オケヨという女・皇嗣家から嫁もらうまで、59年目の人生②~貧民窟から鎌倉へ。オケヨは下駄屋の孫だった
※本連載はドキュメンタリー強めの小説です
※サムネイラスト:カピ子
第二話 オケヨの母は父なし子だった
ネズの神様からお告げを受けて生まれたオケヨは、まるまると太った丈夫そうな子だった。産院で初めて抱き上げたとき、ウメコの腕にはそのずっしりとした重みが伝わり、思わず涙がこぼれた。「ああ、この子は特別な子、、、」と、丸姫さまの言葉を改めて思い出しながら、希望が胸を満たした。
その夜、オケヨが眠る隣で、ウメコはこれまでの人生を振り返っていた。
昭和15年、まだウメコが東京で露店商を営んでいた頃のことだ。当時、彼女と夫・カズヘイの生活は貧しかった。ウメコは狭い路地が迷路のように広がる貧民街に住み、毎朝早くから下駄やジカタビを木箱に詰め、露店を開いた。客は大半が日雇い労働者や同じような露店商の仲間たちで、彼らが支払う数銭がウメコたちの生活を支えていた。
雨が降れば道は泥だらけになり、乾けば埃が舞う。子供たちは裸足で路地を駆け回り、長屋の軒先には洗濯物や布団が干されていた。建物はどれも老朽化が進み、屋根の瓦は剥がれ、窓にはガラスではなく紙が貼られている家がほとんどだった。異臭漂う路地裏で生活は苦しかった。
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