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朗読劇『ハロルドとモード』観劇メモ

 2020年から毎年秋に上演され、今年で5回目を迎える黒柳徹子さん主演の朗読劇『ハロルドとモード』。79歳のチャーミングな女性と19歳の青年の異色ラブストーリーですが、毎年スタエンのタレントから徹子さんの恋人ハロルド役が抜擢されることでも話題です。
今年のハロルドはtimeleszから松島聡さんが初の朗読劇参加。2022年に佐藤勝利さんが選ばれて以来、同じグループからのキャスティングは初めてですね。

 ありがたいご縁をいただき『ハロルドとモード』の東京公演を観劇することが出来ました!
 X(旧Twitter)で「勝利くんのハロルドを見た人の感想も聞きたい」という投稿をお見かけして、その方に届くかどうかは分からないのですが観劇日記として残しておくことにします。
 別キャストのハロルドを鑑賞することが叶ったので、松島版ハロルドと佐藤版ハロルドを比較するような記載も出てくると思います。苦手な方は読まないようにご留意ください!


朗読劇『ハロルドとモード』とは

 朗読劇『ハロルドとモード』のあらすじを説明して! ともし頼まれたら「79歳の破天荒な女性モードと19歳の狂言自殺男性ハロルドが赤の他人の葬式で偶然出会って、モードの型破りな価値観にバキバキに刺激されながら、ハロルドが未知の世界への恋に落ちるオープンマインドで世界平和を願う話だよ」と説明すると思う。

 映画版や、脚本家が自ら執筆したノベライズでは二人の所謂「性愛」の部分もピックアップされていると聞きますが、正直、朗読劇を鑑賞した限りではそういう男女の生々しさみたいなものは一切感じられず、ひたすら「生きとし生けるものの愛」とでも言うべき優しい感情に包まれることになります。でも19歳の若い男性ハロルドが、モードのことをまっすぐ愛して、そして彼女の魅力に人生最大の恋をしているのは伝わってくる。徹子さんご自身のかわいらしい魅力と、聡ちゃんの表現力の賜物だと思います。周りの演者さんもピアノ演奏の演出も本当にすごい!

 朗読劇とは言うものの、徹子さんはモードに扮して舞台上で存在感を放っておられるし、他のキャストさんもそれぞれの役のビジュアルで登場するし、何ならめちゃくちゃ動く。聡ちゃんは特に身振り手振りが大きく、表情もずっと変化しているので ”立ち位置(座ってるけど)が固定されている舞台” くらいのテンションかも。

 演者さんが横一列に座る大きな長机が舞台中央にあり、その奥にグランドピアノがあります。演出音楽はこのピアノが担っていて、最高の生演奏を朗読に合わせて聴けることも魅力。
 とにかく空間全ての力を使って作中キャラクターの魅力を伝えてくれる、何よりハロルドと一緒に観客もモードに恋をしていくようなつくりになっていて、観劇後は身体の真ん中あたりがじんわり温かくなるような作品です。ボロッボロに泣くけど。でもそれは決して悲しい涙じゃなくて、何て言うんでしょうね、優しさに泣くというか。モードの言葉を借りると「美しいものを見て、私は泣くの」という感じなんですよねェ~~~~!!!! 美しいものを見て泣ける豊かな心の人間でありたい……。

 モードとのやり取りの中で、彼女への気持ちが溢れて、聡ちゃんが涙を流している場面がたくさんありました。
 カテコの挨拶(10/9に鑑賞しました)でも「泣いてはいけない場面で泣いてしまって……」と少し照れながら話していた聡ちゃん。そんな聡ちゃんを温かく見守る徹子さんと共演者のみなさん。本当に温かい時間でした。

 徹子さんが「こんなに素敵なハロルドが見つかって、また何十年後かも一緒にやりたい」と仰っていてとても感動しました。聡ちゃんも「是非呼んでください!いつでもハロルドになります!」と嬉しそうで。
 それに対して徹子さんが「でも聡ちゃんも大きくなっちゃうから……」と返されていてほっこりでした。聡ちゃん大きくなっちゃうから(愛)。

モードの魅力

 モード、所謂「おもしれー女」に該当するキャラクターなのですが、人生経験が豊富なだけあって厚みがすごいです。そしてずっとさっぱりしていて気持ちがいい。
 モードのどこに惹かれたか、どんなところを魅力に感じたかを話すことって、自分の考えがつまびらかに明かされるような気がしてちょっと恥ずかしいんですよね。そのくらい透き通っていて、こちらの心を写し出す鏡のような女性だなと思います。

 印象的な彼女の台詞はたくさんあるのですが、やっぱり「80歳は人生として長すぎず短すぎず丁度いい」とあっさり言ってのけるところや、常識にとらわれているハロルドに都度「どうして?」と投げかけるところ、そしてそしてモードが入院したときに親族や親しい人、住所を尋ねられそれぞれ「人類」「地球」と答えるところに、彼女の人間としての器の大きさを感じます。
 ハロルドがモードの腕に収容者番号を見つけるシーンは、ごくごく短い時間のやりとりではありますが、彼女の壮絶な人生が垣間見える重要な場面で、わたしたちも、そしてハロルドも目を逸らさずに受け止めることを求められているような気がしています。

 あとね~、ラストシーンでモードがハロルドにプレゼントを遺すのですが、それが「鍵の束」なんですよ。作中では色んな車を動かす最強アイテムとして使われているのですが、鍵っていうのがいいよね、自動車のエンジンをかけるにしろ、扉を開くにしろ、前向きなメッセージに満ちていて、モードらしくて。

ハロルドの違い

 演じる人が変わっただけで、こんなに違うのかと正直驚いたのがハロルドです。むしろ意図的に、役者に合わせて演出をガラッと変えてるのかな? と思うくらい。舞台って本当に面白いですね~!

 松島聡さんのハロルドは、愛をくれない家族に失望して、自分の人生や世界にも失望して、狂言自殺のトリックを考えているときは少し楽しそうだけどそれでもやっぱりどこか虚しそうで。個人的には「諦め」の感情が色濃いハロルドだなと思いました。
 それがモードと出会い、彼女の常識に囚われない生き方に触れて、世界がどんどん鮮やかに色づいていく様子が、聡ちゃんハロルドの瞳のキラキラ度合いで分かる。木に登って夕焼けを見るシーンなんて、ハロルドが恋に落ちる音がするんじゃないかと思ったレベルでかわいかったもん。
 序盤のハロルドは本当に目が死んでるのでそのギャップも合わせて最高……。

 佐藤勝利さんのハロルドは、2年前の観劇の記憶だしかなり補正も入っちゃってるかもしれないんですが、とにかく母親に愛されたくて仕方ないハロルドだった。世界とかそういう外の視点はあまり持ってなくて、どちらかというと自分の趣味(仕掛けづくりが趣味なのかと思ってた)と母親しか存在しない場所に生きていて、それなのに母親に愛してもらえなくてもがいている子供という印象でした。ゴリゴリの主観だけど「寂しさ」の感情が濃いハロルドだなと思った。
 佐藤さんより聡ちゃんの方がちょっと大人っぽいハロルドだなと最初に思ったんですよね。家に固執してるかしてないか、原因はここかな~と思ってます。

それぞれの好きなシーン

 聡ちゃんハロルドでわたしが一番好きなシーンは、母親に銃口を向けるところなんですが、ここ本当にめちゃくちゃよかった、オタクが観る夢でした……!! 目が据わってて、覚悟も決まってて、あそこで本当に母親を殺したんだと思うくらいすごい空気だった。実際はおもちゃの銃だし、その後自分のこめかみに当てて何回目かの狂言自殺をするだけで、現実は何も変わらないんだけど、その後母親の言動にあまり一喜一憂しなくなったな~と思ってしまった。モードに出会って生きることを知って、自分を縛り付けていた母親の呪縛を解き、そしてモードに恋に落ちる。ハロルドの人生の価値基準が、母親に認めてもらうことから別のものに差し変わった気がしました。
 あまりにも美しい流れのハロルドの自立シーンだと感動しました。

 佐藤さんのハロルドで一番好きなシーンは、徴兵されたくないがゆえに陸軍のおじさんを騙すところでした。干し首を戦利品として自慢するハロルドがよくて……佐藤さんの狂気が本当によくて……!!
 婚約者とのお見合いを狂言自殺で反故にしていたことと、本質的にはやってることは変わらないんだけど、このシーンってハロルドが初めて ”母親の提案に自殺以外の方法で反抗した” シーンなんですよね。それもモードと一緒に考えた方法で。(多分)(自信なくなってきた)
 狂言自殺のために開発した装置:超小型ボンベを、自殺演出のためではなく、モードを逃がすために使ったというのもいい。ハロルドの情熱が、趣味にしていた色んな仕掛けづくりが、自殺以外に活かされた初めてのシーンとしてめちゃくちゃ印象に残ってます。違ったら本当にごめん。

 わたしはハロルドが母親から解放されるシーンが好きなんだな……。あのお母様もね、別に悪人ってわけでもないんだけどね~!

ハロルドのギター

 ハロルドは劇中、歌もダンスも楽器も嗜んだことがなく、モードに出会って初めて芸術の世界を知ることになるのですが、印象的なのがギターと歌によるセッションです。

 聡ちゃんは、音楽に初めて触れたときの感動が10000%伝わってきて、モードの歌を聞いてるときも、自分で歌ってるときも、モードと一緒に歌ってるときもずっと楽しそうで、もちろんギターも(大変だっただろうけど)楽しそうに、でもたどたどしく一生懸命弾いてて、めちゃくちゃかわいかったです。そして歌が上手すぎる。あまりにも歌が上手くて、モードをリードするような、包み込むような歌い方であんなのモードも好きになっちゃうってえ……//// となりながら聴いていました。これまた幸せそうな声で顔でお歌いになるんですよ、モードのことが好きですからねハロルドは。そして本当に歌が上手い、最強です。

 佐藤さんは、ギターをちょっと拙く弾いていたのですが、音ちゃんと全部しっかり出ててすごかったです。ギター弾ける人だ……ってなりました。(当たり前)
 初心者のハロルドらしくゆっくりと弾いてたんですが、メロディーやリズムを大きく崩すことはなく、モードに合わせて歌うときも、あくまでも徹子さんとのハーモニーを楽しんでいるといった様子で、モードに寄り添った歌い方をされていて、や、優し~~~~~!!!!! このハロルドどこまでも優し~~~~~~~~!!!!!!!!!!!! となった記憶があります。当然歌が上手いしギターも上手い。調和のハロルド。

 聡ちゃんも佐藤さんも寄り添いの鬼、気配りの化身みたいなところがあるので、それぞれの差は2年間という時間の差かな~とも思っています。2022年は長台詞の後に聴こえてくるような徹子さんの呼吸音でしたが、2024年はかなり頻繁にマイクが拾っていたので……。どうかいつまでもお元気で、変わらぬご活躍を拝見出来るよう祈るばかりです。

完全な蛇足

 2022年観劇当時の感想を、Twitter(現X)のサークル機能に書き散らしていたので載せておきます。かわいいしか言ってないんですけど……。