新竪町の小さな花屋「Baton Flower」を営む岡田祥輝さんにインタビュー
2020年○月、金沢市竪町に移転オープンした「Baton Flower」。岡田祥輝さんが店主を務める小さな花屋です。
竪町通り入口のすぐそばの一角にある「Baton Flower」は、一見花屋さんに見えないほどお洒落でシンプル。
花束をはじめ、生け込み、フラワーレッスンなど、幅広いシーンでお花を楽しめると人気を集めているお店です。
こじんまりとした店内には、岡田さんのセンスの良さが伺えるお花がずらり。
店名である「Baton Flower」には、「生きた花の美しさとともに、
人の想いが手から手へと受け渡されていく」イメージが込められているのだとか。
「お花を通じて、いろんな方の"思い"を繋いでいきたかったんです。繋がりの連鎖がたくさん生まれたら素敵だなと思って。」
「Baton Flower」に並ぶお花は、どのお花を組み合わせてもいいように仕入れているといいます。
「原色のお花は組み合わせが限定されてしまうので、あまり入れないようにしていて。色合いの彩度や濃度を一緒にすることによって、お客さん自身で花を組み合わせても統一感が出るようなラインナップにしていますね」
お花を購入すると、包装紙にお花の名前を書いてくれる岡田さん。このちょっとした気遣いも人気を呼ぶ理由なのかもしれません。
「花」に興味がなかった新卒時代
今でこそ、多くの人に愛されている「BATON FLOWER」ですが、ここまでの道のりは、苦難の連続だったといいます。
花屋としての原点は10年ほど前に遡り、新卒で花屋の会社に勤めたのがはじまりでした。
大学時代には、これといって特にやりたいことはなかった岡田さん。
たまたま、就職説明会で聞いたお花屋さんの社長の話を聞いて惹かれたのがきっかけだったといいます。
「最初は本当に苦労しました。お花に全く興味なかったんです。はじめはお花の香りも得意じゃなくて……」
当時は、石川県のとあるスーパーに併設されている花屋に配属されていた岡田さん。積極的に呼び込み営業しなければならなかったのですが、お花の“かわいい”という感覚がわからず……。呼び込み営業すること自体、気恥ずかしく苦手だったといいます。
花に向き合い、仕事に精は出すものの、お花の魅力がどうしてもわかりませんでした。どうにもできず、入社半年で一度辞表を出しましたが、仕事ぶりが高く評価されており、辞めるのを止められたといいます。
「一緒に働く仲間が大好きだったこともあり、辞めずにそのまま仕事を続けることを決意しました。でも何かは変えないと、仕事を続けるのはやっぱり辛くて。
興味がない花に対して、興味を示すにはどうしたらよいのかを考えた時に、もう学ぶしかないと思ったんです。
“かわいい”や”きれい”などの感覚論は僕には難しくて……。お花をかわいいと思える感性がなかったので、お花を基礎から学ぼうと思いました。
お花を活ける黄金比率など、お花の魅せ方を論理的に学ぶことで、その感覚を補おうと思って。そこで必死に勉強したのは、本当に一つの転機でした。」
1年と少しの間、猛勉強にいそしんだ岡田さん。お花の魅せ方がなんとなくわかってきた頃。ある日突然、お店に入ってきたお花に対して「すごく綺麗だな」と思えた瞬間が訪れたといいます。
「花を綺麗だなと思えた瞬間は雷を撃たれたような衝撃で。あの時の感覚は、今でもすごく覚えています。それ以来、ずっと花が好きですね」
さらに苦難が待ち受けていた大阪転勤時代
その後は、石川のとある店舗で店長までのぼり詰めた岡田さん。今度は栄転として大阪へ転勤になりました。大阪では、高級花屋やホテルでのブライダルフラワーに携わったといいます。
「大阪には、2年半ほどいました。これまた波乱万丈なことばかりでしたね。花屋もホテルもどちらも厳しい世界でした。
まず、大阪は石川と規模が全く違いました。お花の値段、予算感、売上。どれひとつとっても桁が違いすぎるんですよね。その感覚についていくだけでもとても大変でした」
大阪という土地に、良くも悪くも揉みにもまれた岡田さん。花に関することを一通り経験できたことに満足し、退職して石川に戻りました。
「大手のチェーン店で働いていろいろと経験できたので。今度は老舗の花屋で働いてみたいと思って。
かなざわはこまちにある「LIBERTINE FLOWER WORKS( リバティーン フラワーワークス)」で3年間ほどお世話になりました。そこでもブライダル事業などにも携わり、いろいろと任せてもらいながら勉強させてもらっていました」
30歳の節目に「BATON FLOWER」をオープン
そして30歳の説目に自分のお店を開業しようと一念発起。2018年8月、西金沢駅にほど近い小さなアパートの一階を岡田さん自身で改装してスタートしたのが「BATON FLOWER」です。
「ゼロからやってみたいという好奇心がむくむくと湧いていたんですよね。開業するのあたって、ひとつもツテがなかったんですけど……。ツテを待っていても、そのツテはいつやってくるかは分からないから……。そんな機会は待っていられなかったんです」
覚悟を決めた岡田でしたが、いざお店を始めてみるも、うまくいかないことだらけでした。
開業一年目に貯金を使い果たし、借りたお金もなくなってしまったため、当時持っていた車を売却。そこから週5日間、お店の営業時間後に食品会社の仕分け作業のアルバイトを深夜までこなし、ごまかしながら気づけば2年が過ぎていきました。
そして、新竪町にお店を移転させた3年目。ようやく花が咲きます。
「今年の8月でお店を構えて4年目を迎えたんですけど……。最近なってやっと食べていけるようになりました。
お店をはじめてから毎日胃がキリキリでしたね。苦労の連続で……。どん底も味わい、それだけ苦労してきたという自負があるからこそ、本当些細なことに幸せを感じられるんです」
想像を絶する苦労や、この絶え間ない努力こそが、センスあふれる今の岡田さんを生み出しているのでしょう。
「花屋は、何か特別大きなことがない限りずっと続けていくんだろうなと思っています。純粋に楽しいんですよね。『花』そのものの魅力にもうどっぷり浸かってしまいました。
花束を作ってる時間も好きですね。正解がないからこそ、どうやったら綺麗に見えるんだろうなっていことをずっと考えてるのが楽しいです。毎日新しい発見がたくさんあります。自分の作ったものがお客さんに届いたときは、とても嬉しいです。」
そんな今の岡田さんの営業スタイルは、「売らない」ことだといいます。
「最近は、昔の反動からか、お客さんに売らなくなったんです。
お花は、普段あまり買わないものだと思います。だからこそ、お店でお花と触れ合う時間を大切にしてほしいんです。
だからできるだけ自分の姿を消すようにしている。必要だなと思ったタイミングでは声かけますけど。あまり話しかけないスタイルにしてます。」
自分のスタイルで挑戦していきたい
今後は、自分の見える範囲でできることに挑戦していきたいという岡田さん。自分の見える規模感の中で、少しずつ自分のやりたいことを仕事の幅が広がればといいます。
「今は、信頼して任せてくださる目の前のお客さんのオーダーに全力で応えていきたいですね。それがちょっとずつ、いろんな仕事に繋がればいいなと思っています」
ひたむきに努力を重ねてきた岡田さん。その人柄も合いあまって「Baton Flower」は、これからも多くの人に愛されるのでしょう。
岡田さん、そして「Baton Flower」の挑戦はまだまだ始まったばかりです。