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天上のアオ 10

目が覚める。
相変わらず同じ場所にいるようだ。
真っ暗な空。それをほのかに照らす白い地面。横たわるわたし。

突然、上空のほうからガコンという音が響いた。
続いてバサバサとなにかが落ちてくる音がする。

慌てて立ち上がる。
ここはそう容易く干渉できる場所ではないというのに。
何が起こった?

上を見上げる。白いものが円状に並んで落ちてくるのが見えた。やがてそれは地面の30センチほど上で止まった。

てるてる坊主だ。
しかも人と同じくらいの大きさのものが、わたしを取り囲むようにはるか闇の上空から伸びる縄でぶら下がっている。

揺れるそれらは一様に笑顔だ。だがひどく歪だった。筆で乱暴に描いたような表情をしている。そして一様に目から黒い液体を垂らしている。

その一つに近づいてみた。
ゆっくりと振り子のように小さく揺れている。

ああ、そうか。
嘘つき。
てるてる坊主を吊るす紐は、わざわざこんな縛り方はしない。
これは絞首刑だ。最初に聞こえたガコンという音。あれは執行の音だったんだ。

一つ一つ、首を吊ったてるてる坊主たちを見て回る。言葉が乱暴に書いてある。あの人の思い出と後悔を象徴する言葉たちが。

わたしにこれを見せる意味はなんだろう。
己の記憶を因数分解して、出てきた解のすべてを処刑して。
13体のてるてる坊主は、すべてが彼の記憶と感情を司っている。
楽しかったこと。失った大切なもの。壊した大事な日々。

これはきっと彼なりのバランスの取り方なんだろう。
現実では死ねないから、心の中で死ぬ。
後悔とともに、罪悪感とともに。

ふと、一つだけてるてる坊主が吊られていない縄があった。
仄明るい地面に照らされて、それはあった。

やっぱりそうなんだね。
あなたは死にたいんだ。
その準備がいつでもできているってことなんだね。

これは意思表示だ。
虚無の空間で影がわたしに言ったように。

まあそうか。ここにはいない大勢が賛同しているんだ。
彼の意思はそれなりに固まってきてしまっているのかもしれない。

現実が耐え難いのだろう。
現在が苦しくてしょうがないんだろう。
未来が恐ろしくてたまらないんだろう。

だったら、彼なら、わたしなら、わたしたちなら、やることは決まっている。

彼はそう学んだ。
彼は常にそう願っていた。

前提が違うと影は言っていた。生まれてはいけないものだったと。

てるてる坊主の流す涙が地面を黒く汚す。
なんで泣いてるの。
死にたかったんでしょ?
自分の嫌いな自分を殺したかったんでしょ?
なのにどうして泣いてるの?

てるてる坊主の一つに近づき、その丸い頭を両手で持ち上げる。
瞬間、凄まじい量と質の感情が流れ込んできた。

「…ッ」

慌てて手を離して両のこめかみを強く押さえる。
未練がましいのが本当に彼らしい。
こんなにも想っていたものを殺してしまったのか。

残りの12体も同じだろう。
彼の人生史すべての総算ということか。

廃墟の街で彼と逃げ続けて4ヶ月。
その逃避行は無駄じゃなかったと思いたい。

だっててるてる坊主たちは泣いているんだから。
悲しくて、悔しくて、怖くて、どうしようもなかった。

そっか。死にたいと、死にたくない。
その両極で日々葛藤しているだね。
毎分、毎秒、葛藤に苛まれ続けているだね。

楽しいことがつらいんだね。
でもみんなが楽しそうだから、つらい自分は居づらいんだよね。
楽しかったことを思い出すんだよね。
自分で壊したことをそのたびに思い知らされるんだよね。

それをわたしに伝えたかったから、こうしててるてる坊主たちを寄越した。

わかった。
あなたの気持ちは受け取ったよ。
あなたの叫びを受け取ったよ。

もう少し待っていて。
わたしにはあなたを救うことはできないけれど、守ることはできる。死からなるべく遠ざけることならできる。

だから、もう少しだけ待っていて。
わたしがそこにいくまで。

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