あたたかいものとつめたいもののはなし
つめたいものが好きだ。
つめたいものは、ひとの手から離れているもの。
腐敗しないようにひんやりしている冷蔵庫、ひとの手を煩わせないようなシステム。
工業製品の、たくさんのひとへの配慮が見られるデザイン。
気を使わせない、さまざまな構造。
あたたかいものが苦手だ。
あたたかいものは、ひとの体温が伝わってくるもの。
ひとのオリジナリティが伝わる作品、個別対応の癖がみられるもの。
この世にひとつだけの、自分をいたわったデザイン。
わたしに気を払う、さまざまな構造。
あたたかいものは、身体にとってよいものだと気がついた。
身体がひとりで作っている体温を、たくさん補助してくれるから。
火がひとの持ち物となった時代から、ぬくもりはひとの象徴になった。
あたたかさはひとの正義になった。
最近はあたたかいものに触れることにしているんだ、と言うと、
「あなたもやっぱり本当は、あたたかいものが好きだったんだね」と言われる。
つめたいものが好きな気持ちを、ないがしろにされたようでさみしいけど、
きっとずっと伝わらないから、「そうかなあ」ってはぐらかしている。
つめたいものたちの美しい無関心を、あたたかいものの熱気で覆い隠すのは、
きっと冒涜的だろうね、と思いながら、
つめたいものとあたたかいものを、両方愛せるようになることを祈っている。
でもほんとうの気持ちはつめたいものなんだ。ほんとだよ。
つめたさを愛だと思っているんだ。
人間の資本が増えます。よろしくお願いします。