1つは、投稿された意見に対して、どのように、あるいはどこまで対応するのか判断が難しいという点です。前者については、比較的未来志向のテーマを中心に扱うなど、問いの立て方を工夫することで、単なる課題集めやマイナスな性質を持つ声ばかりが集まらないようにしています。また、後者については、当然全ての投稿に対応することは限界があります。ですから、住民の声がどのようにまちづくりに活かされているのか図で示したり、事務局が定期的に返信するなど、”言いっぱなし”の空間にならないようにしています。また、現状では、行政が対応しなければいけない内容(例えば「道路が壊れてます。」など)はあまり投稿されていません。ただ、緊急性の高い内容が投稿された場合は、できるかぎりスピード感を持って対応することは事務局側で決めていたので、例えば、みんスタONLINEに投稿された内容も考慮し、事故が起きた現場(保育園前)に事故防止用ポールを立てたというような事例も生まれています。
導入後について
「Liqlid」の効果について(対面とオンラインの組み合わせについて)
大山さん:徐々に登録者も増え、いつも参加してくださっているメンバーではない、より多様な属性の住民にアプローチできていると思っています。例えば、リビングラボプログラムの一つである「パパ・ママケア編」では、オンラインで出てきた意見を対面のワークショップで扱い、サービスを検討する際に活用しました。対面だけでは集められなかった声を拾えている点は、取り組みの包括性の向上に繋がっていると思っています。また、オンライン上で、議論の経過を掲載することができる点も、取り組みに参加していなくでも気軽に情報にアクセスできるので良いと思っています。
阿藤さん:これまでのまちづくりへの参加手法は、対面の取り組みに参加したり、アンケートなどでの意見提出が主流でした。その点で、みんスタONLINEは、参加ハードルを下げている、つまり一定の主体性を持った住民の皆さんが、時間的・場所的制約がない状態で継続的にまちづくりに参加する方法としての役割を担えているのかなと思います。
八崎さん:対面のみだと、どんなに本質的な課題について議論したとしても、数字だけみると”数十人での”議論になってしまいます。そこを、例えば対面だと数十人だけど、そこで行われる議論の背後には数百人の意見が包含されている状態にすることで、「一部の声」から「街の声」として、一つ上のレイヤーに昇華できるではないかと考えています。さらに言えば、「声の数」ではなく、「声を挙げられる状態にある人がどれだけいるのか」という点が重要です。例えば、プログラムAで十数人のメンバーでプログラムを進めつつ、プラスでオンライン上では数百人が声をあげてくれる状態にしたいんです。つまり、「①意見の数」と「②意見の言う人の数」、そして「③意見を言う人の多様性」が重要です。なので、みんスタONLINEを活用してから、プロジェクトにより深みが出てきたという感覚があります。
今後さらに取り組みたい点
八崎さん:やはり、まちづくりに関わる重要なテーマを扱うときに、そこに住民(=ユーザー)がいないと何も聞けないと思っているので、ユーザー数を増やしていくためも施策は継続して検討したいと考えています。一方で、ただ単にユーザー数を増やすことだけを目的として運用するのではなく、みんスタONLINEを導入した本来の目的やこの取り組みが担うべき役割から逸らさないように気をつけなければいけないと考えています。
大山さん:ユーザー数を増やすことに加えて、継続性を持って関わってくれる”リピーター”を増やすことも重要ですね。そのために、みんスタONLINEに登録してくれた人への情報発信を定期的に行い、一回きりの参加で終わらないような工夫をしながら運用しています。あるいは、Liqlid自体の機能・ユーザーインタフェースの改善や、我々運営側が運用改善を継続することが肝だとも考えています。
行政ではなく、エリアマネジメント組織が「Liqlid」を活用することの意義
大山さん:2年で5つのプロジェクトを動かしてきたことを考えると、行政と比べてフットワークが軽く、比較的短期間で成果を出せる点がエリアマネジメント組織によるLiqlid活用の意義かと思います。継続的にLiqlidに参加する動機を持ってもらうためにも、小さくても良いので、住民の声が街に実装されるという成果を住民の皆さんに見せることができるのは、エリアマネジメント組織によるLiqlid運用ならではの利点ではないかと思っています。
阿藤さん:あとは、エリアマネジメント組織が、行政と住民の仲介役となることで、より効果的な場づくりができる点も意義の一つだと思います。地方自治体は人事異動があるので、まちづくりについて専門性を持っているUDCKのようなまちづくり組織が、行政と住民のコミュニケーションの仲介役として入っていると、よりまちづくりに関する取り組みを進めやすい側面はあります。また、これまでは事業内容が決まってから市民の意見を聞くことがほとんどですが、行政としても、みんスタの仕掛けをうまく課題解決やその手法を考える際(計画段階などの構想段階)から活用してみるのはすごく良いのかなと思っています。そうすることで、これまでよりも多くの施策がより住民ニーズに叶うもの(的を射ている施策)になるかもしれませんし、政策形成過程から市民参画を重視することで、より効果的な政策を効率的に作ることができるかもしれないという点で、エリアマネジメント組織との連携は有効だと考えています。
八崎さん、大山さん、阿藤さん、ありがとうございました!!