スペシャルティコーヒーショップ「townsfolk coffee」を営む鈴木辰一郎さんにインタビュー
2020年7月にオープンしたスペシャルティコーヒーショップ「townsfolk coffee(タウンズフォークコーヒー)」。玉川図書館すぐそば、住宅街の一角にぽつんと佇んでいます。今回は「townsfolk coffee」を営む鈴木辰一郎さんに、こだわりのコーヒーやお店についてお話を伺ってきました。
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豆の個性が際立つスペシャルティコーヒー専門店「townsfolk coffee」
2020年7月、金沢市高岡町にオープンしたスペシャルティコーヒーショップ「townsfolk coffee」。本場デンマークで修業された鈴木辰一郎さんが店主を務める「スペシャルティコーヒー」専門店です。
場所は、住宅街の一角。玉川公園が目の前にある、見晴らしのよい地に店を構えます。
ドアを開けると、コーヒーの芳ばしい香りがふわり。
デンマークのインテリアで揃えられた暖かみのある空間は、鈴木さんの思い出が映し出されたよう。
交差点を行きかう人々をぼんやり眺めながら、ゆるやかなひと時を過ごせます。
浅煎りのコーヒーを味わえる「townsfolk coffee」。厳選されたコーヒー豆を自家焙煎したスペシャルティコーヒーが自慢です。
「ハンドドリップ」をオーダーすると、カップとともに淹れたてのコーヒーが運ばれてきます。
カップは、鈴木さんがデンマークで出会ったお気に入りのブランド「MK STUDIO」のもの。
「デザインやカラーも美しい、このカップで提供したいと思いました。コーヒーは器の厚みや形状でも、感じる味や口当たりが変わります。このカップは、コーヒーがスムースに口に入ってくるところもお気に入りです。」
約6種類のコーヒー豆は、時期によってラインナップが変わっていくため、訪れる度に新たな味と出会える楽しみもあります。
「コーヒーは農産物なので、毎回同じ味わいのものが手に入るとは限りません。この1年で取り扱った豆の種類は20弱くらい。お客様が楽しめるよう、味わいのバリエーションを考えながら、その時々のラインナップを取り揃えています。」
新しい豆を取り入れる際は、必ずサンプルをもらって味を試すという鈴木さん。
「スペシャルティコーヒーの品質であることは前提ですが、テイスティングしてみて美味しいと思ったもの、これはお客様に飲んでもらいたいなと思ったものだけを取り扱っています。当たり前ですが、自分が美味しいと思う豆以外はお客様に出したくないです」
コーヒーの世界にハマったきっかけは、スペシャルティコーヒーから受けた衝撃
「自分が美味しいと思うコーヒーが『スペシャルティコーヒー』だったんです。」と語る鈴木さん。
10年ほど前、下北沢で出会った「スペシャルティコーヒー」を飲んだことをきっかけに、コーヒーの世界へ足を踏み入れました。
「『スペシャルティコーヒー』特有のフルーティーな味わいにびっくりしたんです。今まで飲んでいたコーヒーとは違うおいしさに引き込まれたんですよね」
スペシャルティコーヒーって?
消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。
出典:一般社団法人 日本スペシャルティコーヒー協会
「仕事をしていく上で、自分がおもしろいと思うことを仕事として、熱意を持ち続けて取り組みたいという気持ちが強くなった時期がありました。自分にとって、それはコーヒーかもしれないと思ったのです」
コーヒーの世界へ挑戦しようと決めた鈴木さんは、まず東京にある「NOZY COFFEE(ノージーコーヒー)」でバリスタの経験を積みました。
その後、コーヒーの本場であるデンマークへと渡ります。
「コーヒーの仕事を始めた当初から、いずれは独立したいなと思っていました。もう一歩上のステップへ行き、経験を積むには海外だなと。
日本より海外の方かコーヒー文化が根付いているので、本場を体感してみたかったんですよね。そこでコーヒーの本場であるデンマークへ行くことに決めたんです」
デンマークには2年弱いたという鈴木さん。言葉の壁は苦労したそうですが、楽しかった思い出ばかりだと言います。
「日本とデンマークとの圧倒的な違いは、コーヒーを飲む量です。
通勤前にふらっとコーヒーを買いにいく。これはデンマークでは日常の光景。毎朝コーヒーショップにはたくさんの人が溢れてました。」
デンマークから日本へ戻るタイミングで鈴木さんは、出店場所を検討しはじめました。
「東京や大阪、福岡などの都会には、すでのスペシャルティコーヒーのお店が乱立していたんです。そこにスペシャルティコーヒーのお店が1つ増えたところで、お客さんにとっても自分にとっても、あまり面白くないと思ったんですよね。
そうであれば、スペシャルティコーヒーがまだあまり根付いていない街でやりたいと思っていました」
そんな中、目につけたのが金沢でした。
「金沢の街の規模も程よさそうに感じました。コンパクトだけれど小さいわけでもなく、退屈さもない。都会すぎず田舎すぎず、ちょうどいい。そういった点が魅力に映ったんです」
金沢へは旅行で足を運んだことがあった鈴木さん。観光で訪れた時に感じた心地よさを思い返し、金沢に腰を据えることに決めました。
観光地から少し外れたこの場所に店を構えた鈴木さん。
「金沢に出店することは決めたものの、観光客向けにお店を出すことは考えていませんでした。金沢の街の人たちにスペシャルティコーヒーを楽しんでもらいたかったので、街中だけれど、観光地ではないこの場所を選んだんです」
「スペシャルティコーヒーを地域に根差したい」という、鈴木さんならではの想いを聞けました。
コーヒーとは「やりがい」を感じるもの
味に影響する要素がたくさんあるスペシャルティコーヒー。ひとつひとつの過程をはじめ、季節や湿度などの環境によっても味が変わってしまうのだそう。
「味に影響を与えている要因を考え、状態を判断しながら、修正する力がとても大切です。目指す味にするための、明確な方法がないからこそ難しい。自分の舌を信じながら、仮説をたて、検証していくしかないんです」
味がはっきり出やすい浅煎りコーヒーだからこその難しさを教えてくれました。
「難しいからこそ、自分が満足いく味に仕上げられた時、とても嬉しいです。コーヒーの楽しさはここにありますね。僕にとって、コーヒーとは“やりがい”なんです」
コーヒー1杯に込められた熱い想い
コーヒーを淹れている時、どんなことを考えているのかを聞いてみました。
「何かを考えているというよりか、コーヒーの状態をみていると言った方が近いかもしれません。
どうやったらベストな状態になるか?ドリップしている時はお湯の落ち方や湯を注ぐスピードをみていますね」
コーヒーに真摯に向き合う鈴木さんだからこその味わいが、多くの人を笑顔にしているのでしょう。
「コーヒーを美味しいと言ってもらえるのは嬉しいですね。ここで飲んでからコーヒーを好きになったと言われたときが1番嬉しかったです。
自分の原点もスペシャルティコーヒーなので。自分の体験した感覚が伝わったようで嬉しいです」
今度は、自分がスペシャルティコーヒーの魅力を誰かに届ける側に立った鈴木さん。
コーヒーバッグやシロップなど、オリジナルの商品を作った背景にも鈴木さんならではの想いがありました。
「日常的にコーヒー豆を挽いてコーヒーを飲む人ってまだまだ少ないと思うんですよね。
普段は家ではコーヒーを飲まない人でも、手軽に本格的なスペシャルティコーヒーの風味を楽しんでもらいたいなと思ったんです。」
気軽に寄って味わう一杯で、日常をより豊かに
目の前にある交差点のように、街の人と外から来た人が混じり合う「townsfolk coffee」。
常連さんから、コーヒー好きな方、観光客などいろんな方が訪れます。
「1人でゆっくりしている人、友人と楽しくおしゃべりしている人など、みなさん過ごし方はさまざまですね。
この場所で、いろんな方が混じり合っているのがとても心地よいんです」
一見想像できない深い思いが込められている1杯。きっと、今日も鈴木さんが淹れるスペシャルティコーヒーに魅了される人がいるのでしょう。
ゆるやかな時の流れに浸らせてくれる1杯は、日常がより豊かになるはず。
日常的に訪れたくなる、ホッと落ち着く味と空間に癒されてみてはいかがでしょうか。
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vol.1 【townsfolk coffee】香りと空間に思いを馳せて。コーヒーバッグから始まる1日
townsfolk coffee
住所:石川県金沢市高岡町22−18
営業時間:平日9:00-16:30 / 土日祝9:00-17:30
定休日:月・木(祝日の場合営業)